『離婚のツボとコツ』

3-8 財産分与はどのように進めていけばよいのでしょうか?


<まず二人の財産を確認してみましょう>
夫は、預貯金を300万円持っています。そのうちの200万円は、先日親から相続したものです。また、生活費のために10万円の借金がある他、実はギャンブルにはまっていて、ギャンブルによる50万円の借金があります

妻は、預貯金を50万円持っています。これは独身時代に貯めたものです。また、夫からもらった婚約指輪のダイヤモンドの価値は20万円程度だと思います。その他、生活費のために、20万円の借金があります。

 

2人は、結婚してからミニバンを買いました。そのローンの残額が 250万円くらいあります。ミニバンのローンの名義は夫です。

 

<話し合いのコツ>
●実は、分母の確定が難しい
突然ですが、あなたは配偶者の預貯金口座を全部知っていますか。実は、これが財産分与の一番難しいところなのです。

産分与とは、簡単に言ってしまうと、婚姻中に夫婦で形成した財産を2人で清算・分配する作業です (3-2 節参照)。ほとんどの場合、半分ずつに分けることになります。

半分ずつに分ける、と聞くと、簡単そうに聞こえますが、実際に始めてみると、半にする分母、すなわち婚姻中に形成した財産の総額がわからない、ということがきこります。

基本的には、お互いが誠実に、自分が把握している財産を開示し合って総額を把していくことになります。ただ、関係が相当悪化した上での離婚となると、相手が誠実に対応してくれない(財産の一部を隠したまま話を進めようとする)ことが少なくありません。

例えば、精神的なDVがある夫との離婚のケースは、もともと妻が財産の詳細を知らされていない場合がほとんどです。さらに、相手は離婚について拒否的な場合がほとんどですから、財産の詳細をなかなか開示してもらえません。

そうなってくると、夫が普段つかっていた銀行はどこだっただろうか、そういえばあそこの銀行のオンラインバンキングのページがパソコンのブックマークに入ってした、みたなことを考えていく必要があります。他にも、給与明細から社内積立金があることが見つかったり、確定申告に関する書類から共済や保険に入っていることがわかったりすることもあります。さらに、預金通帳を見せてもらい、そのお金の動きから隠し口座や隠し財産がわかることもあります。会社の経費精算用の口座や税金還付用の口座を、ヘソクリ用の口座として持っている、というのもよくある話です。

 

ただし、こんなに稼いでいるのに預貯金がこんなに少ないはずはない、という場合には、隠し口座がある可能性ももちろんありますが、意外と支出が多いだけだったということもあります。

どこに隠し財産がありそうか、という、アタリを付ける作業も、ある程度の技術が必要になりますので、場合によっては弁護士に相談してみた方がよいかもしれません。

こうやって、2人で話し合いを進めていく中で、あそこの銀行に間違いなく口座があるはずだから通帳を見せて欲しい、あるいは、確定申告に関する書類を見せて欲しい、とお願いしても、適当な理由を付けていつまでたっても見せてもらえないということが起こるかもしれません。

こうなってしまうと、調停を申し立てるなどして第三者に間に入ってもらい、第三者から、通帳や書類を出すように強く説得してもらう必要があります。

●自分のニーズを意識して
財産分与に限らず、法律相談でよくお話しさせていただくことですが、例えば、Aさんは300万円支払って欲しいけれど、Bさんは200万円しか支払えない場合、金額に関する話し合いを続けても、話し合いは平行線になるだけです。

このケースにおいて、Bさんが、実はある珍しい宝石を持っていて、この宝石が200万円で売れれば御の字だと思っているのですが、Aさんは、その珍しい宝石を集めていて、その宝石のためであれば300万円を出しても良いと思っていたとします。

そうであれば、BさんがAさんにその宝石を渡せば、双方が納得する形で話し合いがまとまるかもしれません。離婚・財産分与というのは、今までの生活を精算するものですから、色々な思惑が働きます。

 

例えば、子どもと一緒に暮らすことになる親に、離婚によって子どもを転校させたくない、というニーズがあるかもしれません。とはいえ、今住んでいる家が、子どもと離れて暮らすことになる親が結婚前に一括で買った家だとすると、財産分与の対象にはなりません。機械的に考えると、子どもと一緒に暮らすことになる親がこの家に住み続けるための権利を主張する機会はありません。しかし、子どもと一緒に暮らすことになる親には、この家に住み続けることについて強いニーズがあります。そのような場合に子どもと離れて暮らすことになる親の方で、この家を使い続けたいというニーズが強くなく、他方で事情により手元に現金を確保したいというニーズが強いのであれば、子どもが成人するまでこの家を無償で使わせてあげるかわりに、財産分与の請求の全部または一部を放棄してもらう(あるいは、養育費を減額してもらう。3-9節参照)という、双方が win-winの形で話がまとまる可能性があります。

ニーズを尊重してもらった側は、その他の点について、気持ちよく譲歩をしてくれると思います。

●話し合いのコツ ポイント
財産の分母の確定は難しく、場合によっては弁護士の利用を。
お互いのニーズを意識して話し合うことによって、建設的な話し合いになるかも。

 

<法律上のツボ>
●冒頭のケースはどうなる?
財産分与の対象になる財産を確認したいと思います。
まず、夫の財産についてです。
夫名義の預貯金が300万円ありますが、そのうち200万円は相続したものです。相続によって得たお金は、婚姻中に夫婦で形成した財産にはあたりません(特有財産といいます)。そのため、財産分与の対象となる夫名義の預貯金は、100万円ということになります。

