『相続実務のツボとコツ』

5-4 銀行(金融機関)の預貯金口座の相続手続きの流れや注意点は?


<「口座凍結」と「勝手に引き出すこと」のリスク>
亡くなられた方(被相続人)の遺産の中で、不動産と並び、最も一般的と言えるのが「預貯金」ではないでしょうか。ここでいう「預貯金」には、「普通預金」「当座預金」「定期預金」「通常貯金・定額貯金(※ゆうちょ銀行の場合)」など、その名称の如何を問わず、銀行等への預け入れ資産の返還請求権をいうものとします(預貯金以外の株式及び未受領配当金等の相続手続きについては、別項目にて説明します)。

この「預貯金」に関して、金融機関が預金者が死亡したという情報を得ると、取引の安全のために入出金が出来なくなります。これを一般的には「口座凍結」と言います。マイナンバー制度の運用が本格化していない本書執筆現在においては、死亡届出が役所に提出され、受理されたからと言って、自動的に預貯金口座が凍結されることはありません。つまり、「口座凍結」がされるまでの間では、暗証番号さえ知っていれば、故人の「キャッシュカード(※発行されている場合)」を用いて、事実上、預金の引き出しが可能となります。

相続手続きの実務上、正式な相続手続きを経ずに、このような方法で預金を引き出しされる方がいらっしゃるのは事実ですが、以下の点から推奨できません。

<勝手に引き出すことで生ずる様々なリスクの例>
①相続人が複数いる場合には、預貯金債権も遺産分割対象となるため、承諾を得ていなかった場合に相続人間トラブルに繋がりかねない。

②たとえ相続人全員の承諾を得ていたとしても、暗証番号を知っていることで生前にどのように故人の財産が管理されていたかといった不信を抱かれやすい。

③金融機関が個々に定める預貯金口座の「規約(取引約款)」に反する恐れが高い。

そのため、以下で記述するように、各金融機関が定める「正式な相続手続き」を経る必要があります。なお、手続きに用いる様式や記載方法については、「各金融機関で異なる」ため、1つ1つの金融機関に確認しながら進めていく必要があります。以下では、一般的な例として流れをご紹介いたします。

<(一般的な)預貯金口座の相続手続きの流れ(5ステップ)>
一般的な預貯金口座の相続手続きは次の①~⑤のような流れになります。

①各金融機関へ相続が発生した旨の電話連絡(口座凍結依頼)
お手元に通帳があれば、通帳の1枚目(表紙裏)に支店名と電話番号が書いてあります。金融機関によっては「相続事務センター」等の名称を用いて、相続手続きの専門部署がありますが、まずは取引のある支店へ電話連絡しましょう。この際に、金融機関が死亡の事実を知ることで「口座凍結」となります。重要な「口座引き落とし」がある場合は、口座が凍結されてしまう前に、それらの契約の「引き落とし(振込) 口座の変更」手続きを相続人にて早めに済ませておきましょう。

②相続手続き書類の受領及び残高証明書等の取得
郵送で「相続手続きセット」をご自宅へ送付してもらえる金融機関も多いですが、「まずは説明のために支店に来て欲しい」という金融機関もあります。いずれにせよ、相続手続きで必要な書類等を確認するため、所定の手続き用紙や案内を取得するところからスタートします。

この際、相続開始日現在の「残高証明書」を合わせて請求するようにしましょう。この残高証明書の発行依頼により、金融機関は故人名義の取引を全て調査(名寄せ)してくれるため、「遺産の把握漏れ」の発生を防ぐことができます(もっとも、相続手続きの実務においては、金融機関側で残高証明書への記載漏れや金額の転記ミスが稀に発生することがあります)。

なお、「ゆうちょ銀行」では「残高証明書」の発行依頼だけでは「名寄せ」にならないため、別途、同時又は先行して「貯金等照会書」の提出(調査依頼)が必要になりますので、特に注意しましょう。信用金庫及び農業協同組合(JA)などでは「預貯金」以外に「出資金」があり得ることも要注意です。

③相続人調査(戸籍謄本等の収集)
金融機関手続きは、大きく「有効な遺言書又は遺産分割協議書がある場合」と「そうでない場合(遺言書が無く、遺産分割協議書も作成していない場合)」に分かれています。

有効な遺言書がある場合には金融機関への提出を省略できることもありますが、基本的には「(相続人を明らかにするために必要な) 被相続人の死亡から出生まで遡る戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本」及び「相続人全員の戸籍抄本」が求められます。

本籍地を転々としているケースや遠方に本籍地がある場合は、戸籍謄本等の収集に時間を要しますので、予め収集しておくと良いでしょう。なお、法務局の「法定相続情報証明制度」を活用し、法務局の確認が済んでいる「法定相続情報一覧図」があれば、戸籍謄本等の原本を金融機関へ提示することは省略できます(もち
ろん一覧図作成の段階で戸籍謄本等の原本の法務局提出が必要なので、収集自体は必要になります)。

