『離婚のツボとコツ』

3-13 何も決めずに損してしまったら、もう何も請求できないのでしょうか?


<離婚時には何も話し合いをしませんでした>
離婚の時は、とにかく離婚をしたい一心でした。また、慰謝料とか財産分与とか、そういったことは一切知りませんでした。2人の間では何も決めずに、ただ、離婚届を出しただけです。最近、同じように離婚した友人と話をする中で、慰謝料や財産分与というものを知りました。

 

<話し合いのコツ>
●話し合いに応じてもらえない場合は、場の設定が有効です
離婚の時に何も決めなかった、というだけで、慰謝料が請求できなくなることはありません(もちろん、そもそも慰謝料を請求する根拠がない場合は請求できません)。

とはいえ、時間が経過すればするほど、離婚は過去の話になってしまいます。

 

人間同士の話し合いですから、過去の話になればなるほど、気持ちよく話が進まなくなる可能性も高くなっていきます。

また、財産分与の対象となる財産の全体像を把握するのも困難になっていきますし、全体像は把握できたものの、すでに使い込んでいて回収が困難になっていた、という事態も生じるかもしれません。とにかく、一刻も早く話し合いをするべきだと思います。

そして、話し合ってみたものの、相手が、離婚時に何も決めなかった以上、何も支払うつもりはないという態度に終始する場合には、早期に調停を申し立てる等した方が良いように思います。

 

離婚時に何も決めなかったのであれば請求できないと思い込んでいる相手(請求できないと信じたい、請求できないで押し通したい、という相手もいると思います)は、少なくありません。また、すでに離婚が成立してしまっているため、相手としては、ことさら慰謝料等に関する話を迅速に進める意味がありません(話し合いがついても自分がお金を支払うことになるだけだからです)。そのままでは、ズルズルと話が引き伸ばされる可能性が高いと言えます。

 

そういった場合こそ、話し合いの場や締め切りを設定し、また、第三者が客観的な意見を述べてくれるという調停のメリット(4-2節参照)が活きます。

なお、養育費・面会交流・慰謝料・財産分与・年金分割のいずれについても、離婚後に家庭裁判所に調停を申し立てて話し合うことができます。

◎話し合いのコツポイント
ズルズルと長引かせないようにすることが大事です。

 

<法律上のツボ>
●清算条項について
本書の冒頭で、離婚時に決めておきたい事柄として、親権者・養育費・面会交流・慰謝料・財産分与・年金分割等がある、という説明をさせていただきました(「ゼッタイにはじめに読んで欲しい!」参照)。

 

このうち、親権者については、離婚に際して必ず決めなくてはならない(決めないと離婚できない)のですが、それ以外については、決めていなくても離婚することができます。逆に、離婚にあたって、養育費・面会交流・慰謝料・財産分与・年金分割に関することを決めておかなかった場合には、後から請求することができなくなるのではないか? という不安があるようです。

 

離婚する、ということは、あくまで婚姻関係を解消する、という意味にすぎません。

 

離婚に際して、慰謝料や財産分与を決めていなかったからといって、当然に慰謝料や財産分与を請求しない、という意味を持ちません。そのため、離婚後であっても、時効等にかかるまでは、慰謝料や財産分与を請求することができます。

それでは、離婚の際に、

「甲と乙は、本和解書に定めるほか、何らの債権債務も負わないことを相互に確認する」

という、今後お互いに何も請求しない、という趣旨の条項 (清算条項といいます)が含まれる書面を作ってしまった場合はどうでしょうか。

そういった書面があっても、養育費や面会交流、年金分割については原則として求することができる、という理解で良いと思います。

そもそも養育費は、清算条項で請求を放棄するというような処分をすることができません (2-1節参照)。

 

また、面会交流は子の権利であったり、子の健全な発育のための情緒的な問題であることから、この清算条項の効果を受けない(仮に、明示的に面会交流を放棄するとの内容であった場合には、その条項が無効になる)、と言われています。

さらに、年金分割の請求権は、公法上の(つまり、配偶者に対してではなく、国に対する) 権利であるため、この清算条項の効果を受けない、と言われています。

 

他方で、慰謝料や財産分与は、原則として請求することができなくなります。しかし、例えば脅迫等により清算条項に合意した場合には、その合意が無効であると主張できる可能性がありますし(苛烈なDV被害にあっている人は、慰謝料や財産分与を放棄する書面に合意を求められたら、とても断れないはずです)、財産を全
て相手が管理しており、財産分与の対象となる財産は1円もないと言われて清算条項に合意したのに、後で隠し財産の存在がわかった、というような場合にも、無効を主張できる可能性があります。

ここまで説明してきたように、慰謝料等について離婚後に請求することができないわけではありません。

しかし、離婚に早く決着を付けたいという相手の気持ちが、迅速な話し合いを後押ししたり、譲歩をするモチベーションになったりすることも少なくありません。また、離婚してしまうと、後に述べるような期間制限の問題も生じてきます。可能な限り、離婚の際にきちんと話し合っておいたほうが良いと思います。

