『離婚のツボとコツ』

3-1 離婚するなら、慰謝料は必ずもらえますよね?


<性格の不一致が原因で協議離婚 慰謝料を求められました>
お互いに、不倫や暴言・暴力等があったわけではないのですが、何か違うよね、ということになり、協議離婚することになりました。

離婚届を提出し、これで全て終わったと思ったら、突然、相手から「慰謝料はいく
ら支払ってもらえるの?」言われました。

 

<話し合いのコツ>
●相手に落ち度がなければ慰謝料は請求できません
例えば、相手が不倫をしていた、相手から暴力があった、という場合には、当然、感謝料を請求することができます。しかし、慰謝料とは、簡単に言うと、相手から精神的苦痛を受けたことに対する損害賠償ですから、相手に何の落ち度もない場合には、請求することはできません。

 

妻側からの離婚相談において、付き添ってきた年配のお父さんから、女性は常に感謝料を請求できることを前提としているのではないかと思われる質問が出ることがあります。その質問の根っこには、おそらく、離婚により傷物になった、戸籍にバツがついた、という意識があるのだろうと思います。

 

しかし、繰り返しになりますが、法律はあくまで、相手に落ち度がある場合にしか慰謝料の請求を認めていません。 離婚に至ったことについて、相手に落ち度がないのであれば、慰謝料の請求は認められません。

 

他方で、夫婦の一方が専業主婦(夫)の場合、今後、仕事を探すにせよ、当面の生活に困ってしまいます。また、離婚に伴い引っ越し費用もかかります。そのような生活費等を賄ってもらうために、財産分与 (3-2節、3-8節参照)という制度があります。

しかし、結婚してからの期間が短かったり、若い夫婦であったりすると、財産分与の対象となる財産がほとんどなく、財産分与では当面の生活費等を賄うことができません。

 

そのような場合には、(法律上の根拠はさておき) 相手に一定の金銭を支払ってもらうという協力をお願いせざるをえません。ただ、ここで、まるで相手に落ち度があったかのような「慰謝料」という言葉を利用すると、相手としても不愉快な気持ちになり、協力してもらえないことも十分ありえます。

 

相手に落ち度がない場合には、慰謝料という名目ではなく、「解決金」、あるいは「生活支援金」や「引っ越し資金」という名目で協力をお願いしてみた方が、スムーズに話がまとまるかもしれません。

 

ただし、基本的には相手に法的な義務のない協力をお願いしていることになるため、例えば、分割払いの場合に書面化(特に非常に手間のかかる公正証書化) にこだわりすぎると、相手がヘソを曲げてしまうかもしれません。

 

●慰謝料は原則として一括払いです
今度は、法律上感謝料の請求が認められる場合の話です。

 

法律上、慰謝料の請求が認められる場合、その支払いは一括であることが原則です。
とはいえ、例えば不倫の慰謝料の相場は200万円前後ですが (3-4節参照)、200万円という金額は大金で、一括で支払えない場合は少なくありません。相手にお金がない以上、このような場合に、一括で支払ってもらうことは事実上不可能です。不本意であっても分割を前提に話し合うしかありません。ただ、分割という不利な条件を受け入れるからには、きちんと最後まで支払ってくれる方法を考えたいところです。

その方法として考えられるのが、例えば、分割できちんと支払ってくれた場合には、一定金額の支払を免除するという形で、きちんと支払うことに対するインセンティブを設定する、という方法です。

具体的には、慰謝料として200万円を支払って欲しい場合、慰謝料の金額としては250万円と決めておいて、その上で、200万円をきちんと支払ってくれた場合には50万円を免除する、という内容の契約を交わすことが考えられます。支払う側は、きちんと支払わないと、さらに50万円多く支払うことになるため、頑張って支払いますし、受け取る側は、万が一滞納があった場合には、50万円多く請求できるということになります。

