『相続実務のツボとコツ』

5-7 上場株式の相続ってどうすればいいの?


<証券会社から届く「取引残高報告書」を確認>
上場株式を故人が保有している場合、その株式の取引や管理を任せている「証券会社」から、最低でも1年に1回以上、「取引残高報告書」が届きます。この書類を見れば、基準日において「その証券会社において」どの銘柄をどれだけ所有し、管理を任せていたかがわかります。そのため、上場株式の所有の有無については、まずは「死亡日より前の直近の基準日の)取引残高報告書」の送付の有無を確認することから始めましょう。
証券会社では、上場株式以外にも「社債」や「投資信託」等の金融商品も取り扱いますが、本節では、便宜上「上場株式」についてのみ説明します。

<上場株式の承継手続きの流れ>
まずは証券会社へ電話にて連絡し、相続手続きの書類を郵送してもらいましょう。承継する人が同一証券会社の取引口座を保有していない場合に「新たに証券取引口座の開設の手続きが必要」であること、「すぐに解約手続きができない」ことの2点を除いては、基本的には預貯金口座の承継手続きと同様ですので、5-4節も参照してください。
なお、手元に「取引残高報告書」が見当たらず、どこの証券会社を利用していたかもわからない場合は、利用していた可能性のある証券会社に口座の有無を照会して調査する方法があります。また、やや手間はかかりますが、「証券保管振替機構(ほふり)」に対して「登録済加入者情報の開示請求」を行う方法もあります。
その他、上場株式の相続手続きをするうえでの注意点を次に説明します。

<上場株式の承継手続きにおける注意点4つ>
上場株式の承継手続きにおける注意点は少なくとも4つあります。

①株式数については「株式数証明書」や「議決権行使書面」を確認!
証券会社から届く「取引残高報告書」は、あくまで「その証券会社で」管理している情報しか記載されません。例えば、A証券会社で取引を行っていた上場株式銘柄が3つあったとしても、B証券会社で別銘柄や同一銘柄の株式の管理を任せている場合があり、これらのB証券会社に任せている上場株式等の情報については、A証券会社から届く書類では一切確認ができないのです。

つまり、A証券会社だけの「取引残高報告書」のみを根拠とした場合、「遺産の把握・手続き漏れ」が生じてしまう可能性があります。

これらの漏れを防ぐためには、当該株式の株主名簿管理人である信託銀行証券代行部等に対して「株式数証明書」の発行を依頼するか、株式を発行している株式会社(が委託している株主名簿管理人たる信託銀行証券代行部等)から最低でも年1回届く「株主総会の招集通知 (開催のお知らせ)」に封入されている「議決権行使書面」に印字されている「保有株式数」を確認しましょう。これらの書類は、株式を発行している株式会社ことで管理している情報であるため、すべての株式数が合算されて記載がされます。

なお、「証券保管振替機構(ほふり)」に対して「登録済加入者情報の開示請求」を行うことで、亡くなった方の株式等に係る口座の開設先を確認することが可能です。証券会社の見当がつかない場合に、調査すると良いでしょう。

②「単元未満株」や「端株」に注意!
証券会社から届く「取引残高報告書」のみを参考にしてはならない理由の一つに、「単元未満株」や「端株」の存在があります。特に、保有期間が長い銘柄 (平成21年1月5日の株券電子化以前や会社法が施行され端株制度が廃止された平成18年5月1日以前からの保有の場合)ほど、単元未満株等が発生している可能性があります。その場合は「証券会社」ではなく、「株主名簿管理人である信託銀行の特別口座」で管理がされており、株主名簿管理人である信託銀行証券代行部等に対して相続手続きが必要になるため注意が必要です。

なお、単元未満株式の承継手続きについては、証券会社の口座へ移管する方法のほか、相続人からの請求による「買取請求」(※当該株式を発行する会社に端数を買い取ってもらうこと)も可能です。

③あくまで「移管」する手続きであって、すぐに売却処分ができるわけではない!
前述の通り、預貯金口座の相続手続きとは異なり、証券会社における取引口座の相続手続きでは、(株主名簿管理人である信託銀行の特別口座で管理している単元未満株を除き)「相続人名義の証券取引口座に故人が所有していた株式等の管理を移す」という手続きになります(個別銘柄ごとの名義は、預け入れている証券会社において、株式の発行会社が定める株主名簿管理人に対して名義の書き換え依頼を代行して変更が完了されます)。

つまり、管理を移す(=移管)だけですので、相続手続きの中で直接、遺産である株式が売却処分 (換価) されるわけではありません。この時に、相続人が既に同一証券会社の取引口座を保有している場合を除き、「新たに証券引口座を開設する必要がある」ことに注意が必要です。

また上場株式には値動きがありますから、早めに移管手続きを進めなければ、適切なタイミングで売却できず、株価が下がってしまうなどの損が発生することがあります(逆に値動きにより得をすることもあります)。

④「未受領配当金」の有無を要チェック!
配当金の受け取り方法について、銀行口座を指定していた場合はあまり問題になりませんが、銀行等の窓口で「配当金領収証」により現金で受取る方法を選択していた場合、「未受領」となっている配当金が残っているケースがあります。これらは当該株式の株主名簿管理人である信託銀行証券代行部等へ照会を行うことで調査が可能です。相続開始日時点で既に発生している未受領の配当金については、「債権」として遺産分割協議の対象となりますので、協議漏れに注意しましょう。

◎用語の解説
・上場株式:証券取引所で売買できる株式のことを呼びます。反対に、上場していない株式を「非上場株」や「未公開株」などと呼びます。
・単元未満株:単元株制度(会社ごとに定められた一定の株数(単元)を保有していない株主は、株主総会での議決権行使や株式の売買を行うことができない制度)を採用している会社の株式で、1 単元未満(ただし整数倍)のもの(例えば、1単元=1000 株の会社の 100株など)。
・端株:単元株制度を採用していない会社(つまり、売買単位が 1 株の会社)の1株未満の株式に相当するもの(例えば、0.1 株など)。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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