『離婚のツボとコツ』

3-4 慰謝料の相場ってどのくらいなのでしょうか?


<慰謝料はいくら請求するべきなのでしょうか?>
夫の不貞が原因で離婚することになりました。慰謝料を請求しようと思っています。
インターネットで調べてみたところ、専門家らしき人が、相場は100万円~300万円だと説明していました。でも、離婚した友人は50万円しかもらえなかったと言っていましたし、ブログに500万円もらったという記事を書いている人もいました。

<話し合いのコツ>
●そもそも、相場って何?
慰謝料に限らず、「相場はどのくらいなのでしょうか?」という質問をよく受けます。

確かに相場というものは存在しますが、例えばあなたが慰謝料として1000万円の支払いを請求していて、相手がそれに応じる気があるなら、慰謝料の金額は1000万で(基本的に)問題はありません。

また、相手が慰謝料として1億円を支払う気持ちがあったとしても、あなたが10万円しか請求する気持ちがないのであれば、慰謝料の金額を10万円にすることも、問題はありません(3-2節参照)。

それでは、この「相場」とは、一体どういうものなのでしょうか。もちろん、不貞の慰謝料の相場を決めている人や、団体があるわけではありません。また、世の中で支払われた慰謝料の平均、というわけでもありません。不貞に関する慰謝料の全てが訴訟を通じて請求されるわけではなく、話し合いで決まった金額は、公的な記録として残るわけではないからです。

さらに、話し合いで決まった金額には、純粋な慰謝料の金額だけではなく、生活支援金的な金額も含まれている可能性があります(3-1参照)。

弁護士が言う「相場」とは、交渉で話し合いがまとまらず、裁判所においても和解が成立せず、ついに裁判所が判決を下すことになった場合に、裁判所が判で認めてくれる可能性がある金額を意味する場合がほとんどだと思います。

弁護士に相談した場合に、裁判の話が出てくるのは、すぐに訴訟をすることを勧めたいわけではなく、「裁判になった場合に最低限認められる金額」=「相場」をスタート地点に、請求額を考え、交渉を進めていく必要があるからです。

●経済的合理性という考え方
例えば、感謝料の相場が200万円くらいと思われるケースにおいて、今すぐ支払ってくれるのであれば150万円で話し合いに応じる、という交渉をすることは検討に値します。

どういうことかというと、仮に200万円の請求にこだわって話し合いがまとまらず、訴訟をすることになると、場合によっては弁護士に依頼をする必要が生じ、その分の弁護士費用がかかります。なお、裁判所は、認めた感謝料の1割分(200万円の慰謝料が認められた場合には20万円分)を、弁護士費用相当額の損害として認めてくれる(合計220万円を支払え、という判決を出してくれる)ことがほとんどですが、逆に言えば、実際に支払った弁護士費用の全額を、相手に請求できる訳ではありません。

また、判決が出るまでには、それなりの期間がかかります。
このような、弁護士費用や解決までに費やす時間・労力を自分なりに見積もり、その価値の合計額が70万円を超えると思うのであれば (220万円-70万円=150万円)、150万円での話し合いに応じるということも検討に値する、ということになります。

もちろん、慰謝料というのは、精神的苦痛に関するものですから、このような経済的合理性だけで割り切ることが難しい面もあります。

他方で、弁護士費用は相手にも生じる得るものです。また、相手の方により強い早期解決の希望があったり、訴訟沙汰にしたくないという希望があることもあります。

相手が見積もった解決までに費やす時間や労力、訴訟沙汰にしないで済むということの価値の合計額によっては、逆に相場より高い慰謝料で話し合いがまとまる場合もあります。

◎話し合いのコツポイント
自分のニーズや相手のニーズ、さらには経済的な合理性を踏まえて話し合いを進めていくことによって、結果として有利な条件で話し合いをまとめることができます。