 

●期間の制限について
何も決めずに離婚した場合にも慰謝料等を請求することができると言っても、離婚後、死ぬまでの間ずっと請求できる訳ではありません。

(1) 養育費は、基本的には子どもが成人するまでの間発生し続けます。そのため、養育費請求の調停の申立時以後の養育費については、ほぼ問題なく認められています。
申し立て以前の分について、どこまで遡って請求できるのかについては、裁判例によっても判断が分かれており、遡らないとするものや、申立時から遡って5年とするものが多いようです(養育費の金額が決まっている場合には、5年間で時効になるため、そのことを意識しているものと思われます)。

 

(2) 面会交流も、親子の関係に基づいて行われるものですので、子どもが未成年者の間はいつでも請求することができます。ただし、あくまで今後について請求するものであり、例えば、ここ10年会っていなかったから10年×12ヶ月分=120回の面会交流をまとめて実施してくれ、ということはできません。

 

(3) 慰謝料は、離婚に際して2種類の慰謝料の請求が考えられるため (3-7節参照)それぞれ説明したいと思います。

1つ目は、離婚自体に対する慰謝料です。こちらは、離婚の時から3年間請求することができます。

 

2つ目は、不貞行為等の、離婚の原因になった行為に対する慰謝料です。こちらも3年間請求することができますが、3年間のスタート地点は「損害及び加害者を知った時」からです。ここでいう「損害」というのは、簡単に言うと不貞の事実です。また、「加害者を知った時」というのは、簡単に言うと、加害者への請求が事実上可能になった時を言います。「加害者を知った時」という条件は、配偶者に対して請求する時はあまり意識する必要はありません。しかし、配偶者の不貞相手に対して請求する時には、大きな意味を持ちます。例えば、配偶者の不貞相手が出会い系サイトで知り合った人で、携帯電話のメールアドレスしかわからないというような場合には、まだ3年間はスタートしないことになります。

 

なお、慰謝料には、20年間という期間制限もありますが、問題になる方は少ないと思いますので割愛します。

(4) 財産分与は、離婚から2年の間に請求する必要があります。慰謝料に比べて1年短いことに注意が必要です。離婚後の話し合いが長引いてしまっている場合には、とりあえず、財産分与の調停を申し立てておいたほうが良いと思います。

(5) 年金分割は、原則として離婚から2年の間に請求する必要があります。

 

なお、これらの期間制限については、相手の対応、あるいはこちらの対応によって、期間が延長されるものもありますし、期間の経過によって機械的に請求できなくなってしまうものもあります。
このあたりはかなりややこしい上、期間を経過してしまうことにより生じる不利益も大きいため、事案ごとにきちんと弁護士に相談し、正確に対応したほうがよいと思います。
あくまで、離婚した後からでも請求できるのだ、一息つく時間くらいはあるのだ、という程度の気持ちで、決して悠長には構えず、できるだけ急いでいただいた方が良いと思います。

 

◎法律上のツボポイント
離婚後に請求することもできますが、できれば離婚時に決めましょう。

 

◎用語の解説
・慰謝料:精神的な苦痛に対する損害賠償(金銭請求)。詳細については、3-1節参照。
・財産分与:婚姻中に夫婦で形成した財産を、離婚に伴い分配・清算する手続き。詳細については、3-2節参照。
・調停【調停調書】:裁判所における、非公開の話し合いの手続【その話し合いの結果が記載された公的な書類】。原則としてお互いに顔を合わせることはなく、守秘義務を負う調停委員が間に入り、話し合いを進めていく。詳細については、4-3節参照。
・養育費:親が支払わなくてはならない、子どもの生活費。親権者でなくなっても、親子関係はなくならない。詳細については、2-5節参照。
・面会交流:離婚や別居により子どもと離れて暮らしている親が、子どもと会うこと。詳細については、2-11節参照。
・年金分割:婚姻期間中の厚生年金記録等を二人の間で分割し合う制度。詳細については3-12節参照。
・親権【親権者】:①子どものしつけや日常生活の世話(監護教育)と②子どもの代わりに契約や財産の管理 (法定代理人)をする権限【その権限を持つ者】。詳細については、2-1節参照。

 

【コラム】不貞相手の居場所がわからない
本節内で、配偶者の不貞相手について、携帯電話のメールアドレスはわかるのだけれど、どこに住んでいるのかわからないという場合には、3年間の期間制限はスタートしない、という説明をさせていただきました。とはいえ、3年間の期間制限がスタートしないからラッキーというわけでもなく、住んでいるところがわからないままであれば、結局一生請求できず、それでは何の意味もありません。

そのような場合、弁護士であれば、弁護士会を経由して携帯電話会社に照会をかけ、メールアドレスに紐付けされている電話番号を回答してもらい、さらに、その電話番号から契約者の住所を回答してもらい、相手の住所を突き止めることができる場合があります。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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