このような内容の契約書のサンプルを、「離婚協議書」として次のページに掲載しています(なお、サンプルは、総額50万円で、40万円を支払った場合には、10万円を免除する、という内容です)。

 

●婚協議書(サンプル)
離婚協議書
甲 カエル男(夫。支払う側)
乙 カエル子(妻。受け取る側)
は、本日,以下の通り合意するとともに,その確認のため、本離婚協議書を2通作成し、各自保管することとする。
(中略)

 

第3条
甲は、乙に対し,本件離婚に伴う生活支援金として,金50万円の支払い義務を負うことを確認する。

 

*名目に配慮した記載例です。法律上,慰謝料の請求が認められる場合でも,このような形で名目に配慮することによって,話し合いがまとまりやすくなる場合があります。

 

第4条
甲は,前条の債務につき,平成27年9月より同年12月まで毎月末日限り金10万円を,下記口座に振り込み送金して支払う。振込手数料は甲の負担とする。

 


かえる銀行 雨宿り支店
普通 13579
カエル 子
(カエル コ)

 

*契約書としては定番の記載方法ですが,一般の方からみると分かり難い記載かもしれません。平成27年9月より12月までの4ヶ月間,毎月月末までに10万円を支払います,という内容です。「限り」という表現は、大雑
把にいうと、「までに」という意味ですので,当月分をその月の1日に支払っても構いませんし、極端な話、いきなり全額を支払っても(繰上げて支払っても)構いません。
他方で、月末が休祝日の場合、翌月頭に着金するような振り込みでは期限に間に合っていない、ということになります。
ちなみに,平成27年9月から12月まで毎月10万円ずつ支払っても、その合計額は40万円で,第3条の50万円には足りません。5条で解説しますが, この4条~6条の記載で,きちんと支払った場合は40万円でいいけれど、滞納があった場合には50万支払ってもらう、という内容を実現しています。

第5条
甲が,前条の支払いを2回以上怠りその額が20万円に達したときは,当然に期限の利益を失い、甲は乙に対し,第3条の金員から前条の既払金を控除した残金及びこれに対する期限の利益を失った日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を,前条記載の口座に直ちに振り込み送金して支払う。

*「期限の利益」というのは、お金を分割払いできる権利のことです。2回以上滞納し、しかもその滞納金額が20万になった場合には、分割払いを認めず,残金を一括して支払ってもらう、という内容になっています。
具体的な事案にあてはめてみると,平成27年9月,10月と,1円も支払わなかった場合には,10月の支払日である10月31日の経過により、2回滞納し、滞納金額が20万円に達したことになるため、甲は期限の利益を失います。したがって,11月1日から,乙は甲に対して,一括での支払いを請求できることになります。4条で支払う金額の合計は40万円ですが、第3条によると,甲が負担している債務はあくまで50万円ですから,期限の利益を失い一括での支払いになる場合には、50万円を請求することができます。また,年5分の遅延損害金も請求できます。
別の例で、9月末日に2万円,10月末日に1万円,11月末日に7万円の支払いがあった場合,10月末日の時点で,すでに2回滞納していますが(10万円支払う約束で10万円減額を支払えなかったことが,「怠り」とカウントされます)、この時点での滞納額は,合計17万円のため、甲が期限の利益を失うことはありません。11月の滞納をもって、滞納が3回でかつ滞納額合計が20万円に達したことから、甲は期限の利益を失うことになりま
す。この場合は、12月1日から,乙は甲に対して,40万円(50万円(3条) - 2万円(9月既払分) - 1万円(10月既払分) - 7万円(11月既払分))を一括で支払うよう請求することができます。また,40万円に対して、年5分の遅延損害金も請求できます。

