『離婚のツボとコツ』

3-9 住宅ローン付の家はどう扱ったらいいですか?


<家の扱いに困っています>
私たち夫婦の財産と言えるものは、私名義の預貯金200万円と妻名義の預貯金100万円、そして、私が所有者となっているこの家だけです。

ただ、この家には、私の名義でローンの支払が3000万円くらい残っています。私はこんなに広い家はいらないので、子どもと一緒に暮らすことになる妻に引き取ってもらうか、売却できればと思ってます。なお、家の査定額は2500万円でした。

<話し合いのコツ>
●家を使い続けたいというニーズがある場合
結婚後に購入した家というのは、ほとんどの場合ファミリーサイズだと思います。
家は夫の所有で、子どもと一緒に暮らすのは妻というケースはかなり多く、夫が広い家を持て余すというミスマッチが生じることは珍しくありません。離婚にあたりミスマッチが生じたとしても、住宅ローンの残額より家の価値の方が高いのであれば、家を売却して住宅ローンを全額返済し、その残りを2人で分配するということも考えられます。

しかし、実際には、一部の特別な物件を除いて(頭金を多く支払ったのでもない限り)、住宅ローンの残額の方が家の価値よりも高い状態が長く続きます(この、住宅ローンの残額の方が家の価値よりも高い状態のことを、オーバーローン状態といいます)。この場合には、家を売却しても借金だけが残ることになります。

オーバーローン状態の物件が財産分与の対象となる場合、預貯金などの他の財産の全て又は大部分を、住宅ローンを負担している側が取得することになる場合も少なくありません(本節の法律上のツボ参照)。そのため、金額面だけで話し合いを続けると、一向に話し合いがまとまらない場合もあります。そこで、ニーズをどう充して、話し合いをまとめるか、を考えることになります (3-8節参照)。

例えば、妻の側に、この家を使い続けたいというニーズがある場合には、以下のような方法が考えられます。

●住宅ローンが残っている家を使い続ける方法
まずは、家の所有者なら家に住める、ということで、夫名義の所有権と夫名義の住ローンを、あわせて妻に引き取ってもらう、という方法です。

これは、借金から解放されるという意味で、夫にとってリスクが少ない手段です。

ただ、この方法の最大の難点は、住宅ローンを妻名義に変えることに、住宅ローン債権者である金融機関が難色を示す可能性があることです。もちろん、金融機関にとって、住宅ローンを支払う人間の経済力は重大な関心事ですが、妻に経済力があっても住宅ローンの名義変更に応じてもらえない金融機関は少なくありません。

次に、金融機関が住宅ローンの名義変更に応じてくれないのであれば、形式的には、所有権登記も住宅ローンの名義を夫のままにしつつ、実質的には所有権も住宅ローンも妻が引き取り、妻がローンを支払うという手段が考えられます。

ただ、この手段は、離婚の際にきちんと契約書を作っておかないと、トラブルの元になります。

例えば、夫としては、「残ローンは全て妻が支払う」という内容の契約書がないと、ある日突然、妻が転居すると言い出した時に困ってしまいます。妻としても、「住宅ローンを完済したら妻に所有権移転登記をする」という内容の契約書がないと、完済後に、夫が「あれは月のローンの返済額と同額の賃料で家を貸していただけだ」と言い出した時に困ってしまいます。

妻としては、事前に登記まで移してもらうという方法も考えられますが、夫としては、住宅ローンの条項に違反したとして金融機関から一括弁済を求められたり、ローンの名義だけが夫のまま、妻がローンを支払わなくなってしまった場合に困ってしまうため、応じにくいところがあります。

このように、所有権を移転するという方法は、仕組みとしてとても複雑です。仕組みが複雑だということは、お互いの認識の違いが生じやすく、トラブルが起こりやすいということです。赤の他人同士であればともかく、元夫婦同士ということになれば、その2人の間のトラブルはお互いに感情的になりやすいですし、養育費や面会交流の問題に、間違いなく悪影響を及ぼします。

仮に、所有権にこだわるのであれば、妻に経済力がある場合には、新たに住宅ローンを利用して資金を調達してもらい、そのお金で夫名義の住宅ローンを返済し、同時に所有権を妻に移転してもらうという方法(いわゆる借り換え)を取ったほうが、後日、ややこしいトラブルを生じることがないのではないかと思います。

住宅ローンが残っている家を使い続ける方法としてシンプルなのは、夫がその家を妻に賃貸するという方法だと思います。この場合には、所有権を移転させる場合と異なり、妻に、金融機関を満足させるような経済力も要求されません。また、家を無償で貸す代わりに養育費を減額してもらう、という話し合いも可能かもしれません。

