『離婚のツボとコツ』

2-3 収入がなくても親権者になれますか?


<専業主婦だったので、収入がありません>
夫はとにかく仕事一筋で、1歳になる子どもの育児を手伝ってくれたことはありません。ただ、その分、夫の収入には恵まれていました。私はそんな夫を支えるために、長く専業主婦をしてきたため、収入は一切ありません。

今回、夫の不倫が理由で離婚することになり、パートを探していますが、働いていなかった期間が長いため、なかなか職が見つかりません。

夫は今まで育児には全く興味を示していませんでした。そのため、離婚に際しては、当然私が子どもの親権者になるものと思っていました。ところが、最近になって夫が、「収入もないのに子どもは育てられないだろう」と言いだし、突然、親権者になると主張してきました。

<話し合いのコツ>
●お金以外の点についてもきちんと話し合いを
子どもを育てていくにあたり、お金はあるに越したことはありません。しかし、お金があるだけでは子どもを健やかに育てていくことはできません。子どもが健やかに育つためには、親からの様々な手助けが必要です(2-2参照)。

相手とは、子どもが健やかに育つために必要な手助けはお金に限らないこと、お金がない場合であっても、養育費や様々な公的支援の制度があることを、確認し合ってみてください。

また、実家を頼ることができる場合には、実家に戻れば家賃がかからない、食費を抑えることができる等の、実家からの援助も念頭に、話し合ってみてください(そうなると、当然相手からも、実家に帰れば日中は親が子どもの身の回りの世話を手伝ってくれる、という話が出てくるだろうと思います)。

そういったことを踏まえた上で、子どもへの手助けの役割分担として、どちらがー緒に暮らす方が適切なのかという視点から話し合いをしていただければと思います。

◎話し合いのコツポイント
収入だけにとらわれない話し合いを。

<法律上のツボ>
●収入の多寡は大きな影響を与えない
話し合いがつかないと、裁判所に調停を申し立てることになります。裁判所に調が申し立てられると、家庭裁判所調査官が様々な事情を調査し、調査した事情を合的に判断して、どちらの親を親権者と定めるべきかについての報告書・意見書を作成します(2-1参照)。

収入の多寡というのは、この総合的な判断にあたっての一事情という位置付けになります。そして、個人的な経験としては、収入の多寡というのは、考慮事情としてこのウェイトはそこまで大きくないという印象があります。これは、極端なことをいうと収入が少ないことだけが問題なのであれば、相手がきちんと養育費を支払えば問題が解消される、とも言えるからです(あくまで極端な話です)。

なお、以下で説明させていただくように、我が国には、収入が少ない家庭を支える公的な制度が数多くあり、それらの制度を利用することによって収入の少なさを一定程度カバーすることも可能です。

●家計を助ける公的な制度
公的な制度は、支給金額や制度そのものが変更されることも少なくありません。あくまで、本書執筆時の制度です。

・児童手当
婚姻中から受給していることがほとんどだと思います。夫の口座に振り込まれている場合が多く、妻が子どもを連れて別居に至った場合、きちんと手続きをとらないと、夫の口座にそのまま振り込まれ続けることになります。そのまま振り込まれてしまった分は、婚姻費用あるいは養育費等と一緒に振り込んでもらってください。失念している人も少なくありません。
児童手当をはじめとする公的な給付の受給資格は、そのほとんどが、子どもと一緒に暮らしている人にあります。

・0歳~3歳未満:月額1万5000円
・3歳~小学校修了前:第1子につき月額1万円、第2子につき月額1万円、第3子以降につき月額1万5000円
・中学生:月額1万円
*4ヶ月分まとめての支給になります。
*所得制限があり、制限を越えると月額5000円になります。
*第1子・第2子・第3子以降の数えかたについては、出生から18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある児童の中で数えることになります。

<<児童手当における児童の数え方(具体例) >>
19歳、16歳、10歳、5歳の子を養育している場合、支給対象の子どもについいては、10歳の子どもが第2子の取扱い(支給月額10,000円)、5歳の子どもが第3子の取扱い(支給月額15,000円)となります。16歳の子どもは、人数には数えますが児童手当の支給対象とはなりません。また、19歳の子どもにっいては、児童手当の制度において人数ならびに支給額の対象になりません。

