『離婚のツボとコツ』

2-10 離婚時に「養育費は20万円」という書面を作ったのに支払ってくれません


<一度は書面で養育費の金額まで決めたものの・・・・・・>
離婚の際に、子どもの養育費として毎月20万円を支払ってもらう、という書面を作りました。しばらくは順調に支払われていたのですが、先日、相手から、やっぱり少しくらい減額してもらえないか、という連絡がありました。

<話し合いのコツ>
●ただの書面なら話し合った方が無難
養育費の問題は、可能な限り話し合いで解決した方が、手にすることができる養育費の額が結果的に増える可能性が高い、という話を前にしました (2-1節参照)。

とはいえ、冒頭のケースのような場合に、手元に公正証書や調停調書・決定書があるのであれば、減額の話し合いには応じずに強制執行という手続きをとるという選択をすることもできます(本節の「法律上のツボ」参照)。なお、特別な手続きを経て作成され、強制執行を行うことができるそれらの書面のことを債務名義といいます。

しかし、手元にあるのが、債務名義ではなく、2人の間で私的に作成した念書のような書面の場合には、話は変わってきます。結論から言うと、この場合には、減額の話し合いに応じた方が無難かもしれません。

債務名義ではないものを根拠に強制執行を行うことはできないため、念書しかない状況で相手が養育費を支払いたくないと言い出した場合には、債務名義を取得する必要があります。そのような状況で債務名義を取得する方法としては調停を申し立てる方法によることが一般的です。

そして、調停になると、算定表通りの金額に落ち着くことがほとんどです。調停において、事前の合意が尊重されないわけではないのですが、相場より飛び抜けて高い合意はまず尊重されませんし、事情の変更による養育費の減額も認められていることから (2-9節参照)、ほとんどのケースにおいて合意の内容は一旦白紙にして、ゼ口からの話し合いになるためです。

例えば、20万円の養育費を支払うという約束はあるものの、算定表上、養育費の相場が7万円である状況で、相手から減額の希望があったケースを考えてみたいと思います。

この場合、仮に相手との話し合いに応じず、相手が養育費減額の調停を申し立ててきた場合、最終的に養育費の金額は、7万円に決まる可能性が高いといえます。そうであれば、もし7~20万の間の金額で話し合いができるのであれば、その金額で応じたほうが、金額的にも労力的にも、何よりも相手の自主的な支払いを確保するという観点からも(しつこいようですが、養育費をきちんと確保するために一番大事なことは、相手に自主的に支払ってもらえるようにすることです)有利である場合が多いと思います。

◎話し合いのコツ ポイント
手元にあるのが債務名義でない場合には、話し合いで一定のところまで減額するほうが有利なことも。

<法律上のツボ>
●裁判所を利用した養育費の回収
相手から養育費の支払いがない場合、まずは支払いを促す (督促する)ことから始まります。それでも支払ってくれない場合、手元に債務名義がないのであれば、「話し合いのコツ」で説明したように進めていくことになりますが、手元に債務名義があるのであれば、裁判所を利用して回収することが可能です。

裁判所を利用する手続きの中で、一番簡単かつ穏便な手段は、「履行勧告」という手段です(ただし、この制度は、債務名義が公正証書である場合には利用できません)。履行勧告というのは、裁判所の職員が相手に対して、「養育費を支払っていないということですが、間違いないですか。きちんと支払っていただけませんか」という連絡をしてくれるものです。

具体的には、手元に調停調書や決定書を用意し、そこに表示されている裁判所の担当部署に電話で依頼して行います(裁判所ごとに若干異なるようです。また、電話ではなく、その裁判所の窓口に行って行うこともできます)。この際、履行勧告をしたいということや、調停調書や決定書に表示されている「事件番号」というのをきちんと伝えるようにしてください。

裁判所から、相手の携帯電話の番号や現住所を聞かれることもありますので、きちんと伝えられるように準備しておいてください。

ちなみに、支払わないのであれば過料(罰金のようなものです)を科してください、と申し出る制度もありますが、相手が支払った過料が養育費として自分に支払われいるわけではありません。かえって支払いが滞る原因にもなりかねず、個人的には使いにくい制度だと思います。

