『離婚のツボとコツ』

1-3 自分で不貞しておきながら、離婚してくれと言われました!


<不貞相手と一緒になりたい>
ある日、夫が突然、不貞相手と一緒になりたいと言って離婚届にサインを求めてきました。
あるいは、ある日帰宅すると家に妻の姿はなく、「他の男性と一緒になります」という置き手紙とともに、妻がサインした離婚届が机の上に置かれていました。

<話し合いのコツ>
●不貞している側からの離婚請求は、裁判では原則として認められない
離婚は、お互いが合意してさえいれば、特に理由がなくても成立しますが、お互いが合意できない場合には裁判になります(1-1 節参照)。
とはいえ、裁判所は、離婚に至るような原因を作った側(有責配偶者といいます)からの離婚請求は原則として認められない、としています。不貞をしている側から離婚の訴訟を起こしても裁判所は、簡単に離婚を認めません。
冒頭の前段のようなケースでは、相手に威圧されたり、「離婚なんて簡単にできるんだ」などと脅されて、そのまま離婚届にサインをしてしまうことも少なくありません(離婚したくないにも関わらずサインをしてしまった方は、すぐに本節のコラムを読んでください)。しかし、実際には有責配偶者からの離婚請求は、そう簡単には認められません。もし、本当に離婚したくないのであれば、簡単に離婚届にサインをするべきではありません。

なお、「離婚に応じてくれなくても俺は出て行く! 生活費は払わない!」と言われるケースもあるようですが、その場合でも、生活費を請求することはできます(1-2節参照)。

●有責配偶者の側から
もし、話し合いがうまくいかず、裁判になってしまうと、離婚が認められる可能性はかなり低いと言わざるを得ません。そのため、離婚という結果を勝ち取るためには、今更ではありますが、相手に対して誠実に対応する必要があります。
離婚に際しては、様々な決め事をします。例えば、金銭に関することとして、財産分与や慰謝料に関することを決める必要があります。また、子どもに関することとして、養育費や面会交流に関することも決めなくてはなりません。
離婚というリスタートにあたって、相手が希望していること、不安に思っていることを、お金の問題に限らず丁寧に確認して(この際、第三者の意見や視点を求めるために弁護士に相談してみるのも良いかもしれません。弁護士への相談は、なにも争うためだけにするわけではありません)、そのひとつひとつに誠実に対応していけば、相手も離婚する気持ちになってくれるかもしれません。
例えば、私の経験の中では、子どもの学区を変えたくないから15歳まで今の家を使わせて欲しい、保育園に入れなかったから子どもの保育を手伝って欲しい、といった要望に対応したケースがあります。

◎話し合いのコツポイント
本当に離婚したくないのなら、離婚届にサインをするのは絶対にやめましょう。有責配偶者は、離婚に関して相手の不安がなくなるような誠実な話し合いを心掛けましょう。

<法律上のツボ>
●有責配偶者からの離婚請求に関する、裁判所の考え方
かつて裁判所は、自分が不貞をしたことによって婚姻関係が破綻した(=婚姻を継続し難い重大な事由がある)という理由で離婚の裁判を起こした者に対し、その主張は要するに、勝手に愛人をつくった上で、その愛人がいるから妻とはもう同居できないので追い出したいということだから、そんな請求を認めたら「全く俗に言う踏んだり蹴ったりである。法はかくの如き不徳義勝手気儘を許すものではない」と判示しました。有責配偶者からの離婚請求はそもそも認めない、という態度です。
その後、昭和62年頃に、裁判所は、有責配偶者からの離婚請求であっても、それだけで認めないとはせずに、いろいろなことを考慮して、有責配偶者からの離婚請求でも認められることがあるよ、と態度を変更しました。
どういう場合に有責配偶者からの離婚請求が認められる可能性があるかというと、
(1) 夫婦の別居期間が、夫婦の年齢や同居期間との対比で相当長期間であり
(2)夫婦の間に未成熟の子 (小さい子)が存在せず
(3) 離婚を認めることが社会正義に反しない(例えば、離婚により、相手が精神的・社会的・経済的に過酷な状況になることがない、など)
といった場合だと判示しました。

