遺言、相続に強くなる!

6-2 遺言書の弱点を解決する方法は?


このように、遺言書にはさまざまな弱点がありますが、それを解決するための方法がいくつか考えられます。

<遺言執行者を指定する>
1つめは、遺言が確実に実行されるように、遺言執行者を指定することです。基本的に、財産を受け取る人(相続人や受遺者)を遺言執行者に指定すれば、遺言の内容を実現するために最大限、努力するはずです。

ただし、その人の気が弱かったり、他の相続人のいうがままになるおそれがある場合は、信頼できる別の親戚や友人等に頼んだほうがいいかもしれません。もし、遺言の内容が、他の相続人の不利益になるものだったり、不動産を売却換金してから相続させるなど執行が難しそうな場合は、弁護士等の専門家に依頼したほうがいいでしょう。

<スピーディに遺言を執行する>
2つめは、遺言をした人が亡くなったら、できるだけすみやかに遺言書に従って、不動産の名義変更を行ったり、預貯金を解約するなどして、誰かが勝手に遺言に反する行動をとれないようにすることです。遺言書を作ったら、配偶者など信頼できる人に遺言書の存在を伝え、自分の死後、できるだけ早く執行するように頼んでおきましょう。

<「遺言書」ではなく「契約書」にする>
確実に死後、相手に財産をあげたいのなら、簡単にくつがえせる遺言書ではなく、相手との合意が必要な「契約書」を生前に作成するのもひとつの方法です。その際には、法律的な問題や、場合によっては税金の問題もからんでくるので、なるべく弁護士や税理士など専門家のアドバイスを受けて作成したほうが安心です。

●死因贈与契約
将来自分が死んだら、相手に特定の財産を贈与するという契約を、「死因贈与契約」といいます。
ひとりで作れる遺言書と異なり、契約は双方の合意にもとづくため、あとで一方が勝手に取り消す(撤回)ことはできないのが原則です。しかし、死因贈与は遺言書による遺贈と同じように、あとで一方的に取り消すことが可能です。
「それじゃ遺言書と変わらないのでは?」と思うかもしれませんが、違う点が2つあります。1つは、所有権移転の仮登記ができることです。ただし契約が取り消されると、仮登記は意味がなくなります。

2つめは、死因贈与契約を「負担付き」にすることで、取り消しができなくなる場合があることです。たとえば、死後子どもに財産をあげる代わりに、「生前、母親と同居して生活の面倒を見る」とか「家業を継ぐ」
等の負担を付けて、実際に子どもがその通りにすれば、その後、親が契約を取り消すことができなくなると考えられます(子どもへの不利益が大きいため)。

もし、日頃から子どもが親と同居して世話をしていて、「自分が死んだら、この家はお前にあげる」と言われたような場合は、それをきちんとした契約書にするよう、親に頼むといいでしょう。

●生前贈与契約
死後ではなく、生きているうちに財産をあげる契約を結び、実際に財産を渡してしまえば、相手は確実に財産を手に入れることができます。
ただし、いったん生前贈与を実行すると、原則として取り消すことができません。相手が、もう財産をもらったからと慢心して、贈与をした人の世話をしなくなるおそれがある点には、注意が必要です。
また、気前よく贈与をしすぎて、高齢期の生活費や介護費用が足りなくなったら本末転倒なので、マネープランをしっかり立ててから贈与するようにしてください。
生前贈与には、相手との関係や目的によってさまざまな方法がありますが、次のような方法で節税することも可能です。

・暦年贈与
年間110万円までは贈与税が課税されないため、それを利用して、その範囲内で贈与を行います。毎年同じ金額にすると、実態はまとまった金額の分割払いだと税務署に疑われて、贈与税が課される可能性があるので注意が必要です。

・さまざまな特例制度
子や孫に対する「教育資金」、「結婚・子育て資金」、「住宅取得等資金」など、贈与税が一定額まで課税されない贈与税の特例制度があります。要件が複雑なので、国税庁のホームページなどで確認してください。

●家族民事信託
ここ数年、利用が急増しているのが、家族間の民事信託です(ここでは家族民事信託と呼びます)。これは簡単にいえば、自分の財産を生きているうちに家族に管理運用してもらって収益を受け取り、死後はその財産が家族のものになるという仕組みです。

たとえば、次の図のようなやり方が考えられます。委託者である父親が、受託者である長男にアパートの管理を託して、賃料は受益者である父親が受け取ります。父親の死後は、長男が不動産を確定的に自分のものにすることができます。

こうすれば、たとえ父親が将来認知症になった場合でも、長男がアパートを管理するため支障はなく、父親の死後はそのまま長男が財産を承継できます。イメージとしては、成年後見制度 (判断能力が低下したときの財産管理) と、遺言書(財産承継)の2つを合わせたようなものだと考えてください。

なお、アパートを長男に信託すると、その名義は父親から長男に変更されますが、実質的に父親のものであることに変わりはないので、長男に贈与税は課されません(ただし、受益者を誰にするかなど、信託のやり方によっては課税される場合があります)。

また、父親の死後、代わりに母親がアパートの家賃を受け取るようにしたり、将来、長男ではなく孫がアパートを引き継ぐことも可能です。家族の事情にあわせて、柔軟に設計できるのが家族民事信託の強みです。