なお、家を無償で貸すと言うことの価値をどのように評価するかについて、婚姻費用の分担の場合には住居関係費相当額と評価することになりますが(本節のコラム参照)、養育費の場合は婚姻費用の分担の場合とは状況が異なり、妻にその家を借りないという選択肢もあることから、住居関係費相当額にこだわることなく、近隣家賃相場等を参考にする方が適切なように感じます。

とはいえ、賃貸の方法も良いことばかりではなく、住宅ローンの内容によっては条項に違反する場合もありますし(実際に金融機関に気付かれるケースは少ないとは思いますが)、ローンが支払えずに家が競売にかけられた場合(夫との賃貸借契約の内容によっては夫が家を売却した場合も)、家を出て行かなくてはなりません。

また、ローン名義人に、赤字でもいいので、家を売却してとにかく借金の額を減らしたい、という希望が強い場合には、そもそも賃貸するという方法は使えません。

ここまで、住宅ローン付の家が離婚に際してお荷物になるという前提で話をしてきましたが、逆に、養育費支払いの保険になる可能性がある、という話をしたいと思います。

住宅ローンを組む場合、団体信用生命保険(団信)に加入を要する場合がほとんどです。この団信というのは、簡単にいうと、住宅ローンを借りた人が亡くなってしまったり、高度障害状態になってしまった場合に、住宅ローンが完済される保険です。そのため、団体信用生命保険に加入している人が死亡した場合、その住宅は、住宅ローンが完済された状態で相続されることになります。

離婚して親権者でなくなっても、子は法的にも子のままですから(2-1 節参照)、住宅ローン名義人が死亡した場合、その子が相続人になり、住宅ローンが完済された住宅を相続することになります。

養育費を支払う側の親が死亡した場合、養育費を支払ってくれる人はいなくなってしまいます。もちろん、相続される預貯金などがあれば、それらを養育費として生活していくことになりますが、若くして亡くなってしまった場合などは、相続財産に目立った預貯金がない場合もあります。

そのような中で、家が相続され、家賃相当分の固定費を節約できた、あるいは、家を売却してまとまった現金を手にすることができたのであれば、養育費が途絶えたとしても、子どもは、きちんと生活していくことができます。

無理をしてまで、オーバーローン状態の家を売り急ぐ必要はないように思います。

◎話し合いのコツポイント
一見、お荷物になりがちなオーバーローン状態の家ですが、うまく利用できれば話はまとまりやすいかもしれません。

<法律上のツボ>
●実際の財産分与の計算
一般的な考え方によると、冒頭のケースでは、夫婦の財産として2500万円の価値のある家がありますが、その家には3000万円の住宅ローンがついていますので、実質的には、夫に500万円の借金がある状態と考えます。夫名義の預貯金200万円、妻名義の預貯金100万円、両方を夫が全部受け取ったとしても、夫にはまだ200万円の借金があることになります。

そのため、妻としては、特に財産分与を請求することはできません。他方で、夫の借金について、妻が責任を負うことはありません。借金が財産分与されることはないということです。

また、冒頭のケースで、家の査定額が3200万円だった場合には、家の所有者である夫は、200万円の財産を得ることになりますので、夫が家 (200万円)と50万円の預貯金、妻が250万円の預貯金を得ることになります。

●連帯保証人、連帯債務者について
冒頭のケースとは異なり、夫が住宅ローンを組むにあたって、妻が住宅ローンの連帯保証人になっているケースを考えたいと思います。この場合、夫が住宅ローンを滞納した際には、連帯保証人である妻にも請求がきます。離婚したとしても、当然に連帯保証人で無くなる訳ではありません。

そのため、離婚に際して特に何の手続きもしていないと、ある日突然、元夫が住宅ローンを滞納しているとして、連帯保証人として住宅ローンの支払いを請求されることがあります。ローン残額よりも家の査定額の方が高い場合には、手間がかかるだけ(それでもかなり大きな手間)ですが、オーバーローン状態の場合には、深刻な問題になりかねません。

そうならないためにも、離婚の際には、連帯保証人から外れておくべきです。しかし、連帯保証人は、連帯保証契約という契約に基づいて引き受けているものですから、こちらの一方的な希望でやめることはできません。住宅ローンを貸している側の同意(合意解除)が必要となります。

連帯保証人を辞めたいというだけでは、住宅ローンを貸している側からしてみると単に不利益になるだけですので、まず同意してくれません。そのため、同意を得るために、代わりの連帯保証人を立てる、という対策
が必要になります。若い夫婦ですと、夫の実の両親や親族にお願いすることが考えられますが、熟年の夫婦になってくると、両親では高齢すぎて保証人になれない、ということも生じてきます。

