『相続実務のツボとコツ』

5-16 外国籍の方が亡くなった場合の相続手続きは?


<外国籍の方が亡くなった場合:渉外事例とは>
当たり前ですが、日本に住む人が皆日本国籍を保有しているわけではありません。出入国在留管理庁が今和2年3月27日に発表した令和元年末の在留外国人数 (特別永住者を含む)は293万3137人にのぼり、外国籍の方が日本で働いて、日本で生活を送ることも珍しいことではなくなりました。銀行口座はもちろんのこと、銀行で住宅ローンを借りて、土地や建物を所有して住んでいる方もいらっしゃいます。日本人と結婚している方もいらっしゃいます。

こうした、日本で生活を送っているけれども日本国籍を持たない方の相続を「渉外事例」と言います。日本の法律が適用されないこともあり、例えば、日本人と結婚している外国籍の方が亡くなった場合、その外国籍の方が保有する財産を日本人の配偶者や日本国籍を持つ子どもが承継できるのか (相続人となれるのか)といったところから問題になってしまいます。

特別永住者の方の相続手続きはやや地域に偏りはあるものの、渉外事例はグローバル化が進んだ現代において全国的に決して珍しいものではありません。しかし、言葉の壁や複雑な法律上の問題によって、相続人は困難に直面することが多いのも実情です。

<亡くなられた方(被相続人)が外国籍だった場合の検討事項>
①どの国の法律が適用されるのか
亡くなられた方が外国籍だった場合、はじめに「どの国の法律が適用されるか」、すなわち「準拠法」を検討しなくてはなりません。日本においては、「法の適用に関する通則法(平成18年法律第78号)」という法律があり、次の規定があります。

「法の適用に関する通則法(平成18年法律第78号)
第六節 相続
(相続)
|第36条 相続は、被相続人の本国法による。
(遺言)
第37条 遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による。
2 遺言の取消しは、その当時における遺言者の本国法による。
(適用除外)
第43条 この章の規定は、夫婦、親子その他の親族関係から生ずる扶養の義務については、適用しない。ただし、第39条本文の規定の適用については、この限りでない。
2 この章の規定は、遺言の方式については、適用しない。ただし、第38条第2項本文、第39条本文及び第40条の規定の適用については、この限りでない。

そのため、外国籍の方の相続手続き(遺言書の有効無効に係る「遺言の方式」については、「遺言の方式の準拠法に関する法律」もあるため、特に注意を要する)を進めるには、まずは被相続人が有していた国籍の法律(本国法)を調査することとなります。
ただし、本国法を調べていく中で、「法の適用に関する通則法」と同じように「準拠法」を定めた法律が整備されている場合があります。その中で、例えば「相続は居所地法による」とか「不動産に関することは、所在地法による」などと規定されていた場合は、それに従い、日本の法律を適用することとなります。これを「反致 (はんち)」と呼びます。

法の適用に関する通則法(平成18年法律第78号)
(反致)
第41条 当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による。ただし、第25条(第26条第1項及び第27条において準用する場合を含む。)又は第32条の規定により当事者の本国法によるべき場合は、この限りでない。

さらに、例外的ではありますが、外国法によるべきところ、その通りとすると公序良俗に反することとなる場合は、外国法を適用しないとする規定もあります。

法の適用に関する通則法(平成18年法律第78号)
第42条 外国法によるべき場合において、その規定の適用が公の秩序又は善良の風俗に反するときは、これを適用しない。

なお、外国語の配偶者の連れ子と日本国籍の配偶者とが「養子縁組」を届出のみでしていた場合や日本では届出のみで協議離婚していた場合において、外国籍を有する配偶者の本国法に拠れば裁判所などの許可が必要にもかかわらず、そのような許可を得ていなかった場合など、「親族関係」の成立においても疑義が生じることがあるため、この点についても慎重な本国法令の調査が必要となります(同法第5節親族)。解決にあたっては、場合によっては在日領事館をはじめ、外務省の手助けも借りる必要が生じる場合もあります。

②適用される法令に基づいた相続人をどのように確定するのか
適用される法律が確定したら場合、その国の法律で「相続法」に関係する法令を調査します。日本では「民法」という中に相続に関連することが規定されています。この「民法」は「私法の一般法」と呼ばれ、概ねどこの国も規定が整備されていますので、相続関連の規定の調査自体は心配ないでしょう。
しかし大きく異なるのが、日本では当たり前の「戸籍制度」についてです。日本では明治19年頃より現在の戸籍制度が確立されており、被相続人に「子どもがいるかいないか」等の家族関係は戸籍を見れば一目瞭然で、「子どもがいないこと」も簡単に立証可能です。しかし、海外においては日本のような戸籍が整備されておらず、「いないことを証明する方法」がない場合がほとんどです。
このような場合、できる限り親族関係を証明するの公的証明を集めたうえで、日本の法務局や日本の金融機関に対して、自分たち以外には相続人は存在しないことを誓った推定相続人全員の署名押印がある「申述書」を作成することもあります。

<渉外事例への対応方法>
日本の民間金融機関ではこのような渉外事例に弱いため、渉外事例にも対応できる相続手続きの専門家に協力を仰いで進めるのが賢明かもしれません。手前味噌ですが、筆者は韓国籍と中国籍の従業員を直接雇用しており、東南アジアやロシア、ブラジルなどに現地協力者がいる強みを活かし、渉外事例で難航する親族関係の確定作業を支援しています。しかし、それでも難航するケースが後を絶ちません。こうした事態を防ぐには、生前からの対策が一番効果的です。国際結婚をした外国籍の方や特別永住者の方は生前に「遺言書」を作成し、そこに「日本法を準拠法とする」という一文を加えるとよいでしょう。そうすることで日本法を準拠法として相続手続きを進められるほか、(有効な遺言書でありかつ記載漏れがなければ) 遺産分割協議を行う必要がないため、相続人全員を確定させる必要がなくなります(相続人確定調査が不要)。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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