第6条
甲が,4条の債務を遅滞なく履行した場合には、乙は、甲に対するその余の請求を放棄する。

*第3条で50万円の支払い義務があることを確認しているにもかかわらず,4条では40万円の支払い方しか決めていません。そのため,残りの10万円の扱いについて、決めておく必要があります。4条で定めた4回の分割を
きちんと支払った場合には,残りの10万円は免除するという内容です。
(中略)
平成27年9月1日
甲 東京都港区南青山(略)
カエル太郎 (印)
乙 東京都港区南青山(略)
カエル花子 (印)

 

◎話し合いのコツポイント

支払いの名目次第では、話し合いがこじれることも少なくありません。
慰謝料を分割で支払ってもらう場合には、きちんと支払い続けてもらえるような仕組みを。

<法律上のツボ>
●慰謝料請求の根拠
慰謝料請求について、その法的な根拠は、民法709条及び民法710条とされてい

 

【条文】

民法709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

民法710条(財産以外の損害の賠償)
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

 

民法709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています。

そして、民法710条は、「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない」と定めています。

精神的な苦痛は、民法710条にいう「財産以外の損害」(=慰謝料)です。そし(民法710条は、前条(709条)の規定により損害賠償の責任を負う場合に、「財産以外の損害」の賠償をする責任があるとしていますから、どのようなときに民法709条の規定により損害賠償の責任を負うことになるのかを確認すると、「故意又は過失
よって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した」場合であることがわかります。

このように、慰謝料を請求するにあたっては、相手に「故意又は過失」があることが要求されているため、相手に落ち度があることが必要です。また、「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した」ことが要求されているため、例えば、普通の口論程度では、権利や利益の侵害がないということになり、慰謝料請求は認められません。

 

●手続きの進め方
親権者をどちらに定めるかという問題とは異なり、慰謝料についての問題は、話し合いがまとまっていなくても、離婚を成立させることができます。その場合には、離婚を成立させた上で、引き続き話し合いを続けることになります(その際の注意点等も含めて、3-13節参照)。

ただ、一般に、離婚が成立してしまうと、相手が誠実に話し合いに応じてくれなくなることは少なくありません。また、いくつかの交渉材料を失うことになります。さらに、相手も、全てまとめて解決したいという気持ちが強い場合がほとんどで、とりあえず離婚を成立させ、それ以外については引き続き話し合いを続けるという方法について拒否的な場合は少なくありません。

 

法律上、慰謝料の請求が認められる場合であるにも関わらず、相手が慰謝料の支払いに応じない、あるいは慰謝料の金額について話し合いがまとまらない場合、一般的には、離婚調停を家庭裁判所に申し立て、その中で慰謝料の金額について話し合いをすることになります(離婚するつもりがない場合については3-7節参照)。

離婚調停の場でも、慰謝料について話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所に離婚訴訟を起こして、その中で慰謝料を請求していくことになります。訴訟になると、慰謝料請求の根拠となる事実について、証拠による証明が求められるようになるため、手持ちの証拠でどこまで証明することができるのか、ということも考えていく必要があります (3-6節参照)。場合によっては、一定程度譲歩する必要もあるかもしれません。

◎法律上のツボ ポイント

慰謝料請求にあたっては、相手の落ち度や権利・利益の侵害があったのかどうかがポイントです。
一般的には、「話し合い」→「調停」→「裁判」という流れで進んでいきます。

 

◎用語の解説
・慰謝料:精神的な苦痛に対する損害賠償(金銭請求)。詳細については、3-1節参照。
・財産分与:婚姻中に夫婦で形成した財産を、離婚に伴い分配・清算する手続き。詳細については、3-2節参照。
・親権【親権者】:子どものしつけや日常生活の世話 (監護教育)との子どもの代わりに契約や財産の管理 (法定代理人)をする権限 【その権限を持つ者】。詳細については、2-1節参照。
・調停【調停調書】:裁判所における、非公開の話し合いの手続「その話し合いの結果が記載された公的な書類】。原則としてお互いに顔を合わせることはなく、守秘義務を負う調停委員が間に入り、話し合いを進めていく。詳細については、4-3節参照。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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