遺言、相続に強くなる!

3-3 遺言書の内容をどう決めるか


●「一番の気がかり」を最優先に考える
遺言書を作る際に一番難しいのは、誰にどの財産をあげるかを決めることです。最初のうちは、「自宅は妻にあげて、預貯金は子どもたちに平等に分ければいいや」などと簡単に考えていても、そのうち、いろいろなことが頭に浮かび、考えがまとまらなくなってくるものです。

「たしか長男が家を建てるときに300万円あげたから、二男にも同額を相続させるべきかな。考えてみれば、二男もこの家に住んでいるんだから、自宅は妻ではなく二男に相続させたほうがいいのでは……

こんな風に考え始めると、どんどん迷ってきて、結局遺言書を作れないで終わりかねません。将来、遺言書を見た家族がどう思うかを想像すると、とても決められないという人もいるでしょう。誰に何をあげるかを決めるのは、かなりのエネルギーを必要とするものなのです。

●原点に立ち返る
誰に何を相続させるかで迷ったら、なぜ自分が遺言書を作ろうと思ったのかを思い出すようにしてください。「今自分が死んだら、妻の住むところが心配だ」と思って遺言書を作ることを思い立ったのなら、妻に自宅を相続させることを最優先に遺言書を作るべきでしょう。
一番の気がかりを最優先にする、それが遺言書の「軸」になります。
あとは他の相続人とのバランスを考えて、少しずつ調整していけばいいのです。

●「誰に何をあげるのか」を決めるポイント
1 「一番の気がかり」を最優先に考える
2 家族が今の生活を続けられるようにする
3 不動産はなるべく共有させない
4 財産をもらった相手が困らないか考える
5 遺留分を侵害しないように気をつける
6 相続人に公平感を与えるようにする
7 相続税についても検討する

●完全な公平はありえない
「子どもたちには財産を公平に相続させたい」と願う親は少なくありません。その気持ちはよくわかりますが、単に、全財産を子どもの人数で分ければ公平かといえば、それは違うのではないでしょうか。

親からすれば、これまで子供たちに公平に接してきたつもりでも、子どもにかけた教育費や援助内容にどうしても違いがあるため、いくら均等に相続させたところで、子どもたちが不満を抱くことは避けられません。

親の側からみても、特定の子どもが親の介護をしてくれたような場合に、全員に同額を相続させるのは、かえって不公平だと思うのではないでしょうか。

また実際問題として、財産のすべてが預貯金や現金ならともかく、不動産を含む場合、完全に公平に相続させることは困難です。「完全な公平」にこだわりすぎると、おかしなことになりかねません。

●「公平」は無理でも「公平感」を大切にする
親が遺言書を作るうえで大切なのは、財産を完全に公平に分けることではなく、子どもたちにできるだけ「公平感」を与えることではないでしょうか。そうすれば、たとえ親が決めた遺産分けの方法に不満を抱いても、「仕方ないな」と納得してくれる可能性が高いはずです。
できるだけ公平感を与えるためには、これまでの親子関係を客観的に振り返り、それに見合う金額を相続させることが大切です。そして、なぜ金額に差をつけたのか、納得できる理由を付言事項に書くことも忘れないでください。そこに、これまでの感謝と、「これからもきょうだい仲良くしてほしい」との願いを書いておけばきっと、将来、子どもたちの関係が大きく損なわれることはないでしょう。

●財産をもらう人のことも考える
誰にどの財産を相続させるかを決める際、その財産をもらった人のことを考える必要があります。
・将来、自分がいなくなったあと、相手がその財産を手に入れることで、どんな生活を送れるのか。
・今、自分が所有する家に相手が住んでいる場合、相手はそのままそこに住み続けられるのか。
・もしその人にあまり財産を相続させない場合、その人自身の年金や貯金、生命保険金などで暮らしていけるのか、など。

また、相手がその財産をもらっても困らないか、活用できるかというのも大切な視点です。これまで資産運用といえば預貯金や国債しか利用したことがない高齢者に、インターネット取引で購入した株式を相続させても、売り時がわからなくて損をする可能性が高いのではないでしょうか。

また、都会でサラリーマンをしている人に、田舎の土地を相続させても活用するのは難しいうえ、固定資産税などの維持費の負担を嫌って相続放棄する可能性もあります。将来、相続してもらうことが難しそうな財産がある場合は、生前のうちに処分するか、活用方法などを家族と話し合ったほうがいいでしょう。