このようなケースでは、新たに連帯保証人が不要の住宅ローンに借り換えをしてもらって連帯保証人から外れるか、あるいは、現時点で不動産を売却してもらい、残債務額については、預貯金などで可能な限り返済してリスクを軽減しておく(冒頭のケースでいえば、夫が財産分与で得る300万円の預貯金を(そのままにしておくと遊興費等に使われる可能性もあるため)財産分与の時点で、きちんと返済に使ってもらう)ことが考えられます。

このように連帯保証人から外れるだけでもかなり大変なのですが、どうせお金を支払う義務があるのなら持分も欲しい、あるいは、節税という理由等で、連帯債務者になっているような場合には、本当に困ってしまいます。

考えられるのは、共有持分を相手に譲渡し(連帯債務者の場合は、持分の設定がある場合がほとんどだと思います)、同時に、借り換えにより単独名義の住宅ローンを組んでもらう(ただし、連帯債務の場合は、2人分の収入を考慮して審査をしていますから、2人の収入額目一杯のローンを組んでいて、しかも返済を開始してから日が浅いと、当時より相当程度収入が増えていない限り、1人分の収入では審査を通らない可能性が高いです)方法か、あるいは、連帯保証人の場合と同じように、ローンが残るとしても売却により残債務額を減らす、という方法だと思います。

いずれにせよ厄介です。

あくまで、個人的な経験ですが、離婚に関する話し合いが長引くのは、

(1) 離婚するか否かに争いがある場合
(2) 親権者をどちらにするかに争いがある場合
そして、
(3) 住宅ローン付の家の扱いに困っている場合

という印象があります。

離婚のことを考えながら、家を購入する人はほとんどいないと思います。
しかし、万が一離婚する場合には、ローン付の家を持つこと、家の所有権を共有にすること、相手と連帯保証・連帯債務の関係があることが、大きなリスクになることは、知っておいて損のないことだと思います。

「マイホームを購入したら、夫婦関係が改善すると思っていたのですが…」というお話をうかがうことがありますが、個人的にはおすすめできません。

◎法律上のツボポイント
借金が財産分与されることはありません。
離婚したからといって、当然に連帯保証人や連帯債務者を辞められる訳ではありません。

◎用語の解説
・財産分与: 婚姻中に夫婦で形成した財産を、離婚に伴い分配・清算する手続き。詳細については、3-2節参照。
・養育費:親が支払わなくてはならない、子どもの生活費。親権者でなくなっても、親子関係はなくならない。詳細については、2-5節参照。
・面会交流:離婚や別居により子どもと離れて暮らしている親が、子どもと会うこと。詳細については、2-11節参照。
・婚姻費用:夫婦が共同生活を送るために必要な費用。簡単に言うと生活費。いわゆる養育費も含まれる。詳細については、1-2節参照。
・親権【親権者】:①子どものしつけや日常生活の世話 (監護教育)との子どもの代わりに契約や財産の管理(法定代理人)をする権限【その権限を持つ者】。詳細については、2-1節参照。

【コラム】婚姻費用の分担と住宅ローン
現在別居中で、自分が住宅ローンを支払っている家に相手が住んでいる場合、その事実は、婚姻費用の分担にどのような影響を与えるのでしょうか。

結論としては、実際に支払うべき毎月の婚姻費用が減額されるという点では一致していますが、その減額される金額については複数の考え方があります。

考え方としては、
(1)毎月の住宅ローン額分
(2) 近隣家賃相場分
(3) 権利者(婚姻費用を受け取る側)の収入を基準とした住居関係費相当額分
(4) 義務者(婚姻費用を支払う側)の収入を基準とした住居関係費相当額分

減額されるという考え方があります。

裁判例は明確には定まっていませんが、(3)または (4) の考え方が取られているようです。

具体的に見ていきたいと思います。
例えば、会社員で年収990万円で住宅ローン名義人のAさんと、会社員で年収300万円Bさんの夫婦(子なし)の場合、

(ア) Aさんが支払うべき婚姻費用は10万円前後(資料「養育費・婚姻費用算定表」参照)
(イ) Bさん(権利者)の収入を基準とした住居関係費は3万2590円(下の住居関係費の表参照)
(ウ) Aさん(義務者)の収入を基準とした住居関係費は6万4027円(下の住居関係費の表参照)

となります。

従って、(3)の考え方に従う場合は10万円-3万2590円=6万7410円を、(4)の考え方に従う場合には10万円-6万4027円=3万5973円を、婚姻費用として支払うことになります。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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