『相続実務のツボとコツ』

4-2 相続の対抗要件って何?共同相続における権利承継の対抗要件って?


<相続の対抗要件って何?>
相続人が複数いる共同相続の場合、相続人は、遺贈、遺産分割、相続分の指定等に従い、被相続人の財産や債権等の権利を承継することになります。しかし、共同相続人が、他の共同相続人が相続することになった財産について、第三者に贈与や譲渡等を行い、権利の譲受けをした者がいる場合、この第三者と共同相続人との間で、財産の権利帰属について争いが生じます。

この第三者と共同相続人とのどちらが優先するかということが、相続における権利の対抗要件の問題です。この第三者との対抗関係においては、①そもそも当該権利を承継した相続人は対抗要件を備える必要があるか、②対抗要件をどちらが先に備えているかという問題があり、今回の改正は①に関する点について、従前の判例等と異なる立場の改正がなされました。

<相続の対抗要件についての従前の判例理論>
民法相続法の改正前、相続による権利承継の対抗力については、包括的に規定する条項がなく、相続の内容に応じて、判例等に解釈が委ねられていました。

具体的には、遺贈、遺産分割、相続分の指定等を問わず、相続により権利を承継した者は、法定相続分については対抗要件の具備なく権利を対抗できるとされていましたが、法定相続分を超える部分については、以下のとおり承継の方法によって扱いが異なっておりました。

(1) 遺産分割及び遺贈による権利の承継
共同相続人による遺産分割協議を行って相続する権利を定めた場合においては、遺産分割の前後を問わず、権利を承継した相続人と他の相続人から権利を譲り受けた第三者とは、対抗関係に立つとされておりました。また、遺贈も遺産分割による場合と同様に、特定遺贈、包括遺贈どちらであっても、権利を承継した相続人と他の相続人から権利を譲り受けた第三者とは、対抗関係に立つとされていました。

したがって、遺産分割協議又は遺贈により法定相続分を超える不動産の権利を承継した相続人は、自らが単独での登記を備える前に、他の相続人が法定相続分による共有登記をした上でその法定相続分を第三者に売却し、当該第三者が登記を具備してしまえば、当該第三者に対して権利を対抗できず、その不動産の権利を有効に取得できないことになります。

(2)「相続させる」旨の遺言
上記とは異なり「相続させる」旨の遺言により特定の権利を承継させた場合について、判例では、下記のように扱われておりました。具体的には、判例(最高裁平成14年6月10日判決・民集206号445頁)において、上記「相続させる」旨の遺言により特定の不動産を承継させた事案では、「特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」の遺言は、特段の事情のない限り、何らの行為を要せずに、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される。

このように、「『相続させる』趣旨の遺言による権利の移転は、法定相続分又は指定相続分の相続の場合と本質において異なるところはない。そして、法定相続分又は指定相続分の相続による不動産の権利の取得については、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができる」とされました。これは、相続人が法定相続分を超える遺産である特定の権利を相続分の指定又は「相続させる」旨の遺言により、特定の相続人に承継させた場合については、当該権利を相続することになる特定の相続人は対抗要件を具備せずともその権利を第三者に対抗することができることになります。

(3) 問題点
上記のとおり、同じ相続であっても、取得する方法や遺言の定め方により第三者対抗要件の要否が異なっていました。これについて法定相続分による権利の承継があったと信頼した第三者は、遺言の内容を把握することが困難であることから、不測の損害を被る可能性がありました。

相続人にとっても、相続分の指定又は遺産分割方法の指定による相続の場合は、登記なくして権利を第三者に対抗できるため、あえて登記費用を支払ってまで、登記名義を変更する動機付けがなく、登記が放置されてしまう事案が多発しているという問題点がありました。

<相続の対抗要件についての改正点>
今回の民法相続法の改正によって、改正民法第899条の2が新設され、「相続させる」旨の遺言も含めて、法定相続分を超える部分の権利の承継については、登記等の対抗要件を備えなければ 第三者に対抗することができないこととなりました。これにより「相続させる」旨の遺言等により承継された財産について、登記なくして第三者に対抗することができるとされていた解釈は見直され、当該新設条文に沿って判断されることになりました。

また、この民法相続法の改正とあわせて、債権については、法定相続分を超える債権を承継した相続人は、単独で債務者に通知することにより、対抗要件を備えることができる旨定められました。これは判例変更により遺産分割の対象とされるようになった預金債権を念頭に新設された条文です。

 


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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