『離婚のツボとコツ』

2-1 どちらが親権者になるのか、話がつきません


<そもそも親権ってなに!? 話し合いがつかないとどうなるの!?>
性格の不一致で、離婚をすることになりました。離婚そのものについては、お互い納得しています。ただ、どちらが子どもの親権者になるのかについて、全く話し合いがつきません。親権者でなくなるということについて漠然とした不安もありますし、そもそもどちらが親権者になるかについて話し合いがつかないとどうなるのでしょうか。

<話し合いのコツ>
●親権者とは何者なのか
婚姻中は、父母双方が子どもの親権者です。しかし、離婚の際には、どちらか一方を親権者として定める必要があります。離婚にあたっては、養育費や面会交流、財産分与や慰謝料、年金分割等といったことについても話し合うことになりますが、極「端な話、これらのことは、離婚後に話し合うこともできます(3-13節参照)。

しかし、どちらを親権者と定めるかについては、離婚届に記載しないと離婚届を受理してもらえません。どちらを親権者と定めるかについて、両者の間で合意が得られなければ、調停、さらには訴訟をすることになります。

親権者という言葉はとても一般的で、よく知られている言葉だと思います。他方で、親権がどういうものなのか、さらには、自分が親権者でなくなるということが具体的にはどういう意味なのかは、実はあまり知られていないように思います。それゆえの、親権者でなくなるということについての漠然とした不安が、離婚の際に、親権について争いを生じる、原因のひとつになっているように感じます。

簡単に言うと、親権者とは、子どもの代わりになって契約をしたり(例えば未成年の子どもが交通事故を起こした場合、示談に関する話し合いを行い、最終的に示談書にサイン等をするのも親権者の権限です。携帯電話等の契約の際に親権者の同意書が求められるのもそのためです)、子どもの養育(しつけや日常生活の支援など)について責任を負う地位のことです。

親権という言葉には、親としての権利のような語感がありますが、実際には、親として適切に行使しなければならない権限のことであり、責任や義務といったニュアンスがとても強いものです。親権者が定まるまで離婚届が受理してもらえないのは、離婚に伴い夫婦が別居するにあたって、子どもを庇護監督する法的な責任の所在を明確にするためとも言えます。

「親権者でなくなると親ではなくなるのでしょうか?」という質問を受けることがありますが、その答えはNOです。

「親権者でなくなったとしても、例えば、お子さんに会うことができなくなったりするわけではありません(もちろん、子どもの教育や安全等のためにも、面会にあたり、子どもと一緒に暮らしている親権者との連携は不可欠です。そのような観点から、今までのように子どもと自由に会うことはできません。2-11節参照)。

また、未成年の子どもが結婚する場合には同意が必要であるとされていますが、法律上、その同意権者は、親権者ではなく父母とされています。さらに、離婚をしても、親子相互の扶養義務は残ります。養育費の支払義務は、まさに、親子関係があることを根拠に発生するものです。その他、相続関係も残り続けます(本節のコラム参照)。

このように、離婚により親権者でなくなっても、法的に子どもの親であることは変わりません。子どもが成人して、親権に服さなくなると、子どもとの関係では、離婚後に親権者であった親と、離婚後に親権者でなくなった親の間には、少なくとも法的な立場としての違いはありません。

●情緒的な部分のフォローを
「親権者でなくなっても法的には親子のままです」と言われても、やはり寂しさを持つ人は少なくないと思います。また、別に(監護者の定めをおかない限り)親権者でなくなるということは、日常生活において子どもと離れて暮らすことを意味しますから、そういった意味でも寂しさはあると思います。子どもと離れて暮らすことになる相手の気持ちを踏まえて、話し合いをすすめていく必要があります。

特に、今後も親として子どもに関わることができるということについて、安心感や信頼感をもってもらえるような話をすることが大切だと思います。

具体的には、夫婦としての関係は終わっても、協力して子どもを育てていく親同士の関係は続いていくことになる、という認識を持っているということをきちんと相手に伝えた上で、子どもと離れて暮らすことになる相手が子どもと直接触れ合う機会である面会交流の頻度・方法についてきちんと話し合うということが考えられます。