<法律上のツボ>
●実際の相場
離婚に際し、慰謝料を請求したい理由としてよく相談を受けるのは、やはり、配偶者の不貞、そして、配偶者の暴力・暴言です。

以下、不貞、及び暴力・暴言があった場合の慰謝料について、いわゆる相場というものを見ていきたいと思います。
不貞の慰謝料の相場については、岡山県の裁判官が、岡山県内の裁判例を収集・分析して執筆された専門家向けの論文(安西二郎「不貞慰謝料請求事件に関する実務上の諸問題」 判例タイムズ1278号45頁(2008年))があり、そこに的確なまとめがあるため、相談の際にもよく紹介させてもらっています。

その論文によると、収集した裁判例における、慰謝料の最低額は80万円、最高額は600万円(ただし、相手は期日に出頭してこなかったそうです)、平均額は216万円だったそうです。さらに、離婚事案の平均額は208万円、婚姻継続事案の平均額は140万円だったそうです。

これをみると、相場は概ね200万円前後という印象ですが、最低額で80万円、最高額で600万円という裁判例もあり、裁判例ごとに個別具体的な事情から慰謝料を算定していることが窺われ、個別性の強さを指摘することもできます。

次に、暴行についてです。

夫の暴行により、入院・手術を要する程度の骨折を生じた事案で(暴行だけでなく夫の自己中心的な行動を勘案して)、200万円の慰謝料を認めた裁判例があります。

また、夫の暴行により後遺障害が生じた事案において、暴行及び後遺障害に対する損害賠償・慰謝料とは別に、離婚自体の慰謝料 (3-7節参照)として350万円を認めた裁判例があります(この裁判例は、後遺障害そのものにも500万円の慰謝料を認めています)。

一見すると、暴行がある事案(特に後者の事案)の慰謝料は高そうですが、いずれの事案も被害者はかなりの重傷を負っています。刑事の傷害事件(夫婦間のものに限らず)の示談金の相場などから、一般的な事案について考えていくと、20万円~100万円くらいが相場になるのではないかと思います。

暴言についても、執拗な暴言や威嚇によりPTSDを発症したというような事案はさておき、基本的には、あまり高い金額にならない可能性が高いのが現状だと思います(暴言についてのみ判断した裁判例は見かけませんでした。暴言から始まり、不貞や暴力にエスカレートしていくことが多いからなのかもしれません)。

◎法律上のツボポイント
相場はありますが、個別性も強いため、あまり囚われすぎないで。

◎用語の解説
・慰謝料:精神的な苦痛に対する損害賠償(金銭請求)。詳細については、3-1節参照。
・期日:裁判所において、調停手続や審判手続などが行われる日のこと。
・PTSD:心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic stress disorder)。いわゆるトラウマのこと。

【コラム】不貞の証拠をつかむために掛かった興信所の費用も相手に請求できるの?
結論からいうと、興信所の費用の請求が認められたケースがないわけではありませんが、ほとんど認められないと思っていただいた方が良いと思います。

一般的に、不貞の証拠というと、一緒にホテルに入っていく写真であるとか、性交渉そのものの写真(意外と本人たちがスマートフォンで撮影してそのまま保存しており、それが証拠となるケースがあります)をイメージされる方が多いですが、そのような直接的な証拠がなくても、裁判において不貞行為の存在が認められる可能性は十分にあります (3-6節参照)。

すでに説明させていただいたように、不貞の慰謝料の相場は概ね200万円前後になりますから、不貞の証拠をつかむために200万円以上の費用を掛けてしまうと、経済的には赤字になる可能性があります。

今の手持ちの証拠で損害賠償請求ができるのかできないのか、できない場合には何が足りないのかを知るため、まずは一度、弁護士に相談してみるというのも良い方法だと思います。

もちろん、ぐうの音も出ないような直接的な証拠がある方が、話し合いがスムーズに進むのは確かです。また、相手が離婚そのものに応じてくれないケースでは、不貞の証拠は、慰謝料請求のための証拠として使えるだけでなく、離婚事由(1-1節参照)を証明する証拠としても使えます。そのような観点からは、黒字・赤字だけで判断することもできません。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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