『離婚のツボとコツ』

3-5 不貞の慰謝料って、不貞相手にも請求できるんですよね


<妻にはお金がないのですが...>
妻の不貞で離婚することになりました。ただ、妻には現在収入はなく、職にも長くついていなかったことから、今後就職しても慰謝料を支払えるほどの収入にはならないと思います。また、私達夫婦にはほとんど財産はなく、財産分与と慰謝料はお互いに請求し合わない、という解決も難しそうです。

<話し合いのコツ>
●慰謝料は、配偶者の不貞相手にも請求することができる
問題は、どのように話を進めていくかです。
登場人物が4名になってややこしくなるので、以下、アマガエル太郎 (A太郎)さんとアマガエル花子 (A花子)さんが夫婦、ヒキガエル太郎 (H太郎)さんとヒキガエル花子 (H花子)さんが夫婦で、A花子さんとH太郎さんが不貞をしたというケースを題材に、話を進めていきます。

このケースのように、不貞相手も既婚者といういわゆるダブル不倫のケースで、いきなり慰謝料請求の訴えを起こすことは、あまりお勧めできません。

訴えを起こすと、ヒキガエル夫婦の家に、裁判所からいきなり訴状が届くことになります。裁判所から郵便物が届いた日には、例え宛名がH太郎であっても、同居の家族は何事かと思い、まず間違いなく勝手に封筒を開けて、中の訴状を見ると思います。そして、訴状を見て、H太郎が不貞を理由に訴えられていることを知れば、ヒキガエル家は間違いなく大騒ぎになります。

そうなってしまうと、H太郎としても、本当は不貞をしていたにもかかわらず、不貞なんてしていない、相手の勘違いだ、と釈明せざるを得なくなり、そのまま後に引けなくなって、争いが泥沼化していく、ということもありえます。

また、H太郎が不貞を認めた場合、H花子さんも慰謝料請求を考えるかもしれません。A花子さんが全くお金を持っていない場合には、H太郎さんに請求が集中することになり、H太郎さんもあまりお金を持っていない場合には、慰謝料の回収は難しくなっていきます。

不貞を原因に、H花子さんがH太郎さんと離婚をすることになると、H太郎さんは財産分与をすることになり、H太郎さんの財産はさらに減っていきます。挙げ句の果てに、H太郎さんが離婚のショックで仕事を辞めてしまい、結局慰謝料は誰からも回収できずに終わってしまった……ということも、当然起こり得ます。

そうなっても構わない、それでも訴訟で相手の責任を追及したい、という気持ちもあるかもしれません。ただ、離婚や不貞といった問題は、特に感情が大きく絡む紛争です。あまりに泥沼化が進むと、刃物沙汰等の不測の事態が生じることもあります。

話の進め方としてお勧めなのは、例えば内容証明郵便に、本人限定受取サービスを付けて送付する、という方法です(電話等だと、どうしても感情的になってしまいがちですし、後になって「脅された」といった話にもなりかねません)。

H太郎さんの立場に立って考えてみると、H太郎さんにとって最も重要なことは、迅速かつ秘密裏に解決することだと推測できます。この推測が正しい場合、交渉であれば柔軟に話し合いに応じるが、訴訟であれば頑なに争ってくる可能性は極めてと言えます。

いきなり訴訟を起こすことは、交渉のカードを捨てるようなものです。相手が価値を感じる部分に敏感になって、話し合いを進めてみてください。なお、内容証明郵便のサンプルは次のようになります。

【内容証明サンプル】

催告書(一括弁済のお願い)
冠省
私ことアマガエル太郎(以下,「通知人」とします。)は、以下のとおり,貴殿に通知いたします。
通知人は、現在, アマガエル花子と婚姻中でありますが、貴殿は、アマガエル花子が婚姻中であることを知りながら性的な交渉をもっております。
*交渉上有効と考えられる場合には、より具体的に記載することもあります。

かかる貴殿の行為は、婚姻共同生活の平和の維持という権利を侵害する不法な行為です(民法709条)。
つきましては、不法行為に基づく損害賠償金として、金XXX万円を、平成27年7月19日までに、下記口座に送金してお支払いください。

カエル銀行 梅雨明け支店
普通 1234321
アマガエル太郎
(アマガエルタロウ)
*交渉上有効と考えられる場合には、分割や減額の可能性を暗に示したり、期限に配慮したりするなどします。

期限内にお支払いやなんらのご連絡も頂けない場合にはすみやかに法的措置を執ります。
なお, 上記金額は、通知人の損害がそれにとどまることを意味するものではなく、訴訟の場合には更なる金額の請求がありうることを申し添えます。
草々

平成27年7月1日
T107-0062
東京都港区南青山(略)
電話
携帯
メール
*相手から連絡が欲しい連絡先を記載
アマガエル太郎 印

〒*******
西京都山区北赤山(略)
ヒキガエル太郎殿

◎話し合いのコツポイント
一呼吸おいて、泥沼化を避けるような進め方を!

