『離婚のツボとコツ』

3-6 不貞の慰謝料は、肉体関係がないと請求できないのでしょうか?


<仲よさそうにラブホテルに入っていく写真があるのよ!>
最近夫の様子がおかしいので、興信所に調査をお願いしました。すると、会社の部下の若い女の子と、カップルが行きそうな個室レストランでご飯を食べ、人気の少ないバーに行き、最後は手をつないでラブホテルに消えていく写真が手に入りました。

写真を元に夫を問い詰めたのですが、部下の若い女の子とラブホテルに入ったことは認めたものの、外に漏れたら困るような仕事の相談に乗るためにラブホテルに入っただけだと言い張っています。

<話し合いのコツ>
●その状況で肉体関係がなかったという言い訳は厳しい
肉体関係が持たれるのは、基本的に屋内ですから、自ら不定中の写真や動画を残していたというような事情がない限り、肉体関係があったことそのものを証明できる証拠が手に入ることは稀です(と言いつつも、結構そういう証拠が出てきたりもするのですが…)。

確かに、ラブホテルに入るところを押さえた写真は、あくまで「ラブホテルに入った」事実を証明する証拠で、肉体関係があったことそのものを直接証明する証拠ではありません。中には、冒頭のケースの夫のように、肉体関係があったことを直接証明する証拠がないのであれば、「肉体関係はなかった」と言い張ればなんとかなる、と思っている人もいるようですが、世の中、そんなに甘くはありません。

仮に、冒頭のケースの夫が肉体関係があったことを認めず、話し合いにならない場合には、訴訟をすることが考えられます。

訴訟では、例えば、

(a) 部下の女性と一緒に手をつないでラブホテルに入っていった
(b)2時間後に出てきた。

という事実が証明されれば、肉体関係があったという事実を直接証明できなくても、肉体関係があったと認めてもらえる可能性は極めて高いです(あくまで大枠の話であり、相手の反論にもよります)。これを、業界用語で「間接事実による事実認定」と言います。口を割らなければ大丈夫、というのは、訴訟では通用しません。

より、直接的でないケースとしては、

(X) 妻とは長年セックスレス状態であった
(Y) 妻が外国製の「XX」という避妊薬の開封済み包装シートを、ドレッサーの中に隠していた
(Z) メールで、男性に、「前回は途中で飲むの忘れちゃったけれど、次会うときに備えてきちんとXX を飲んでるよ」というメッセージを送っていたというものも考えられるかもしれません。

このケースの場合、(X) -(Z)の事実だけでは、弁護士の間でも判断が分かれるかもしれません。ただ、(Z)のようなやりとりをしてしまう2人ですので、おそらく他にも肉体関係があったことの立証に使えそうなメールのやりとりをしていそうです。

それらのメールも利用すれば、妻が合理的な反論をできない限り、肉体関係があったと認められる可能性は極めて高いと思います。

●弁護士に証拠の評価をしてもらおう
このように間接事実による事実認定は、とても技術的です。
一般の方の目で見て、「これだけ証拠があれば勝てる!」「これだけの証拠では勝てないんじゃないか」と思うケースが、弁護士の目で見ると、逆に「この証拠だけでは勝てない」「これだけあれば安心だ」というケースであることは少なくありません。

例えば、上の1つ目のケースで、(b)の事実についての証拠を押さえず訴訟を起こし、訴訟内で相手から

(6´) ホテルに入ってから5分もしないで1人で出てきた

という事実(酔いつぶれた部下をやむを得ずラブホテルに泊まらせてきた、というストーリーです)が出てきた日には、不貞そのものが濡れ衣だったという話になります。

そのような濡れ衣で訴訟にしてしまったら、今更夫婦としてやり直すことはます無理でしょうし、むしろ、こちらが慰謝料の支払いを請求されてもおかしくありません。

現在の手持ちの証拠で、不貞をきちんと証明することができるのか、言い逃れされる可能性はないのか等を、弁護士に相談をしてみたほうが良いと思います。本当に不貞をしていた場合には、疑われていることに気が付くと、今まで以上に証拠を残さないように注意するようになります。

