『相続実務のツボとコツ』

4-1 遺留分というものがあると間いたのですが、なんですか?


<遺言のときに気を付けなければならないことって何がある?>
被相続人の遺言によって、特定の相続人にのみ財産を相続させたり、特定の人の相続財産を増やすことを定めたりすることができますが、その場合には、遺留分制度に留意して、他の相続人の遺留分を侵害しないように配慮することが重要です。

まず、遺留分制度とは、遺留分を有する一定の相続人に対し、被相続人が有していた相続財産の一定割合を「遺留分」として、最低限保障する制度です。本来、被相続人は自己の財産を自由に処分することができるはずです。他方で、相続制度は、遺族の生活保障や遺産の形成に貢献した遺族の潜在的持分の清算機能を有しているので、被相続人の財産処分の自由と相続人の利益との調整を図るため、遺留分制度が設けられました。

そして、遺留分を有する相続人は、被相続人から相続によって受ける相続利益が、被相続人の遺贈又は贈与の結果、その相続人の遺留分に満たない場合には遺留分が侵害されたとして、その相続人が、受遺者又は受贈者等に対して権利を行使することで、侵害された遺留分を回復することができます。

遺留分を有する遺留分権利者は、兄弟姉妹以外の相続人であり、(新民法第1042条第1項柱書(旧民法第1028条柱書))、兄弟姉妹には遺留分は認められていません。

<そもそも遺留分があると何が請求できるの?>
遺留分の法的性質について、従来は物権的請求権と判例上考えられていましたが、民法が改正されたことにより、遺留分権利者による債権的請求権とされました。

物権時求権を有しているとされていた遺留分権者は相続財産について共有持分を有しており、他の相続人の相続財産の処分には制限があったところ、債権的請求権のみ有するとされた遺留分権者はあくまで他の相続人に金銭を請求する債権的請求権を持つにとどまり、相続財産を共有しないため、遺留分減殺請求がされることによる他の相続人による相続財産の処分への制限がなくなりました。

旧民法では、遺留分減殺請求権の効果について、減殺の対象となる遺贈又は贈与の目的財産が特定物である場合には、減殺請求によって、遺贈又は贈与は、遺留分を侵害する限度において失効し、受遺者又は受贈者が取得した権利は、その限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属する(最判昭和51年8月30日・民集30巻7768頁)こととされていました。

すなわち、遺留分減殺請求権は、権利行使によって、裁判所の判決や当事者の協議を要せず、減殺の対象となる贈与又は遺贈が遺留分を侵害する限度で、直ちに失効してその所有権や共有持分権が遺留分権利者に帰するという物権的効果が生じるものとされていました。遺留分減殺請求権の権利行使により物権的効果が生じる結果、減殺の対象となる遺贈の目的財産が複数ある場合には、遺留分減殺請求権の行使の結果、それぞれの財産について受遺者又は受贈者と遺留分権利者との共有関係が生ずることになりました(旧民法第1034条)。

具体的には、遺贈によって自宅を取得した配偶者や事業用の財産を取得した当該事業の承継者は、他の相続人から遺留分減殺請求権を行使されると、その者と共にこれらの財産を共有することとなり、この共有関係を解消するためには、共有物の分割の手続(民法第256条、第258条)等を経なければならず、これでは相続に関する紛争を一回的に解決することが困難であると批判されていました。

また、たとえば、被相続人が特定の相続人に家業を継がせるため、株式等の事業用の財産をその者に相続させる旨の遺言があったとして遺留分減殺請求権の行使により株式等の事業用の財産が他の相続人との共有となる結果、スムーズな事業承継の障害となる場合があるとの指摘もなされていました。この点、遺留分減殺請求を受けた受遺者又は受贈者には、減殺を受けるべき限度において贈与又は遺贈の目的財産の価額を弁償して返還を免れるという価額弁償権(旧民法第1041条)も存在していましたが、受遺者又は受贈者が返還を免れるためには、現実の価額弁償ないし弁済の提供を要するものとされていました(最判昭和54年7月10日・民集33巻5号562頁)。

それゆえ、贈与又は遺贈の目的財産が未公開株式や事業用の財産の評価に争いがあるような場合には、訴訟が終結するまでに一定の時間がかかり、この間、共有関係が解消されなくなるため、会社の意思決定に支障が生じたり、事業用不動産を担保にした資金調達に支障が生じたりするおそれがありました。そこで、このような弊害を解消するため、新民法では、遺留分減殺請求権について規定していた旧民法第1031条を削除して、第1046条を新設することとし、「遺留分侵害額請求権」として、遺留分権利者が権利を行使することにより、受遺者又は受贈者に対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができるという金銭債権を取得すると定めました。

<遺留分はどうやって算定するの?>
遺留分には、遺留分権利者全員の遺留分の総体である総体的遺留分と、遺留分権利者が複数いる場合における各遺留分権利者の遺留分である個別的遺留分とがあります。総体的遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人である場合には3分の1、それ以外の場合には2分の1です(新民法第1042条第1項各号)。そして、個別的遺留分
の割合は、上記総体的遺留分の割合に、その遺留分権利者の法定相続分を乗じた割合です(同条第2項)。各ケースを一元的にまとめると次の表のようになります。

上記の個別的遺留分に「遺留分を算定するための財産の価額」を乗じたものが、各相続人の遺留分となります。「遺留分を算定するための財産の価額」は新民法第1043条に定められており、

「被相続人が相続開始の時に有した財産の価額」+「贈与した財産の価額」 - 「債務の全額」

とされています。なお、旧民法においては、加算の対象となる「贈与した財産の価額」については、相続人に対して生前贈与がなされた場合、負担付贈与がなされた場合、不相当な有償行為がなされた場合については、明確な規定がなく解釈に委ねられていた点がありましたが、新民法では、これらの点について明文で規定を設け、算定方法が明確化しました。

具体的には、一般の贈与については1年前の贈与(ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることについて知っていた場合である、害意のある場合は期間制限なし(新民法第1044条第1項後段、第3項))とされ(新民法第1044条)、相続人に対する婚姻もしくは、養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与に関しては10年前のものが (新民法第1044条第3項)「贈与した財産の価額」に含まれると定められました。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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