ただ、あくまでも、このような条件をクリアできる場合であれば、有責配偶者からの離婚請求だという理由だけで離婚を認めないということはしない、という意味であって、このような条件をクリアできる場合に、常に有責配偶者からの離婚請求が認められると判示しているわけではないのが、わかりにくいところです。

 

<有責配偶者の側から>
話し合いのコツにも書きましたが、話し合いがうまくいかずに裁判になってしまうと、有責配偶者からの離婚請求は、なかなか認められないのが実情です。仮に、既に訴訟になってしまっているのであれば、相当厳しい状況です。裁判所に離婚を認めてもらうためには、先の (1) ~ (3) の条件をクリアしていること、二人の婚姻生活が破綻していることなどを、裁判所に丁寧に伝えていくしかありません。その意味で、法律上のツボは、「裁判になる前に何とかすること」と言えます。

他方で、世の中では、有責配偶者という言葉が一人歩きしていることもあるようです。
例えば、夫の暴力がきっかけで不貞をし、その不貞が夫にバレてしまったところ、「お前は有責配偶者だからもう離婚請求することはできないのだ」と言われ、それを信じていた方もいらっしゃいます。もちろん、詳細に事情をうかがわないと判断できない部分もありますが、このようなケースでは、離婚が認められる場合が多いのではないかと思います。

夫婦関係は人間同士の付き合いですから、一方が完全に悪く、他方が完全に正しくて離婚に至るというケースは、ほとんどないのではないかと思います(もちろん、悪さの比が、9:1だったり、8:2だったりすることはあるのではないかと思います)。

 

そういった意味で、離婚をしたい側であっても、夫婦生活を振り返ってみて、あそこは私もまずかったなあ、と思う点はあるのではないでしょうか。ただ、それがどれくらいまずいことなのか、という評価の話になると、責任感が強い人ほど過大に責任を感じてしてしまい、客観的に判断できないものです。友人や弁護士に相談してみると、意外と「それは相手の方が悪いよ!」という言葉が返ってくるかもしれません。

 

◎法律上のツボ ポイント
裁判になる前になんとかしましょう。
責任感、強すぎませんか?

 

【用語の解説】
有責配偶者:離婚の原因(離婚事由) 作った側の配偶者。例えば、不貞をしたり、暴力を振るったりしている側の配偶者。詳細については、1-3節参照。
財産分与:婚姻中に夫婦で形成した財産を、離婚に伴い分配・清算する手続き。詳細については、3-2節参照。
慰謝料:精神的な苦痛に対する損害賠償(金銭請求)。詳細については、3-1 節参照。
養育費:親が支払わなくてはならない、子どもの生活費。親権者でなくなっても、親子関係はなくならない。詳細については、2-5節参照。
面会交流:離婚や別居により子どもと離れて暮らしている親が、子どもと会うこと。詳細については、2-11節参照。

【コラム】不本意にも離婚届を書いてしまったら
離婚は、元々は一番親しく、日常生活を共にしてきた間柄の相手とのトラブルですから、感情的になってしまうことも少なくありません。勢いで離婚届にサインをしてしまった、という話を聞くこともあります。また、家庭内という密室内での話し合いですから、相手に脅迫されてサインをしてしまうこともあるかもしれません。
そんな時は、すぐ市役所に行って、離婚届不受理申出書を提出してください。これを提出すると記入済みの離婚届であっても、市役所で受け付けられなくなります。
もちろん、相手に脅迫されてサインした離婚届による離婚は、後日、裁判手続で無効(離婚がなかった、すなわちまだ結婚している状態)であると主張することができます。ただ、その手間はとても大変なものです。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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