面会交流の頻度・方法については、2-11節でいろいろと説明しています。例えば、連休を利用して一緒に旅行にいったり、夏休みの間に子どもに泊まりに来てもらうなど、様々な方法が考えられます。面会交流について具体的に話し合うことによって、子どもと離れて暮らしはじめた後の子どもとの関わり方について、具体的なイメージを持つことができます。

相手は、ケースによっては、月1回泊まりがけで子どもと会えるなら、今までとあまり変わらないかも、と感じるかもしれません。具体的に話し合うことによって、情緒的な不安を払拭することができれば、漠然とした不安から親権を争われ調停や訴訟になる事態を避けることもできるかもしれません。調停や訴訟になると、相手も意固地になってしまい、有利だった他の条件についてもから話し合う、ということにもなりかねません。

<話し合いのコツ ポイント>
親権者とは何者なのかについて、理解を共有した上で話し合いを。
離婚後の親子関係について具体的なイメージを持ってもらうことも大事です。

<法律上のツボ>
●裁判所の職員による調査
父母のどちらを親権者と定めるかについて話し合いがつかない場合、そのままでは離婚届を受理してもらえないため、裁判所に離婚調停を申し立てることになります(親権についての協議に代わる審判というものもありますが、離婚について争いがなくても、離婚調停を申し立てるのが一般的です)。そして、調停でも話し合いがつかなかった場合には、離婚訴訟を起こすことになります。

なお、法律によって、調停を経ずに離婚訴訟を起こすことは、原則としてできないことになっています。離婚調停になり、親権に関する話し合いになると、家庭裁判所調査官が調停に参加し、必要に応じて親権者を決めるための調査を行います。

まず、あなたと相手の双方が、自分や子どもの生育歴(健康状態などを含みます)、経済状況や1日のスケジュール、子どもの養育を手伝ってくれる人についての説明、子育ての方針などについて、陳述書という形でまとめ、裁判所に提出します。家庭裁判所調査官は、その内容を確認した上で、あなたと相手の双方から聞き取り調査を行います。

その後、双方が、今後子どもを育てていく場所として主張している場所(母親が子どもを連れて実家に帰っており、そこで自分の父母の援助を得て子どもを育てていくと主張しているような場合には、その母親の実家。または、父親が、自分が親権者になった場合には自分の実家で自分の父母の援助を得て子どもを育てる、と言っている場合には、その父親の実家)を家庭裁判所調査官が直接訪ね、家の様子の調査や子どもの養育を援助してくれる人からの聞き取り調査を行います。さらに、現在子どもが保育園や小学校に通っている場合には、それらの場所への訪問・聞き取り調査も行います。

家庭裁判所調査官は調査の結果を報告書としてまとめ、裁判官に提出します。この報告書には、調査の結果を踏まえ、どちらを親権者として定めるべきかという意見も記載されます。この意見には、拘束力があるわけではありませんが、調停委員も裁判官も、家庭裁判所調査官の意見を尊重する場合がほとんどです。そのため、
裁判所調査官による調査は、親権をめぐる法的手続きの中では一番大事な部分であるといえます。

陳述書の作成や調査への対応にあたっては、自分の伝えたいことをきちんと伝え、また、裁判所が興味を持つ部分を伝え漏らしたりすることがないよう、弁護士に相談することも有意義かもしれません。

調停において、小さいことまで全ての事情を伝えようとする方がいらっしゃいますが、それでは逆に伝えたいことがぼやけてしまい、何も伝わらないということもありえます。伝える内容の選別をはじめとして、伝え方は、調停では特に大切です (4-3節参照)。

●裁判所が重視する事情
裁判所は、親権者を定めるにあたり様々な事情を考慮します。中でも、子どもから慣れた生活環境を奪うことは子どもの生育に悪影響がある、という事情を特に重視します。そのため、現在、子どもを取り巻く環境が良い状態で安定している場合には、積極的に子どもの環境を変えようという判断はしません。すでに子どもを連れて別居中の場合、その新しい環境が安定しているのであれば、現に子どもと一緒に暮らしている親を親権者と判断する傾向があります。