・児童扶養手当
簡単にいうと、原則として子が18歳以下の母子家庭または父子家庭であれば支給を受けられる可能性があります。特徴的な受給資格としては、父母が婚姻中であっても、DV保護命令を受けた場合(1-5節参照)には支給を受けられる場合があるというものが挙げられます。
所得が一定以下の 合には、月額4万1430円が支給されます (子ども2人の場合には月額4万6430円。1人4万6430円ではなく、総支給月額が4万6430円になります。3人目からは1人増すごとに月額3000円加算)。
支給金額は収入によって減少し、養育費の一部も収入として考慮されます。

・児童育成手当(東京都)
簡単にいうと、父母が離婚しており、所得制限をクリアする場合には、子ども1人につき月額1万3500円が支給されます(障害児の場合、支給額が増えます)。

・生活福祉資金貸付制度
社会福祉協議会が行っているお金の貸付で、一定の低所得者世帯等を対象にしているものです。どのような貸付が得られるのかは、社会福祉法人 全国社会福祉協議会のWeb (http://www.shakyo.or.jp/seido/pdf/seikatu_1.pdf)を見てみてください。

本当に一時的な生活費に困っている時に、消費者金融から借りるのではなく、社会福祉協議会の緊急小口資金制度を利用するようにすると、利息等の点から、その後の生活への負担が大きく異なります。

・母子及び父子福祉資金(東京都の場合。但し同様の制度は各自治体にあります)
原則として、都内に6ヶ月以上お住まいの母子家庭の母又は父子家庭の父等で、20歳未満のお子さん等を扶養している方への貸付金(資金の種類により例外があります)です。資金の種類については、東京都福祉保健局のWeb(http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kodomo/hitorioya_shien/kashitsuke/boshi.html) を見てみてください。

・生活保護
簡単にいうと、収入がなく預貯金もない等、生活に困窮している場合に金銭の支給をはじめとする一定の保護を受けることができる制度です。なお、収入があっても、その収入が一定額に満たない場合には、その差額分の保護を受けることができます。DVでの避難中に利用するケースも少なくありません。

保護の申請窓口は、原則としてお住まいの地域を所管する福祉事務所になります(ほとんどの場合、市役所や区役所の中にあります)。

なお、自分の窮状を正確に伝えることができず、役所に保護の要件を満たさないと勘違いされてしまい、そのまま申請を断念されるケースもあるようです。福祉事務所の窓口で保護の要件を満たさないと言われた場合でも、やはり生活が立ち行かないという場合には、一度弁護士に相談してみてください。

・障害年金
離婚とは直接関係ありませんが、DVをはじめとして、辛い婚姻生活を長く続けてきた場合、うつ病を患ってしまう場合も少なくありません。うつ病も、その程度によっては障害年金を受給できる場合があります。
この他に、就労援助の制度や、公営住宅への優先入居、子どもの就学費用の援助、医療費の助成などの制度もあります。ぜひ、市役所などの行政機関で相談してみてください。

◎法律上のツボポイント
収入の少なさは、養育費や公的制度でカバーを。

<用語の解説>
・親権【親権者】:①子どものしつけや日常生活の世話 (監護教育)と②子どものたわりに契約や財産の管理 (法定代理人)をする権限その権限を持つ者。詳細に、ついては、2-1節参照。
・養育費:親が支払わなくてはならない、子どもの生活費。親権者でなくなっても、親子関係はなくならない。詳細については、2-5節参照。
・調停【調停調書】:裁判所における、非公開の話し合いの手続【その話し合いの結果が記載された公的な書類】。原則としてお互いに顔を合わせることはなく、守秘義務を負う調停委員が間に入り、話し合いを進めていく。詳細については、4-3節参照。
・家庭裁判所調査官:家庭裁判所で取り扱われる離婚等の家族に関する事件について、法律以外の観点からも適切な解決を図るべく、心理・教育・福祉の知見を有する専門職として事件に関与する裁判所の職員。
・婚姻費用:夫婦が共同生活を送るために必要な費用。簡単に言うと生活費。いわゆる養育費も含まれる。詳細については、1-2節参照。
・配偶者間暴力(DV): ドメスティック・バイオレンス (domestic violence)。一般的には、婚姻関係や内縁関係のある相手に対して行使される暴力のことであるが、最近では、婚姻関係や内縁関係のある相手に限らず、交際相手に対する暴力も含む概念として理解されるようになってきている。また、暴力の内容についても、物理的な暴力に限られず、心理的な暴力や経済的な暴力も含む概念として理解されるようになってきている。なお、上記は、あくまでも社会的な認識の解説であり、必ずしも「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(いわゆるDV保護法)」の定義とは一致しない。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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