<家族民事信託のメリット、デメリット>
[○メリット]
・財産の運用や金融機関からの借り入れも可能
成年後見制度では、本人の財産を守るための財産管理処分しかできませんが、家族民事信託は、本人の判断能力が低下したあとも、信託目的に沿って財産を運用したり、不動産の大規模修繕などのために金融機関から借り入れをすることも可能です。
・定期的に決まった額を支給できる
遺言書の場合、亡くなった時点で一度に多額の財産が受遺者のものになるので、相手が浪費家だったり、財産の管理能力がない場合、すぐに財産を使い果たしてしまう危険があります。家族民事信託を利用すれば、月々10万円などの定額を支給できるので、そのような心配がありません。

[×デメリット]
・一般的に、節税効果はないといわれている
・受託者の負担が大きい
・農地や畑は事実上信託できない
・信託を設定するために弁護士などに支払う費用がかかる

<家族民事信託はこのような人に向いている>
[賃貸物件を所有していて、相続人が2人以上いる]
アパートが2軒しかないのに、子どもが3人いるような場合、うまく遺産分けをするのは至難の業です。このような場合は、しっかり者の子どもに2軒とも信託して、親の死後は、賃料を3人で分けあえる仕組みを作るといいでしょう。

[障がいのある子どもがいて、将来、兄弟姉妹に面倒を見てほしい」
このような場合、障がいのある子どもにたくさん相続させたいと希望する親が少なくありません。しかし、多額の遺産をその子どもが受け取ってもうまく活用できず、将来その子が亡くなるまで塩漬け状態になったり、盗まれたりして不本意な結果になる可能性があります。健常者の兄弟姉妹にある程度の財産を信託して、障がいのある子どもに定額を渡すようにしたほうが、親の財産を有効に使えるのではないでしょうか。

<ここに注意!>
・受託者は信頼できる人になってもらう
信託された財産を使い込んだりしないように、しっかりと財産管理ができそうな人を受託者にする必要があります。

・専門家に相談する
信託は遺言書と違って仕組みが複雑なので、一般の人が信託のひな型をもとに自分で信託契約書を作るのはまず無理です。また、契約後、不動産の登記をしたり専用の預金口座の開設も必要なので、必ず弁護士など信託を取り扱っている専門家に依頼しましょう。

・専門家は受託者にはなれない
受託者は営利目的ではない親族などがなるのが原則です(ただし報酬を受け取ることは可能)。弁護士などの専門家は受託者になれませんが、信託を監督する人や受益者の代理人になることは可能です。

・遺言書や任意後見契約も必要
家族民事信託がカバーするのはあくまでも財産管理だけです。判断能力が低下したときの介護保険の手続きなどの身上監護については、別途、後見制度を利用する必要があります(次ページ参照)。また、農地など信託できない財産については、遺言書を利用して家族に相続させる必要があります。

・信託契約書は公正証書にする必要がある
遺言書や任意後見契約書などを信託契約書と同時に公正証書で作成するようにすれば、必要書類が共通するため効率的に作成できます。

<遺言書以外に作っておくと役立つ書類>
あくまでも遺言書は、自分の死後、産をどのように分けてほしいかを指示するためのものです。その前段階である高齢期の財産管理や、死後の葬儀などについて希望がある場合は、別途、次のような書類でカバーする必要があります。

●財産管理等の委任契約書
誰でも年をとると、目や手足、腰など身体面で問題が生じ、寝たきりになる可能性もあります。自分で銀行に行って定期預金を解約したり、市役所で住民票を取得できない場合は、信頼できる家族などに委任状を渡して手続きしてもらうことになりますが、身体が不自由になり、委任状を作れない場合は困ったことになります。

そのような場合に備えて、あらかじめ、金融機関や市役所の手続きなど、いろいろなことが代理できる包括的な委任状を作っておくと便利です。これを「財産管理等の委任契約書」といいます。公証役場にひな
型があるので、興味がある人は入手するといいでしょう。

●任意依見契約書
身体能力ではなく、判断能力が低下した場合に備えるのが、「任意後見契約書」です。財産管理等の委任契約書と同様に、財産管理や介護保険の手続きなどが行えます。将来、この契約が効力を生じるときは、すでに本人の判断能力が低下しているため、「銀行に行ってお金をおろしてこなくては」などと後見人が判断しなければならないのが財産管理等の委託契約書と異なる点です。公証役場では、「財産管理等の委任契約書」と「任意後見契約書」をまとめて1つの契約書で作ることが可能で、これを「移行型の任意後見契約」といいます。

●尊厳死宣言書または終末期医療等の宣言書
高齢や病気などにより、回復が見込めない脳死状態になったような場合に、胃ろうなどの延命措置をどうしたいかを医療関係者に対して伝えるための書類です。万一のとき、子どもたちを悩ませたくない場合は検討しましょう。

●死後事務委任契約書
自分の死後、葬儀や家の片づけなどを誰かに依頼したい場合に、相手と合意のうえで作成します。その際の費用をどうするのか(遺産から払うのか事前に預けるのか)も決めたほうがいいでしょう。特に、死後の事務処理を行う親族がいない独身者は、信頼できる友達やNPO法人などに依頼して契約書を作成しておくと安心です。

 


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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