『相続実務のツボとコツ』

2-5 信託はどうやって始まるの?


<信託のはじまり>
信託の開始事由には主に、①信託契約、②遺言信託、③自己信託の3つがあります。

①信託契約
受託者は受益者(信託財産から生ずる利益を受ける人)の為に信託財産の管理・処分を行います。信託契約は、意思の合致があれば口頭でも有効に成立しますが、通常は公正証書等の書面により作成します。
信託は長期に渡る財産管理の仕組みであるため、私文書では、書換えや紛失等のリスクがあります。権利内容の確実性という観点から、公正証書で作成するのが無難でしょう。

②遺言信託
遺言の中で信託の仕組みを取り入れたものを遺言信託といいます。遺言信託では、誰にどの財産を承継させるかという従来の遺言機能に加え、承継させた財産を誰がどのように管理・処分するかという仕組みまでを設定することが可能です。

生前の信託契約では、信託する財産を特定する必要がありますが、遺言信託では、包括的な財産の管理処分権を受託者に託することがメリットといえるでしょう。

一方で、遺言という性質上、いつでも内容の変更や撤回が可能ですし、本人の死亡により効力が発生するため、生前の財産管理としての機能がないため活用頻度は高くありません。

③自己信託
自己信託とは、委託者自身が受託者として、受益者の為に自己の財産を信託財産として管理・処分する形態の信託です。適当な受託者がいないため、一旦自己信託でスタートするケースや、自己の財産を信託財産として分別しておきたいときなどに活用します。

信託契約や遺言信託では、自己以外の者を受託者としているのに対し、自己信託では、自己に財産を託す形態ですので、自分1人で可能です。そのため、要件を厳格化しており、自己信託を開始するには、基本的には信託契約書を公正証書で作成しなければなりません。

<信託できる財産とできない財産>
信託財産として託す財産には制限はありません。ですから、財産価値のあるものであれば信託可能です。例えば、「現金」「未上場株式」「動産」「不動産」「有価証券(上場株式、投資信託、国債など)」です。

しかし、実務で実際に活用されているのは、「現金」「不動産」「自社株式(未上場株式)」がほとんどです。

一方で、負債単体や本人と切り離すことのできない、生命や身体、名誉など、金銭的価値に置き換えることができないものは信託できません。例えば、生活保護や年金受給権などがこれにあたります。

信託財産の管理、処分、滅失、損傷その他の事由により受託者が得た財産についても、信託財産となります。例えば、信託財産中の不動産を売却した場合、売却して得た金銭は信託財産となります。

<現金や不動産を信託した場合の取り扱いは?(信託が開始したら何をするのか)>
信託契約により、委託者の財産を信託財産に組み入れた場合、組み入れた信託財産の所有権は委託者から受託者へ移転します。受託者は、分別管理義務の一環として、信託財産を自己の財産を分別して管理する必要があります。

①不動産
不動産を信託すると、委託者から受託者へ所有権が移転しますので、対象不動産の所有権移転登記をする必要があります。この登記をすることで、登記簿上は受託者が所有権者という形で登記され、形式的な所有者として扱われます。通常の所有権移転ではなく、信託による所有権移転となり、信託目録も同時に登記されますの
で、信託不動産かどうかは登記事項証明書を取得することで確認できます。

②現金
現金を信託した場合、受託者専用の口座で現金を管理するのが通常です。これを信託ロ口座といいます。受託者が破産してしまった場合に信託財中の預金が破産財団に加えられてしまったり、受託者が死亡した場合に口座が凍結されるといったことがないように、金融機関と打ち合わせし、口座開設をします。

金融機関によっては、信託口口座に対応していないケースもありますので、信託契約を進める段階から金融機関との打ち合わせを行い、信託についての説明を行うことが重要です。

③上場株式
上場株式や投資信託も証券会社が信託口口座に対応しているケースが少ないため、受託者が管理できない場合があります。その場合はやむを得ず、株式を現金化したり、代理人届を提出することによって、受託者ではなく、代理人として手続きをとれるような対応をするケースが多々あります。

◎用語の解説
・破産財団:破産財団とは、破産者が破産手続き開始の時点で有していた一切の財産で、破産手続きにおいて選任された破産管財人に管理・処分権があるものをいいます。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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