<親子間の援助をどのように遺言書に反映させるか>
●親から子供への援助(特別受益)
前述したように、親の遺産相続において、子どもが法定相続分さえ受け取れば満足するとは限りません。もし、父親が生前、長男に1,000万円あげたのに、二男(次男)には1円もあげていない場合、その分が遺産相続で考慮されなければ、二男が不満をもつのは当然です。

将来、二男が、「長男は1,000万円もらったんだから、その分、相続する財産を少なくすべきだ」と主張しても、無理はありません。また、生前にあげるのではなく、遺言書によって死後、特定の相続人に多額の遺産(居住用の不動産など)を相続させた場合にも、同様の問題が生じます。

このように、生前贈与や遺贈によって相続人が特別に得た利益を「特別受益」(民法903条)といいます。遺言書を作るときは、この特別受益について考慮しなければ、将来、相続人同士で大きなトラブルに発展する可能性があります。

【One Point】配偶者に贈与した自宅は財産分割の対象に含まれない
相続法の改正により、結婚後20年以上たった夫婦間で自宅を贈与(遺贈)した場合、これを特別受益として相続財産に上乗せしないですむようになりました(民法903条4項・特別受益の持戻し免除の推定)。これで配偶者は特別受益を考慮せず他の財産を相続できます。

●特別受益になるものは
もっとも、相続人に対する援助額すべてが特別受益になるわけではありません。明確な金額は定められていませんが、結婚資金や住宅購入資金、事業資金などで、通常の扶養の範囲から外れるぐらい多額のものが特別受益になると考えるとわかりやすいでしょう。反対に、通常、親が子どもにかける程度の教育費や挙式費用は該当しません。
なお、親がかけていた生命保険(死亡保険)を、死後、特定の子どもが受け取る場合がありますが、受取人固有の財産になるため、原則として特別受益にはあたりません。

●特別受益の計算方法
特別受益は、実際に相続が発生し、それぞれの相続人がどれだけ遺産をもらうかを決める際に検討することになります。具体的には、相続当時の財産に生前贈与や遺贈の額(特別受益)を加えたものを相続財産とみなし(これを「特別受益の持ち戻し」といいます)、これを元に各人が相談できる金額(具体的相続分)を計算します。最後に、特別受益を受けた相続人の相続分から、特別受益を差し引きます。

●子どもから親への援助(寄与分)
反対に、子どもが親を援助した場合はどうなるのでしょうか。たとえば、子どもが仕事をやめて親の介護に専念し、親の財産が減るのを防いだとか、家業を手伝って財産を増やすのに貢献したという場合です。

このように、相続人が被相続人の財産の維持や増加に特別の寄与をした場合、他の相続人との公平を図るために、その分だけその相続人の権利が増えることを「寄与分」(民法904条の2)といいます。単に彼相続人と同居して生活の面倒を見た程度では、寄与分は認められません。

寄与分がある場合は、特別受益の場合とは逆に、相続開始時の財産から寄与分を差し引いたものを相続財産とみなして、各人の具体的相続分を計算します。最後に、寄与分のある人にその分を加算します。

なお、寄与分はあくまでも相続人が対象であり、相続人でない人は対象になりません。ただし、相続法改正により、無償で故人の療養看護などをしたことで財産の維持や増加に特別の寄与をした親族については、相続人に「特別寄与料」の支払いを求めることが可能になりました(民法1050条)。

【One Point】特別寄与料の創設 ~介護をした家族が報われやすくなった
たとえ、妻が夫の両親の介護をした場合でも、相続人ではない妻が夫の両親の遺産を相続することはできません。しかし、法改正により、介護で貢献した分を「特別寄与料」として相続人に請求することが可能になりました。
この請求ができるのは、相続人以外の親族に限られており、請求期限は相続開始から1年までなどの制限があります。

●遺言書を作るときは、これまでの双方の援助内容を考慮する
このように、特別受益や寄与分など、家族同士の援助関係を遺産相続に反映させる制度が法律上、存在します。しかし実際のところ、寄与分がいくらになるのかを計算するのは難しいし、「お兄ちゃんには特
受益があるから、その分私の取り分を増やして」と兄弟姉妹がいい出すのは、難しい場合もあるでしょう。

将来、親子間の援助内容をめぐって子どもたちがもめないようにするには、やはり親が生前のうちにそれらを考慮したうえで、みんなが納得できそうな金額を決めて遺言書に反映させるのが望ましいと思われます。その際には、その根拠となる事情について遺言書に記載することが大切なのは、いうまでもありません。

また、資金援助した場合は、その根拠となる金融機関の振込票や預金通帳のコピーなども、遺言書と一緒に保管するといいでしょう。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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