『離婚のツボとコツ』

3-12 年金分割ってどう進めればいいの?


<年金制度自体がよくわからないのに、分割なんて...>
結婚時に年金を分割してくれるという制度があると聞きました。分割してくれるなら、当然使った方が有利なんですよね?でも、なんだか手続きもややこしそう……。

<話し合いのコツ>
●そもそも年金分割の話をすべきか
平成16年に新たに導入された制度ということもあって、離婚時年金分割という制度の知名度はかなり高いようです。他方で、制度そのものの理解については、かなり混乱があるようです。

まず、分割の対象になるのは、厚生年金や共済年金の部分だけです(以下、便宜的に厚生年金とだけ書きます)。

どういうことかと言うと、年金は、国民年金(基礎年金)を土台に、その上に、自営業者であれば年金基金等を、給与所得者であれば厚生年金やさらに厚生年金基金を掛けるなどしていますが、分割の対象になるのは、あくまで厚生年金の部分だけです。全ての年金が分割されるわけではありません。

例えば、配偶者が自営業者の場合には、もともと分割の対象となる年金がありません。また、配偶者が、厚生年金に加えて厚生年金基金に加入している場合でも、分割の対象は厚生年金のみになります。また、分割されるのも、実際の年金額ではなく、年金記録 (要するに納付実績)になります。
そのため、

(1)婚姻期間中に
(2) 相手が、自分より厚生年金を多く支払っていた場合(年収が高かったり、就労期間が長い場合)

でないと、分割するメリットはありません。

極端な話、自分が給与所得者として厚生年金を支払っており、配偶者が自営業者で国民年金だけを支払っているというケースでは、配偶者の方が年収が高かったとしても、年金分割を請求すると、かえって損をすることになります。

自分が年金分割を請求すべきかどうかについて、例えば、離婚調停において年金分割を行うためには、年金事務所から交付を受けた (共済年金の場合は、共済組合等から交付を受けることになります)、「年金分割のための情報通知書」を提出する必要があり、情報通知書には、双方の納付実績が記載されていますので、それを確認してから判断してもよいかもしれません。

また、相手の年金の受給権を分割する制度ではなく、年金記録を分割する制度ですので、現在の年金制度を前提とする限り、加入実績が足りない等の理由で、自分に老齢基礎年金(国民年金)の受給資格がない場合には、そもそも厚生年金の受給資格がありませんので、年金分割を受けても無意味になります。

●年金分割の話をするにあたって
メリットがある場合には年金分割を請求すべきですが、特に熟年離婚の場合、年金分割という単語に、相手が過剰に反応するケースが少なくありません。

その背景には、長い間苦労して一生懸命年金を支払ってきたという気持ちや、年金は老後の生命線なのにこれを持って行かれたらひとたまりもない、という気持ちがあるようです。

また、年金分割の制度自体についても、実際の年金支給額が決まった段階で、(老齢基礎年金も含む)支給額の半分を相手に持って行かれる制度だ、という誤解が多いようです。

しかし実際には、先に説明させていただいた通り、婚姻期間中の厚生年金記録を分割する制度です。実際に試算してみると、分割による影響は意外と小さい(裏を返すと、請求する側からすると思ったほどもらえない)ということも少なくありません。

年金分割の制度は、とにかく誤解や先入観、抽象的な不安を持たれていると感じることが多い制度です。相手に正確な情報を伝えることによって、話をスムーズに進めることができるかもしれません。

また、分割の割合(按分割合)について揉めることがありますが、話し合いがつかず裁判所で判断されることになった場合、特段の事情がない限り、按分割合は0.5(50%、半分ずつ)とされます。年金分割の趣旨が、財産分与と同様と考えられるためです。

◎話し合いのコツポイント
年金分割を請求するメリットがあるのか否かをきちんと検討しましょう。
相手に制度を正確に理解してもらうことによって、無用な争いを回避できるかも。

<法律上のツボ>
●分割の手続き
按分割合について合意ができた場合には、2人で年金事務所に行って手続きを行います(公正証書がある場合には、1人で手続きをすることもできます)。

また、按分割合について合意ができなかった場合には、離婚前であれば離婚調停で (離婚調停がまとまらなかった場合には離婚訴訟で)、離婚後であれば年金分割の調停で(調停がまとまらなかった場合には審判で。なお、いきなり審判を申し立てることもできます)按分割合を定めてもらい、按分割合が表示された裁判所の書類 (判決書又は決定書と、確定証明書。あるいは、調停調書)を年金事務所に提出して分割の手続きを行うことになります。この場合には、1人で手続きを行うことができます。

離婚後少し経ってから年金分割をしていないことに気が付いた等、按分割合について合意できそうであっても改めて2人で一緒に年金事務所に行くということに抵抗がある場合もあると思います。また、一方がすでに遠方に引っ越してしまっているため、2人で公証役場に行くことが難しいという場合もあるかもしれません。

