『離婚のツボとコツ』

2-2 子どもは相手が親権者になることを希望しているのですが・・・


<子どもの身の回りのことができるのは私だけれど・・・>
夫は仕事人間で、朝早く仕事に出かけ、深夜に仕事から帰ってくるような生活がずっと続いており、休日も月に1回程度です。正直なところ、子どもの身の回りの面倒を見る時間も能力もないと思います。

 

現在、離婚のために別居をしており、私が子どもたちと一緒に暮らしているのですが、夫は長男の親権を希望しており、長男も夫のもとで暮らすことを希望しています。

 

このような場合、子どもの希望通りに親権者を定めることになるのでしょうか。さらに、私たち夫婦の間には、長女もおり、長女の方は私と暮らすことを希望し、います。長男と長女の仲はとても良いのですが、別々に暮らすことになってしまうのでしょうか。

 

<話し合いのコツ>
●子どもが必要とする手助けをきちんと受けることができる環境を作る
子どもが健やかに育つためには、親からの様々な手助けが必要です。子どもは、自分でお金を稼ぐことはできません。仮にお金があっても、まだ、炊事や洗濯など日常の家事はできない年齢かもしれません。入学後は学校の先生と連絡を取りあって、協働して子どもの指導をする人も必要です。さらに、貴重な体験をするためにどこかに連れて行ってあげる人や、悩みを聞いてあげる人も必要です。悩みも、その内容によっては同性の方が話しやすいかもしれません。

このように、子どもが健やかに育つために必要な手助けは、様々なものがあります。この子には、どんな手助けが必要で、自分はどんな手助けをすることができる能力と時間的余裕があるのかを話し合ってみてください。その結果として、自分ができる手助けが、必ずしも一緒に暮らしていなくても提供することができる手助けであり、相手ができる手助けが、一緒に暮らしていないと提供することができない手助けなのであれば、手助けの役割分担として、相手を親権者と定め、子どもと一緒に暮らしてもらうというのも一つの考え方だと思います。

もちろん、親権者でなくなる不安や、子どもと一緒に暮らせなくなる不安は大きいと思います。役割分担という形で納得・決断するためには、そのような不安感を払拭できるように、知識の共有や話し合いも必要です。

 

親権者でなくなっても親であることは変わらないという意識を夫婦で共有することは役割分担の大前提です(2-1節参照)。また、離れて暮らしている親と子どもが会う面会交流について具体的に取り決めをしておけば、一緒に暮らせなくなる不安を大きく軽減することができるかもしれません。

 

冒頭のケースのように、もともと、夫と子どもが触れ合う機会が月1回程度しかなかったケースであれば、面会交流について具体的な取り決めを行うことを通じて、離婚後の子どもとの交流について夫側に具体的なイメージを持ってもらうことができれば、「それならば今までとあまり変わらないから親権者は妻で構わない」という形で話し合いがスムーズに行く可能性もあります。

 

あくまで経験上の話ですが、今まで、離れて暮らしていること自体によって、親子の絆が薄くなったという例に接したことはないように思います。様々な事情で何年も会えていなかったにもかかわらず、成人を祝うメールが届いて、感動で泣き出したお子さんの話を聞いたこともあります。

 

きちんと愛情をもって接していれば、離れて暮らしていても、子どもは親のことが大好きなんだと思わされるエピソードは少なくありません。

 

●子どもの意思について
子どもを幸せにするための話し合いですから、子どもの意思は大切な判断材料です。他方で、子どもは、特に年齢が小さい頃は、必ずしも、様々な要素を考慮して長期的かつ広い視野で、自分にとって望ましい環境を選択できるわけではありません。

極端な話、小学校低学年くらいだと、宿題をやっていないことをいつも注意する親は嫌だ、遊園地に連れて行ってくれた親の方がいい、と言い出すこともありえます。

さらに、ここでいうこっちの親の方がいい、というものは、「どちらかといえば」くらいの意味であることも少なくありません(もちろん、深刻な虐待などがある場合は全く別の話です)。

子どもは、毎週遊園地に連れて行ってくれるお父さんと一緒に暮らすことを希望しているけれども、お父さんの仕事の忙しさなどを考えると、平日は育児放棄のような状態になる可能性が極めて高い場合には、子どもの意思にとらわれない判断も必要になります。

ただ、そのような場合、子どもに父親から捨てられたんだ、と思わせてしまっては逆効果です。きちんとフォローする必要があります(別居前に子どもと充分話し合ったり、別居後の面会交流を欠かさず、かつ、充実したものにするなど)。

他方で、子どもの年齢が大きく、特に、義務教育を終えるくらいになってくると、子ども自身が、自分にとって望ましい環境を選択する力を備えてきます。そうなってくると子どもの意思を尊重することが、むしろ、子どもの今後にとってよい環境を選択することにつながるのかもしれません。

 