<法律上のツボ>
●2人で弁償するという考え方(不真正連帯債務)
不貞の場合、不貞をした配偶者だけではなく、その配偶者の不貞相手に対しても慰謝料の請求をすることができます。
また、不貞相手が既婚者の場合、不貞相手の配偶者も、同じように感謝料の請求をすることができます。
引き続き、アマガエル夫婦と、ヒキガエル夫婦のケースを題材に話を進めていくと、

(1) A太郎さんから、A花子さんとH太郎さんに
(2) H花子さんから、A花子さんとH太郎さんに

慰謝料請求がなされる可能性がある、ということになります。

そして、今回の不貞によってA太郎さんが受けた精神的苦痛(損害)が、仮に200万円だとすると、A太郎さんとしては、例えば、

(1) A花子さんに200万円を請求する
(2) H太郎さんに200万円を請求する
(3) A花子さんに100万円、H太郎さんに100万円を、それぞれ請求する

ことができます。

ここで重要なことは、A太郎さんは、A花子さんとH太郎さんの不貞によって200万円相当の精神的苦痛を受けていますが、A花子さんとH太郎さんそれぞれに半分の100万円ずつしか請求できない訳ではなく、合計200万円の範囲内であれば自由な割合で請求できるということです。

これは、法律的に言うと「不真正連帯債務」という考え方です。とりあえず支払える人がきちんと支払って弁償しなさい、という考え方が根本にあります。

●立て替えてもらったという考え方(求償権)
自由な割合で請求できるとなると、例えば、A太郎さんが、H太郎さんに200万円全額を請求した場合には、何だか不公平なことになりそうです。

結論から言うと、このような場合、H太郎さんは、A花子さんに対してお金の支払を請求できます。これを求償といいます。

求償は、負担部分に応じて行うことができます。負担部分というのは、不貞についてのH太郎さんとA花子さん責任の割合によって定まります。

通常の不貞の事案における負担割合は5:5と考えられます。この場合、200万円全額をH太郎さんが支払ったのであれば、H太郎さんは A花子さんに100万円を求償することができるということになります。

また、一方が不貞行為を主導した事案では、主導した方の負担割合が多くなる場合もあります。H太郎さんが不貞を主導し、H太郎さんの負担割合が6、A花子さんの負担割合が4とされる場合に、200万円全額をH太郎さんが支払ったのであれば、200万円のうち、6割である120万円をH太郎さんが負担することになるため、H太部さんは、A花子さんに対し、80万円(=200万円-120万円)を求償することができるということになります。

◎法律上のツボポイント
請求できる金額は、2人への合計額です。

◎用語の解説
・慰謝料:精神的な苦痛に対する損害賠償(金銭請求)。詳細については、3-1節参照。
・財産分与:婚姻中に夫婦で形成した財産を、離婚に伴い分配・清算する手続き。詳細については、3-2節参照。
・内容証明郵便:相手に送付した郵便の内容を、郵便局が証明してくれる郵便。文書の枚数等にもよるが、1回差し出すにあたり、概ね2000円程度の費用がかかる。慰謝料を請求する際などに用いられるが、慰謝料の請求にあたり、常に内容証明郵便による必要・実益があるわけではない。しかし、内容が証明されることから、正式な請求であること(さらには差出人の強い気持ち)を示すために用いられることが多い。

【コラム】不貞相手に慰謝料の請求ができない場合
慰謝料は、「故意又は過失によって…権利又は法律上保護される利益を侵害」された場合に請求することができます(3-1節参照)。そして、不貞によって侵害される権利とは、婚姻共同生活の平和の維持という権利だと考えられています。

つまり、意図的に(故意)、あるいは、うっかりと(過失) 婚姻生活に悪影響を与えるような行為をされた場合には、慰謝料を請求することができます。

そのため、性的な関係を持った人が既婚者であることを知っていた、あるいは、既婚者であることに気が付くべきであったのに気が付かなかった、という不貞相手に対しては、慰謝料を請求することができますが、過失なく既婚者であることを知らなかった不貞相手に対しては、慰謝料を請求することができません。

婚姻関係が破綻している場合には、そもそも婚姻共同生活の平和の維持という権利が消滅してしまっているため、不貞相手に対して慰謝料を請求することができません。また、婚姻関係が破綻していると過失なく信じていた不貞相手に対しては、実際には破綻しておらず権利が存在する場合であっても、権利を侵害する故意がないことになり、慰謝料請求することはできません。

そのため、慰謝料を請求すると、破綻していると信じていた、という反論がよく出てきます。ただ、結論から言うと、この反論が認められるケースはほとんどありません。破綻の詳細については3-6節のコラムに譲りますが、例えば、「最近妻と仲が悪くて」であるとか「離婚寸前で」との言葉を信じていたという程度の反論
では、まず認められないと思ってください。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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