『相続実務のツボとコツ』

5-8 「非」上場株式の承継手続きとその注意点は?


<「非」上場株式について>
一般的に「株式」というと証券会社を介して売買を行う「上場株式」がイメージされますが、世の中のほとんどの株式会社は「非」上場の株式会社であり、さらにその多く(ほぼ全て)の場合は、「非公開会社」といって、自由に株式の譲渡ができない「譲渡制限付き」の株式となっています。そのため、「非」上場株式を相続したとしても、「証券取引所で取り扱われない(=市場価格が形成されない)」かつ「自由に譲渡ができない」ため、承継した人が「換価」する方法はかなり制限されます。
なお、この「非」上場株式を保有している例は、概ね次の3つの場合が多いです。

 

①株式会社を自ら出資して設立し、創業者として経営していた
②非上場会社に勤めており、「従業員持株制度」を利用して購入していた
③友人や取引先の頼みで、株式会社の発行株式を引き受け、出資していた

 

このうち、①の場合において、現在も企業活動を継続しており、後継者がいるような場合は、株式の割合(議決権割合)によっては、その「経営権」にも影響を及ぼすため、現経営陣にとっては「なんとしても回収したい」と考えている場合があります。

 

このような場合は、会社側も欲しいわけですから、(買取に要する現預金があれば)買取の意思表示を示してくれることが期待できます。但し「株価(この場合の株価は、上場株式とは異なり市場取引価格ではなく、決算書等を基に算出した金額を言います)」やその「株価」に基づいた「買取金額」を巡ってトラブルになることも多いです。

<非上場株式の承継手続きの流れ>
遺産である「非」上場株式を発行している会社と、相続された方との関係性により、連絡方法や注意点は異なりますが、ここでは最も多い事例であろう上記①の【故人が保有していた「自社株式」を、経営に携わっていない相続人が相続してから売却する方法】について、その承継手続きを説明します。

 

①まずは「非」上場株式を発行している会社の管理部門へ問合せ
ある程度規模が大きい企業であれば、「法務部」が「株式名簿」の管理・保存を行っているはずです。規模が小さい企業でも「総務部」があれば、きちんと「株主名簿」が整備されているはずです。実際にちゃんと整備されていない企業も少なくないですが、法律上は「株主名簿」はすべての株式会社に作成・備付義務があります(会社法第121条)。

②「相続したことがわかる書類一式」を提供し、株主名簿の書き換えを請求
相続したことがわかる書類とは、原則として、次の書類です(※書類の提出は写し(コピー)で足りる会社が多いですが、原本の提示(や提供)が必要なこともあります)。これらの書類で、相続人が相続を原因として株式を承継したことを立証し、「株主名簿」を書き換えてもらいます。書き換えが完了すれば、株式の承継手続きとしては完了となります。

 

①相続人確定書類
(被相続人の死亡から出生まで遡る戸籍謄本・改製原戸籍謄本・除籍謄本、全相続人の戸籍抄本等)
② (有効な)遺言書
③ (有効な)遺言書が存在しない場合で、かつ相続人が複数いる場合は、相続人全員の署名捺印のある遺産分割協議書
④遺産分割協議書に押された印鑑が実印であることを証明する「印鑑証明書」

 

なお、「相続」は「譲渡」ではないため、たとえ譲渡制限付き株式であっても、相続する際に会社側の承認は不要です。ちなみに平成18年5月1日に施行された「会社法」では「株券を発行しない」ことが原則ですので、手元に株券がない場合が多いです。株券がないからといって株式を保有していないわけではありません。

 

③相続した後の売却先を自ら探す又は会社に買い取ってもらえるか交渉する
「非」上場株式は「譲渡自体が禁止」されているわけではなく、あくまで「承認を要する」として制限されているに過ぎません。どういった承認が必要かについては会社の「登記事項証明書」から確認することが可能ですが、譲渡先を自分で見つけ、会社に対して譲渡承認請求を行う方法があります(会社法第136条:株主からの承認の請求)。もっとも、ある程度価値のある株式でなければ、第三者への譲渡が難しい(欲しがる人がいない)ため、そのような場合は会社に相談することになります。場合によっては、会社法に詳しい「弁護士」に依頼することも検討した方がよいでしょう。うまく合意に至れば、売買代金として「換価」可能となります。また譲渡所得税などについては、予め税理士にもご相談ください。

 

④企業側における「売り渡し請求」とは
「非」上場株式の相続人が、現在の株式会社にとって好ましくない場合があります。特にその議決権割合によっては、例えば取締役を解任したり、新たな取締役を就任させたりすることも可能になるためです。そのような場合に、会社側から「売ってくれ」と言っても、相続人が「その金額では売れない」「そもそも売りたくない」と言われてしまうこともあり得ます。このような事態を想定して、本来は生前からきちんと対策を行っていくことが望ましいですが、会社法第174条~第177条の規定に従い「相続人等に対する売り渡し請求」を行う手法があります。

<相続人等に対する売り渡し請求を利用するための3つの要件>
①対象の株式が「譲渡制限株式」であること
②「定款に」売渡請求ができる旨の内容を定めていること ※相続開始後に変更可
③会社による自己株式の取得が「財源規制」に違反しないこと

 

この制度による「売渡請求」を受けた相続人は、この売渡請求自体を拒絶することはできません(価格については交渉が可能です)。なお、本著は会社法に関する書籍ではないため、詳細は専門書に委ねますが、この制度を用いることによるリスクなどもありますので、会社法に詳しい司法書士や弁護士にご相談のうえ、進めることを推奨します。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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