もちろん、代理人を立てることはできますが、それはそれで煩雑です。また、公正証書があれば1人で手続きをすることができますが、公正証書を作る際に、結局同じような問題が生じます。

このような場合、投分割合に争いはなくても、裁判所に年金分割の審判を申し立ててしまう、というのもひとつの手段です(無用のトラブルを避けるため、審判を申し立てることを、あらかじめ先方に伝えておいた方が良いと思います)。

また、年金分割のことを失念していた場合だけではなく、離婚調停成立の時までに情報通知書の取得が間に合わない場合(この場合には、離婚調停内で按分割合を定めることができません)に、按分割合については定めずに離婚調停を成立させた上で、後日、別に審判を申し立てて、按分割合を定めてもらうことがあります。

なお、今までの経験上、按分割合に争いがない年金分割の審判を申し立てて裁判所への出頭を要請されたことや、調停手続に変更されたことはありません。しかし、制度上は、裁判所から出頭を要請されたり、審判手続を調停手続に変更される可能性があります。裁判所に、実質的に争いがないこと、2人で分割の手続きに行くことが困難であるために申し立てているということを丁寧に説明するようにしてください。

●3号分割
今までの年金分割の話は、合意分割という制度の説明です。それとは別に、2人の間の合意を必要としない、3号分割という制度があります。

3号分割とは、簡単に言ってしまうと、平成20年5月1日以後に離婚した(今、離婚を考えてこの本をお読みの方は、全員が対象になると思います)、国民年金の第3号被保険者(いわゆる扶養家族の状態)の方からの請求で、平成20年4月1日以後の婚姻期間中の3号被保険者期間における相手の厚生年金記録を、2分の1ずつ分割
する制度です。

注意していただきたいのは、分割の対象となるのは、平成20年4月1日以後の記録だけで、それ以前から婚姻している夫婦の場合は、やはり、今まで説明してきた合意分割の方法が必要になります。なお、合意分割の請求が行われた場合、3号分割の対象となる期間が含まれるときは、同時に3号分割の請求があったものとみなされます。

なお、3号分割は合意を必要としない(請求で行える)ものですので、必要書類 (事前に年金事務所に電話で確認いただいた方が正確だと思います)を用意の上、1人で年金事務所で手続きをすることができます。

◎法律上のツボポイント
合意分割は2人で一緒に手続きするのが原則ですが、1人で手続きする方法もあります。
3号分割は分割の対象期間に注意して。

◎用語の解説
・年金分割:婚姻期間中の厚生年金記録等を二人の間で分割し合う制度。詳細については3-12節参照。
・調停【調停調書】:裁判所における、非公開の話し合いの手続【その話し合いの結果が記載された公的な書類】。原則としてお互いに顔を合わせることはなく、守秘義務を負う調停委員が間に入り、話し合いを進めていく。詳細については、4-3節参照。
・財産分与:婚姻中に夫婦で形成した財産を、離婚に伴い分配・清算する手続き。詳細については、3-2節参照。
・公正証書:公証役場で、公証人(検察官や裁判官のOB/OGが多い)による意思確認の上で作成される書類。詳細については、2-10節コラム参照。
・審判手続:調停で話し合いがつかなかった場合等に行われる手続。審判官(=裁判官)が結論(養育費の金額等)を決める手続であり、一般にいう訴訟のようなもの。ただし、訴訟と異なり、非公開である。
・決定 【決定書】:審判手続における審判官(=裁判官)の結論 【結論と理由が記載された書類】。例えば、話し合いがつかない場合に、分担すべき婚姻費用の金額についてなされる。一般の方がイメージする判決に相当する。

【コラム】退職金は財産分与の対象になるの?
退職金は、年金と並ぶ老後の備えでもあり、離婚に際しての取り扱いは、大きな関心事であろうと思います。

退職金は、財産分与の枠組みで清算することになります。すでに支給済みの退職金については、預貯金と同じような形で清算されることになります。

他方で、これから支給される退職金については、あくまで将来支給が予定されているにすぎず、支給が確定しているものではないため、そもそも財産分与の対象となるかについて争いがあります。

多くの裁判例は、退職金を近い将来に受領しうる蓋然性が高い場合には財産分与の対象になる、と判断しています。そして、この蓋然性の判断にあたっては、会社の経営状態をはじめとして、様々な事情を考慮しますが、特に重要視していると考えられる事情は、定年までの期間のようです。概ね、退職金が支給されるまで
の期間が10年を切る場合には、蓋然性があるという判断になりやすいようです。

とはいえ、退職金が支給されるまでの期間が10年を超える場合に、退職金の存在が全く考慮されないわけではなく、財産分与額を算出する一事情として考慮する、としている裁判例もあります。

また、分与すべき金額や時期については、裁判例によって判断が異なるようです。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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