④相続手続き書類の提出(承継方法の指定)
遺産分割協議書や有効な遺言書が「ない」場合は、各金融機関所定の手続き用紙に「相続人全員」が署名捺印(実印+印鑑証明書の添付)を行う必要があります。相続手続き書類自体は「持ち回り」で完成させれば足りるため、相続人全員が一度に金融機関へ足を運ぶ必要まではありません。なお、金融機関によっては遺産総額が少額な場合は、提出書類の軽減や代表相続人が一人で手続きができるなど、緩和措置もあります。

なお、遺産分割協議書や有効な遺言書が「ある」場合は、その内容に従っている限り、承継者とされた相続人が「単独で」相続手続きを行うことが可能です。例えば、ABCDの4名が相続人であり、4名全員が参加した「遺産分割協議書」にて、Bが単独でX銀行の預貯金を承継すると合意された場合、その遺産分割協議書にABCD全員の実印捺印及び印鑑証明書の添付があれば、X銀行所定の手続き用紙へは、Bのみが署名捺印すれば足りるということです(※有効な遺言書がある場合は、相続人全員が実印を捺印することがないため、当然に印鑑証明書は不要となります)。

承継方法については、「解約 (換金)」か「名義変更」の2つの方法があります。預金種目によっては、どちらか一方しか選択できないという取り扱いもありますが、例えば「定期預金」については、「解約」を選択した場合に、「満期前の中途解約」扱いとされ、当初定められていた「優遇金利が適用されない」等の問題が生じる場合もあるため、承継方法の選択には注意が必要です。筆者は10年以上相続手続き実務の支援を行っておりますが、多いときは5万円以上の利息差が発生するときがありました(元本が大きく、預入期間がバブル時代で高金利だった場合です)。

⑤承継手続き完了
最後に、金融機関から解約後の無効処理がされた通帳や預金利息計算書などを受領し、ちゃんと承継できているかを確認して手続き終了となります。余談になりますが、金融機関によっては、相続された方々に対して「投資信託」や「生命保険」等の金融商品の営業があると思いますが、中には相続資産として特別に優遇されている場合もあるため、面倒でなければ聞いてみても良いかもしれません(リスク性のある投資は自己責任ですので注意しましょう)。

<預貯金口座の相続手続きを行う際の注意点やポイント>
預貯金口座の承継手続きを行う際の注意点は、以下の通りです。

①「休眠口座」等の漏れがないように、残高証明書の発行を依頼し、「名寄せ」をしてもらう。特にゆうちょ銀行では「貯金照会」が必要なため要注意。信用金庫などでは「出資金」の有無も確認しましょう。

②連絡すると「口座凍結されるため、重要な契約の「引き落とし(振込先) 口座」になっている場合は、先に又は並行して引き落とし先口座の変更手続きを行うように注意すべきです。

③承継方法の選択によっては「解約」と「名義変更」の利息差が生じる場合もあります。財産の種類によっては、承継方法が限定される場合もあるため注意すべきです。

④戸籍謄本等は基本的な添付書類となるため、予め集めておくとスムーズです。なお、「法定相続情報証明制度」を活用すると金融機関での待ち時間が短くなるため、余分な手間はあるものの、金融機関が多い場合は推奨(金融機関側での戸籍謄本等のチェックが省略されるため)します。
金融機関によっては、相続人の代表者1名にしか送金(解約金の振込み)できないなどの「特殊な制限」が定められていることもあるため、遺産分割協議書の作成段階から承継手続き方法を並行して確認することを推奨します。
上記のほか、各金融機関において、「担当者が相続法や相続手続きを熟知していないことによる案内ミス」が発生することもしばしばあります。何かおかしなことを言っているなと感じた場合は、預貯金債権に係る承継手続きが豊富な専門家へ相談されると良いでしょう。

【コラム】(遺産分割前における)預貯金の払い戻し制度とは?(相続法改正)
2019年7月1日に施行(一部を除く)された改正民法(相続法)において、「預貯金の払い戻し制度」が新たに創設されました。この規定は、施行日前に開始した相続に関し、施行日以後に預貯金債権が行使されるときにも、適用されます。

この制度は、遺産分割協議「前」において共有状態にある預貯金債権について、相続人のうち1人が「単独」で部分的に承継手続きが出来るようにし、また家庭裁判所の「保全処分」がされやすくなった制度です。

次の図の通り、例えば法定相続分が「6分の1」の相続人であれば、法定相続分「6分の1」×「3分の1」=「18分の1」まで払い戻しを請求することができるのです(但し、1つの金融機関につき150万円が限度)。

当該制度は、「預貯金債権の債務者」(すなわち金融機関)ごとに「150万円」が限度であり、かつ法定相続分の3分の1以内(口座基準)という制限があるものの、相続人間で係争中など遺産分割協議に時間を要する事情がある状況下において、すぐにお金を必要とする事情がある場合においては、有益な制度となります。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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