『相続実務のツボとコツ』

5-14 農地や山林を相続した場合の注意点は?


<見落としがちな相続手続き>
相続したのちに、特定の財産について相続したことを管轄の行政庁へ報告する義務が課せられている場合があり、その代表格が「農地」と「山林 (地域森林計画対象地の民有林)」です。これらは行政庁が長年にわたり、所有者の実態がつかめず、現在の所有者が把握できずに公共工事等で地権者と接触することができない、いわゆる「所有者不明問題」を背景として、相続したことの届出が近年義務化されました(平成21年12月改正農地法等の施行、平成23年4月改正森林法の施行)。

<届出対象とある「農地」とは>
本届出義務は「農地法」という法律で定められており、農地法で定める「農地」及び「採草放牧地」とは、以下の条文の通りです。

農地法
(定義)
第2条 この法律で「農地」とは、耕作の目的に供される土地をいい、「採草放牧地」とは、農地以外の土地で、主として耕作又は養畜の事業のための採草又は家畜の放牧の目的に供されるものをいう。

農地法は「現況主義」を採用しているため、たとえ登記地目が農地以外になっていたとしても現況が「農地」であれば、農地として「届出対象」となります(反対に、現況が農地以外となっていても、登記地目が農地等(田、畑、採草放牧地等)になっている場合には、届出の対象と取り扱う農業委員会もあります)。届け出義務の根拠は、次の条文の通りです。

農地法
(農地又は採草放牧地についての権利取得の届出)
第3条の3 農地又は採草放牧地について第3条第1項本文に掲げる権利を取得した。者は、同項の許可を受けてこれらの権利を取得した場合、同項各号(第12号及び第16号を除く。)のいずれかに該当する場合その他農林水産省令で定める場合を除き、遅滞なく、農林水産省令で定めるところにより、その農地又は採草放牧地の存する市町村の農業委員会にその旨を届け出なければならない。

また、次の条文の通り、「10万円以下の過料」も規定されているため、届出義務を怠らないように注意しましょう。なお、「遅滞なく」の解釈は明確には定められておりませんが、長めに解釈すると「遺産分割協議等により取得が決定的になったときから90日以内」ですが、短めに解釈すると「相続開始日(死亡日)があったことを知ってから30日以内」とも考えられます。早く手続きを行うことに越したことはありませんが、心配な場合は提出先の農業委員会へ早めに確認しましょう。

農地法
(罰則)
第69条 第3条の3の規定に違反して、届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、10万円以下の過料に処する。

提出書類となる「届出書」は、提出先となる(当該農地を管轄する)「農業委員会」で入手できますが、次のリンク先からも参考様式を確認することができます。

農林水産省HP
https://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/pdf/souzoku_todoke.pdf

<届出対象となる「山林」とは>
相続した場合に届出義務の対象となる「山林」とは、「地域森林計画」の対象となっている「森林」です。農地の場合と比べて、稀な相続手続きにはなりますが、登記地目が「山林」になっている土地を承継した際には注意しましょう。

森林法
(森林の土地の所有者となった旨の届出等)
第10条の7の2 地域森林計画の対象となっている民有林について、新たに当該森林の土地の所有者となった者は、農林水産省令で定める手続に従い、市町村の長にその旨を届け出なければならない。ただし、国土利用計画法(昭和49年法律第92号)
第23条第1項の規定による届出をしたときは、この限りでない。

農地法と同様に、10万円以下の「過料」が定められているため、注意しましょう。

森林法
第213条 第10条の7の2第1項の規定に違反して、届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、10万円以下の過料に処する。

なお、届け出期間は森林法施行規則により、「所有者となった日から90日以内」とされています。農地法が「取得した場合」に「遅滞なく」と定められていることと比較した場合に厳格に定められていることに注意が必要です。「所有者となった日」とは、所有権の移転の原因が相続(及び遺産分割協議)の場合には相続開始の日(被相続人の死亡の日)、相続に伴う遺産分割協議の終了の場合にはその終了の日となり、相続発生から90日以内に分割協議が調わない場合には、相続開始の日から90日以内に法定相続人の共有物として届出を行うとともに、分割協議により持分に変更があった場合には分割協議終了後90日以内に再度届出を行う必要があります。
また、相続により法定相続人の共有物となっている場合など、森林を複数の所有者で取得し共有することとなった場合、共有者がそれぞれ届出書を提出することも、連名で一つの届出書を提出することも可能とされています(森林の土地の所有者届出制度市町村事務処理マニュアル参照:林野庁森林整備部計画課作成*)。

森林法施行規則(抄)(昭和26年農林省令第54号)
(森林の土地の所有者となった旨の届出等)
第7条 法第10条の7の2第1項本文の規定による届出は、地域森林計画の対象となっている民有林について新たに当該森林の土地の所有者となつた日から90日以内に届出書(1通)を市町村の長に提出してしなければならない。

※ https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/todokede/shoyusha_manual.pdf

【用語の解説】
・地域森林計画:森林法第5条の規定により、都道府県知事が、都道府県内の民有林の整備について立てる計画です。
・森林:森林法第2条において「木竹が集団的に生育している土地及びその土地の上にある立木竹」並びに「木竹の集団的な生育に供される土地」と規定されており、土地とその上に生立している木竹とを一体的に観念して指称しています。したがって、伐採跡地等で現状は無立木地であっても、その土地をめぐる自然的、経済的、社会的条件から見て森林として取り扱うことが妥当なものについては、森林として取り扱うことになります。なお、「主として農地又は住宅地若しくはこれに準ずる土地として使用される土地及びこれらの上にある立木竹」は森林に含めないこととされています(法第2条第1項但書)。

【コラム】「原野商法」について
登記地目が「山林」になっている土地を所有したまま亡くなり、家族が「処分できずに困っている」ケースは少なくありません。林業が盛んだったころには、「山林」は確かに「資産」として機能していましたし、リゾート開発や高速道路や鉄道の開発で資産価値が上がった山林も事実としてあるでしょう。
しかしながら、忘れてはいけないのが「将来的に価値が上がる」という噂レベルの情報によりほとんど価値がない山林や原野を購入させられるという「原野商法」です。こういった情報に惑わされた購入者が多数いるとされています(必ずしも詐欺事件ではないため、実態は不明なようです)。筆者も相続手続きに従事してから10年以上の経験を有しますが、原野商法が疑わしい事例はいくつも見てきたので、全国区で見れば、何十万人単位で困っている方がいらっしゃると見ています。
そして、世代が代わり、最近では「二次被害」を耳にするようにもなりました。
「不要な山林を処分する、そのための測量代金が100万円必要。売れたら売買代金でおつりがくる」など巧みな話術で美味しい話があったときは注意しましょう。売買する前提として測量が必要なことは宅地取引では一般的であるため、測量すること自体は詐欺とは言えず、巧妙な手口と言えます。面識もなく、100%信頼できる業者以外からの誘いは警戒して損はありません。ご注意ください。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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