履行勧告をしても支払ってくれない、あるいは、債務名義が公正証書のため履行勧告ができないという場合には、強制執行をすることになります。
この場合には、相手の住所地を管轄する地方裁判所に所定の書類を提出して、預貯金や給与等の差押えを申し立てることになります。

この場合、差し押さえる財産を自分で特定しなければならず、財産の所在がわからない場合には、財産を見つけ出す調査も必要です。また、むやみやたらに差押えの申し立て繰り返すと、相手に警戒されてしまい、財産を隠されてしまうこともあります。

そうなると、今後の強制執行はますます困難になってしまいます。強制執行をする必要が生じた場合には、まず一度、弁護士に相談された方が良いと思います。

◎法律上のツボポイント
とりあえず、履行勧告まではしてみてもよいかもしれません。
差押えまでやるのであれば、きちんと弁護士に相談しましょう。

◎用語の解説
・養育費:親が支払わなくてはならない、子どもの生活費。親権者でなくなっても、親子関係はなくならない。詳細については、2-5節参照。
・公正証書:公証役場で、公証人(検察官や裁判官のOB/OGが多い)による意思確認の上で作成される書類。詳細については、2-10節のコラム参照。
・調停【調停調書】:裁判所における、非公開の話し合いの手続【その話し合いの結果が記載された公的な書類】。原則としてお互いに顔を合わせることはなく、守秘義務を負う調停委員が間に入り、話し合いを進めていく。詳細については、4-3節参照。
・決定 【決定書】: 審判手続における審判官(=裁判官)の結論 【結論と理由が記載された書類】。例えば、話し合いがつかない場合に、分担すべき婚姻費用の金額についてなされる。一般の方がイメージする判決に相当する。
・強制執行:調停等で決まった約束を相手が守らない場合に、国家権力が強制的に約束を守らせる手続の総称。例えば、差押えがこれにあたる。
・差押え:例えば、相手方が調停等で決まった養育費を支払わない場合に、相手の勤務先や預金先の銀行に対して、相手への給与の支払いや預金の払い出しを禁止した上で、申立人に支払わせる強制執行の方法。なお、相手の勤務先や実際に預金口座のある支店を特定して申し立てる必要がある。
・念書:いわゆる契約書のこと。これ自体は法律用語ではない。内容によって、和解書、離婚協議書等と題されることもある。
・履行勧告:裁判所で決まった養育費の支払いや面会交流の実施等が守られない場合に、申出により、裁判所が相手に対し、養育費の支払いや面会交流の実施を促す制度。詳細については、2-10節参照。

【コラム】調停調書と公正証書
調停調書とは、裁判所が作成する、調停での話し合いの結果を記載した書面のことです。また、公正証書とは、公証役場で公証人が作成する書面のことです。

いずれも、2人の間で私的に作成した書面よりも強い効果があります。

よく、調停調書と公正証書どちらが良いですかという相談を受けます。当然、回答はケースによりけりなのですが、その上で、回答者の好みのようなものもあると思います。私は調停調書をお勧めすることが多いように思います。

強制執行だけでなく履行勧告もできます。また、文案は裁判所が作成してくれます。費用についても、申立費用と郵便切手代をあわせて 2000円程度で済むことがほとんどです。

公正証書は履行勧告ができませんし、文案も自分たちで作成しておく必要があります(文書に不備があると期待通りの効果を得ることができず、万全を期すために専門職に文案の作成を依頼すると費用がかかります)。費用についても、内容によっては万単位でかかります。さらに、公正証書で強制執行を行う場合には、裁判所に提出するための書類を公証役場からも取り寄せなくてはならず、裁判所だけで完結しません。

もちろん、調停調書を作成するためには調停を行う必要があるため、裁判所に行くことに抵抗感があったり、申し立てから期日が入るまでの期間(1ヶ月から1ヶ月半)を持つことができないような場合には、公正証書を選択することになると思います。ただ、それらの問題をクリアできるのであれば、私は、調停調書の方をお勧めします。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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