冒頭のケースのような場合に、長男の親権者は父親に、長女の親権者は母親に、という形で話をまとめるケースもあるようです。子ども達の年齢が、それなりに大きい場合には、そのような結論もありえるかもしれません。

しかし、子どもたちの年齢が小さい場合には、子どもへの手助けの役割分担という視点で考えると、一方の親が二人の子どもの親権者となる方が好ましいケースが多いように思います。また、長男は父親を親権者に、長女は母親を親権者に希望している場合でも、子ども同士は離れたくない、と考えているケースは少なくありません。

子どもの間で誰を親権者と定めるかについての希望が違う場合、言い方は悪いかもしれませんが、子どもの言う通りにするのではなく、子どもが必要とする手助けをきちんと受けることができる環境を作る、という視点で、話し合いを進めていただければと思います。

 

◎話し合いのコツポイント
自分は、子どもにどういう手助けを提供することができるのかを明確に。
特に小さい子どもについては、どこまで子どもの意思を尊重するかは難しい問題です。

<法律上のツボ>
●親権者をどちらと定めるかは子どもの意思に拘束されない
父母のどちらを親権者と定めるかについて話し合いがつかないと、裁判所に調停を申し立てることになります。裁判所に調停が申し立てられると、家庭裁判所調査官が様々な事情を調査し、調査した事情を総合的に判断して、どちらの親を親権者と定めるべきかについての報告書・意見書を作成します (2-1節参照)

 

子どもの意思は、この総合的な判断にあたっての一事情という位置付けになります。判断にあたり、子どもの意思は考慮されるのですが、絶対的な判断基準とはされない、ということです。これは、裁判所が、今、その子にとって(日常的に)必要な手助けは何か、どのような環境で育つことがその子の健全な育成に資するのかという観点(裁判所の言葉で、「子の福祉に適う」と言います)から、どちらを親権者と定めるかを判断するためです。

また、子どもの意見を過度に重視するということになると、子どもはどちらの親も大好きなのに、一方の親が、他方の親を嫌いだと言いなさいというように子どもに働きかけ、子どもが板挟みになることもありえます。仮に働きかけがなくても、大好きな両親のうち一方を子どもに選択させる(あるいは、もう一方を捨てさせる)ような過酷な選択を迫ることにつながりかねません。いずれも、子どもに精神的苦痛を与え、PTSD を生じる可能性があります。

子どもの意見を過度に尊重することには、そのような弊害もあります。とはいえ、法律も、家庭裁判所が親権者を定めるにあたっては、15歳以上の子からは陳述を「聴かなければならない」としています(拘束されるという内容にはなっていません)。また、15歳未満の子については、法律の定めはないものの、家庭裁判所調査官による調査の際に子どもの意思の確認がなされていることが多いようです。

なお、15歳以上の子については、子の意思を尊重した結論になっているケースがほとんどのようです。
また、子どもの年齢が小さい場合、兄弟は一緒に暮らすという結論になることが多いようです。

 

◎法律上のツボポイント
裁判所は、「子の福祉に適う」かを基準に判断します。

<用語の解説>
・親権(親権者):①子どものしつけや日常生活の世話 (監護教育)と②子どもの代わりに契約や財産の管理 (法定代理人)をする権限その権限を持つ者)。詳細については、2-1節参照。
・面会交流:離婚や別居により子どもと離れて暮らしている親が、子どもと会うこと。詳細については、2-11節参照。
・調停【調停調書】:裁判所における、非公開の話し合いの手続【その話し合いの結果が記載された公的な書類)。原則としてお互いに顔を合わせることはなく、守秘義務を負う調停委員が間に入り、話し合いを進めていく。詳細については、4-3節参照。
・家庭裁判所調査官:家庭裁判所で取り扱われる離婚等の家族に関する事件について、法律以外の観点からも適切な解決を図るべく、心理・教育・福祉の知見を有する専門職として事件に関与する裁判所の職員。
・PTSD:心的外傷後ストレス障害 (Posttraumatic stress disorder)。いわゆるトラウマのこと。

【コラム】不倫と親権
「不倫」という言葉から、「子どもの教育に良くない」と連想される方は少なくないと思います。離婚の相談の中でも、「不倫をしているのですが親権は厳しいでしょうか」、あるいは、「相手は不倫をしているのだから親権者になれませんよね」という質問を頂くことがあります。

結論から言うと、裁判所は、親権者の判断にあたり、不倫をしていることそのものではなく、その不倫が子どもの養育にどのような影響を与えているのかを考慮します。

例えば、不倫にのめり込み育児放棄をしているといった場合や、不倫相手との離婚後の関係 (結婚や同居をするつもりなのか否か、一緒に暮らす場合に不倫相手は子どものことをどう思っているのか、子どもは不倫相手のことをどう思っているのか等)が吸味な場合は、親権者としてふさわしくないとの判断になりやすいと思いますし、逆に、不倫をしていても育児は完璧にこなしているという場合は、不倫が大きく問題視されることはないのではないかと思います。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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