不貞を疑っていることを相手に告げようと思っているのであれば、きちんと証拠を集めてから告げるべきです。

余談ですが、SNSやメールでのやり取り等が、不貞を立証するための有効な証拠となるケースは少なくありません。その中でも、逢瀬の段取りよりも、逢瀬の後の感想等の方が有効な証拠になるケースが多いです(段取りの段階でのやり取りでは、何時にホテルの何号室、といった内容でもない限り、肉体関係の存在を証明しにくいためです)。
また、意外と、不貞が発覚したのではないかと思って口裏を合わせるやりとりが、前のやり取りと合わせて有効な証拠になるケースも少なくありません。弁護士に相談する場合は、これは使えないだろう、と自分で証拠を選別することはせずに、一旦全ての証拠を見せたほうがよいと思います。

また、相手と不貞についての話をする際には、決定的な証拠以外は、基本的には相手に見せないほうが良いと思います。

その理由としては、

(1) 身に覚えがある人間にとっては、相手がどこまで証拠を持っているのかわからないほうがシラを切りにくいこと
(2) 間接事実による事実認定はとても技術的で、弁護士からするとすでに言い逃れが厳しいと思うほど証拠が揃っている場合であっても、素人目には、まだ証拠が不十分で言い逃れができると思われてしまう場合もあり、かえって話し合いが長引く可能性があること

が挙げられます。
なお、シラを切り続けていることは、場合によっては慰謝料の増額事由になります。

◎話し合いのコツポイント
口を割らなければ大丈夫、というのは、訴訟では通用しません。
不用意に証拠を示さない方が、交渉が上手く進むこともあります。

<法律上のツボ>
●仮にプラトニックな付き合いだったら
慰謝料請求が認められるためには、原則として肉体関係があることが必要です(あるいは、同棲することが必要です。ただ、同棲の場合、肉体関係がある場合がほとんどだと思います)。

しかし、プラトニックな付き合いであったとしても(もしくは肉体関係があったことを証明できなかったとしても)、不貞相手が主導する交際によって離婚に至ったり、配偶者への態度が冷たくなったような場合には、慰謝料を請求できるとしている裁判例もあります。

とはいえ、肉体関係がある場合に比べ、慰謝料請求が認められるハードルは、かなり高いと言えます。

◎法律上のツボ ポイント
慰謝料請求が認められるためには、原則として肉体関係があることが必要です。

◎用語の解説
・慰謝料:精神的な苦痛に対する損害賠償(金銭請求)。詳細については、3-1節参照。
・調停【調停調書】:裁判所における、非公開の話し合いの手続【その話し合いの結果が記載された公的な書類】。原則としてお互いに顔を合わせることはなく、守秘義務を負う調停委員が間に入り、話し合いを進めていく。詳細については、14-3節参照。

【コラム】不貞があっても慰謝料請求が認められない場合~婚姻関係の破綻~
不貞があった場合でも、慰謝料請求が認められない場合があります。それは、すでに婚姻関係が破綻している場合です(破綻しているとなぜ認められないのかは3-5節のコラム参照)。

婚姻関係が破綻しているから慰謝料請求は認められないという反論を、業界用語で「破綻の抗弁」といいます。

不貞の慰謝料請求の交渉にあたって、破綻の抗弁は、不貞相手からよく主張されますが、裁判ではまず認められません。

裁判例を見ていくと、署名した離婚届が交付されていたり、離婚の話が出ていたりしたとしても、離婚に関する話が具体的になっていない場合には、破綻を認めない、という裁判例があります。また、離婚調停を申し立てられていても、それだけでは破綻を認めない、という裁判例もあります。

他にも、家族旅行・行事の有無、同じ寝室での就寝、性交渉の有無、他方に家計を任せていたか、互いの生
活に関心を有していたか、不貞に至った経緯や解消した経緯、不貞発覚後の婚姻継続の意思などを検討している裁判例もあります。こうやって見ていくと、破綻の抗弁が認められるためのハードルはかなり高そうです。

少なくとも、突然別居して、その別居の瞬間から破綻が認められるということは、まず有り得ません。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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