『相続実務のツボとコツ』

3-9 高額な賃貸用不動産などの贈与を行うには?


<相続時精算課税による相続税対策>
相続時精算課税によって子どもに贈与した財産は、相続が起こった際、相続財産に足し戻されて相続税が課税されます。従って、単純に現金を贈与しただけでは相続税の節税メリットがありません(前節参照)。

 

しかし、たとえば賃貸マンション等の収益物件を子どもに贈与する場合は相続税の節税メリットがあります。1億円の賃貸用不動産を成人した子どもに贈与した場合における、暦年課税と相続時精算課税の贈与税額の比較は次の通りです。

 

1億円の財産を子どもに贈与した場合、暦年課税であれば最高税率55%が適用され、約4,800万円の贈与税を子どもが支払う必要があります。一方で、相続時精算課税を適用した場合にかかる贈与税は1,500万円と、約3,300万円少ない負担で財産を贈与することができます。

 

このように、一度に多額の財産を贈与する場合は、相続時事課税を使った方が贈与税の支払いを抑えて子どもや孫に財産を移転させることができます。

ただし、相続時精算課税による贈与は、相続開始前3年を超えるものであっても亡くなった際に相続財産に足し戻され、相続税が課税される(つまり、贈与が無かったことになる)点には注意が必要です(前節参照)。

 

なお、相続税を計算する際、相続時精算課税による贈与で課税された贈与税相当額は相続税額から差し引くことができます。相続税を計算するうえで贈与が無かったことになるのであれば、「相続時精算課税で贈与を行う意味は無いのでは?」と思う方がいるかもしれません。確かに現金の贈与であればその通りです。

 

しかし、この制度は、「贈与したモノ(賃貸用不動産そのもの)のみの贈与」が無かったこととされます。つまり、贈与した1億円の賃貸用不動産から得られる利益(家賃収入)は、全額贈与を受けた子どもの財産になります。

 

つまり、贈与した賃貸用不動産 (①) は相続税の計算時に相続財産に足し戻されますが、家賃収入 (②) は相続財産に足し戻されません。

 

したがって、賃貸用不動産を相続時精算課税で子どもに贈与した場合、賃貸用不動産から得られる家賃収入については相続税・贈与税の負担なく子どもに移転させることができます。まとめると、次の通りです。

 

賃貸用不動産は、一般的に持ち続ければ利益を生むため、生きている間に被相続人の財産がどんどん増えていき、亡くなったときの相続税額も高くなっていきます。

ただし、早期に子どもに賃貸用不動産を移転することができれば、被相続人(親)の財産は増えないため、相続税額の上昇を抑えることができます。

このように、高額な賃貸用不動産を相続時精算課税で贈与すると、贈与税・相続税トータルで考えた場合の負担を抑えられる場合があります。

<不動産を相続時精算課税で贈与した場合の注意点>
●不動産取得税と登録免許税が、相続で財産移転した場合と比べて高額
不動産を贈与によって移転したときは、不動産取得税と登録免許税が課税されます (3-3節参照)。なお、不動産取得税は、相続によって不動産を移転したときは課税されませんが、贈与の場合は課税されます。

 

また、登録免許税は、相続より贈与で移転したときの方が高額です。これは、暦年課税だけでなく、相続時精算課税で贈与した場合であっても変わりません。不動産の贈与を考えるときは、不動産取得税と登録免許税の負担も考慮すると良いでしょう。

●相続時精算課税で孫に贈与した場合の注意点
①財産を相続しなくても相続税の納税義務者になる
相続時精算課税は、20歳以上などの要件を満たせば孫であっても適用が可能です。ただし、相続時精算課税による贈与を受けた場合は、被相続人から相続又は遺贈によって財産をもらっていなくても相続税の納税義務者となります(特定納税義務者と呼ばれます)。

 

暦年課税で孫に財産を贈与した場合、相続又は遺贈によって財産をもらっていなければ相続税の納税義務者となりませんが、相続時精算課税によって財産をもらった場合は、相続税の納税義務者となってしまいます。

 

②二割加算
被相続人の子どもが存命であり、孫が代襲相続人となっていない場合には、その孫は相続税の二割加算の対象となります (3-2節参照)。

この他にも注意点がありますので、賃貸用不動産の贈与を検討する際は、税理士に相談することをお勧めします。

 

<不動産は上物だけの贈与が一般的>
不動産を贈与する場合、①建物部分(上物)のみ贈与し、②土地部分は贈与しない(相続で子どもに移転させる)ケースが一般的です。

 

なぜなら、土地を贈与しても、家賃収入の子どもへの移転ができないなどのデメリットがあるからです。

 

賃貸用不動産から発生する家賃収入は、土地からではなく、建物部分(上物)から発生します。そして、相続時精算課税で不動産を贈与する最大のメリットは、賃貸用不動産から発生する家賃収入を子どもに直接帰属させることです。

 

従って、子どもに贈与を行うのは上物のみでよく、土地を贈与で移転させる必要は一般的に無いと考えられます。

もし土地を贈与する場合には、不動産取得税や登録免許税が、相続で移転するときより高額になってしまいます。そのため、不動産を子どもに移転させるときは、土地は贈与せず、上物部分のみ贈与することが多いです。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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