さらに、夫には借金があります。このうち、10万円分は生活費のために利用したものですので、財産分与にあたって考慮することになります。他方で、50万円分はギャンブルに費やしたものですので、財産分与にあたって考慮されません(ただ実際には、生活費のための借金、ギャンブルのための借金と区別することは、難しい場合がほとんどです)。

ミニバンについては、ローンだけみると250万円の借金ですが、査定をしてみると、今、売却するのであれば260万円で売れるとのことでした。この場合、ミニバン3260万円-250万円= 10万円の価値がある動産として、財産分与の対象になります。

 

次に、妻の財産についてです。

 

妻名義の預貯金が50万円ありますが、これは独身時代に貯めたものなので、特有産として財産分与の対象になりません。また、婚約指輪も特有財産として財産分与の対象となりません。

20万円の借金については、生活費のために作ったものですので、財産分与にあって考慮することになります。

●冒頭のケースを整理してみると
夫名義の100万円の預貯金と、10万円のミニバン、10万円の借金、そして、妻名義の20万円の借金が財産分与にあたって考慮されることになります。

預貯金やミニバンなどのプラスの財産の合計が110万円、借金というマイナスの財産が30万円ですので、110万円-30万円=80万円を2人で分けることになります。

実際には、この80万円を半分にした40万円に、マイナスの財産として事前に控除した金額(夫10万円分、妻20万円分)を足し、夫が50万円、妻が60万円を取得することになります(実際に使えるお金は「夫:50万円-10万円」 =「妻:60万円-20万円」で、同額の40万円になります)。

 

なお、プラスの財産のうち、10万円はミニバンですので、夫が40万円+ミニバン、妻が 60万円という分け方になるケースがほとんどだと思います。もちろん、妻がミニバンを取得しても構わないのですが、260万円で売れるミニバンを10万円と評価するのは、ローンが残っているためです。そのため、ローンの名義人でない (ローンを支払う義務がない)妻がミニバンを取得する場合には、妻がローンを引き受けるか、夫にローンを支払い続けてもらう前提で260万円と評価する(但し、夫がローンを滞納すると、ややこしくなります)などの方法を取る必要があります。

ちなみに、マイナスの財産がプラスの財産よりも多い場合には、少し違った処理になります。その場合には、3-9節を参照してみてください。

少し話が変わりますが、離婚にあたり、携帯電話の名義変更が問題になるケースは少なくありません。家族全員の回線について、誰か1人の名義にしている場合、離婚後も同じ番号を使い続けるためには回線の譲渡が必要になったりします。円満離婚の場合にはよいのですが、すでに別居していたり、関係が悪化していたりすると、なかなか協力してもらえなかったり、場合によっては勝手に解約されてしまったりします。

 

あるいは、代表者名義のまま、代表者の口座から携帯電話の利用料が支払われ続け、それによって関係が悪化したり、清算がややこしくなったりすることもあります。

◎法律上のツボポイント
財産分与の金額について、いずれかのタイミングで、自分の計算が間違っていないか弁護士に相談してみた方が良いかも。

◎用語の解説
・財産分与:婚姻中に夫婦で形成した財産を、離婚に伴い分配・清算する手続き。詳細については、3-2節参照。
・配偶者間暴力(DV):ドメスティック・バイオレンス(domestic violence) 。一般的には、婚姻関係や内縁関係のある相手に対して行使される暴力のことであるが、最近では、婚姻関係や内縁関係のある相手に限らず、交際相手に対する暴力も含む概念として理解されるようになってきている。また、暴力の内容についても、物理的な暴力に限られず、心理的な暴力や経済的な暴力も含む概念として理解されるようになってきている。なお、上記は、あくまでも社会的な認識の解説であり、必ずしも「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律いわゆるDV 保護法)」の定義とは一致しない。
・調停【調停調書】:裁判所における、非公開の話し合いの手続【その話し合いの結果が記載された公的な書類】。原則としてお互いに顔を合わせることはなく、守秘義務を負う調停委員が間に入り、話し合いを進めていく。詳細については、4-3節参照。
・養育費:親が支払わなくてはならない、子どもの生活費。親権者でなくなっても、親子関係はなくならない。詳細については、2-5節参照。
・特有財産:夫婦の一方が、婚姻前から有していた、あるいは、婚姻中に夫婦の協力とは関係なく手にいれた財産。財産分与の対象にならない。

 

【コラム】夫が財産の中身について教えてくれません
精神的な DVのある夫との離婚のケースで特徴的なのは、DVが深刻化する以前から夫は財産の詳細を妻に伝えておらず(例えば、月ごとに生活費を渡し、特別な支出は全て決裁制)、妻が夫婦の財産の全体像を把握していないケースがほとんどだということです。これは、おそらく財産を自分で管理することによって、経済的にも相手を支配する手段を確保したいからなのだと思います。

このような兆候は、交際時にはなかなかわかりにくいと思います。場合によっては、結婚前に、結婚後の家計はどうやって管理していこうか、というふうに話を振ってみてもいいかもしれません。

 

むしろ、全部夫が管理してくれるのなら、そっちの方が楽だと思った方もいるかもしれません。しかしそれは、相手に頼りすぎなのではないでしょうか。そういうあなたの性格を見抜いて、DV男性はあなたに近づいてくるのかもしれません。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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