しかし、だからといって、子どもが新しい環境に慣れる前に子どもを奪い返えそうと別居中の相手の家に押しかけて強引に子どもを連れて行ったりすると、大きな問題になります。

<法律上のツボポイント>
裁判手続きでは、家庭裁判所調査官の調査の結果が大きな意味を持ちます。
裁判所は、子どもの環境を変えようとしない傾向があります。

<用語の解説>
・親権(親権者):①子どものしつけや日常生活の世話(監護教育)と②子どもの代わりに契約や財産の管理(法定代理人)をする権限「その権限を持つ者】。詳細については、2-1 節参照。
・養育費:親が支払わなくてはならない、子どもの生活費。親権者でなくなっても、親子関係はなくならない。詳細については、2-5節参照。
・面会交流:離婚や別居により子どもと離れて暮らしている親が、子どもと会うこと。詳細については、2-11節参照。
・慰謝料:精神的な苦痛に対する損害賠償(金銭請求)。詳細については、3-1 節参照。
・財産分与:婚姻中に夫婦で形成した財産を、離婚に伴い分配・清算する手続き。詳細については、3-2節参照。
・年金分割:婚姻期間中の厚生年金記録等を二人の間で分割し合う制度。詳細については3-12節参照。
・調停【調停調書】:裁判所における、非公開の話し合いの手続【その話し合いの結果が記載された公的な書類】。原則としてお互いに顔を合わせることはなく、守秘義務を負う調停委員が間に入り、話し合いを進めていく。詳細については、4-3節参照。
・扶養【扶養義務】:生活費を渡すなどの方法により、生活を援助すること【その法的な義務】。
・監護者:親権のうち、子どものしつけや日常生活の世話 (監護教育)に関する権限を持つ者。
・家庭裁判所調査官:家庭裁判所で取り扱われる離婚等の家族に関する事件について、法律以外の観点からも適切な解決を図るべく、心理・教育・福祉の知見を有する専門職として事件に関与する裁判所の職員。
・養子縁組:法律上の親子関係を成立させるための手続。通常の養子縁組の場合、養子縁組に伴って実親と子どもの親子関係が消滅することはない。なお、法律上の地位は、実親と養親でほぼ変わらない。

【コラム】実の親だと思っていたのに? ~法的な親子関係が残るという意味~
離婚そのものによって親子関係が終わることはありません。これは、情緒的な親子関係も、法的な親子関係もそうです。

とはいえ、例えば、子どもがまだ乳幼児の頃に離婚し、特に面会交流の希望もなく、すぐに再婚に至った場合などは、子どもと再婚相手の間で養子縁組を行い、まるで再婚相手の実子のように育てていくケースも少なくありません。このような場合、ある意味で、離れて暮らしている実親との間の情緒的な親子関係は終わってしまっています。

しかし、一緒に暮らしている親の再婚相手と養子縁組をしても、離れて暮らしている親との法的な親子関係は続きます。情緒的な親子関係が終わってしまっている親子間で、この法的な親子関係を突然意識させられる
のが、相続です。

相続手続を進めるにあたっては、基本的に相続人全員の関与が不可欠です。そのため、ある日突然、離れて暮らしている実親が他の相手との間にもうけた子どもから、離れて暮らしている実親の訃報と、相続手続に関する連絡が来ることがあります。この連絡で、実は自分が養子であったことを突然知ることになったりします。

子どもにとって、こういった形で、自らの出自を知ることはショックであるようです。子どもが未成年の間は、親権者が法定代理人として相続手続を処理することができますが、成年になってしまうと、自分で、離れて暮らしている実親の他の相続人とやりとりをする必要があります。

一緒に暮らしている親は、子どもの心情に配慮しつつ、少なくとも、成年になる前までには、出自についての説明をしてあげた方がよいのかもしれません。

なお、養子であることは、実は、戸籍を見ればすぐわかります。高校の入学書類の一部として揃えた戸籍謄本を見て気づいてしまったけれど、勇気が持てなかった、親に申し訳ない気がした、といった理由で、自分からは聞けなかった、というケースもありますし、成年になっても全く気づいていなかったというケースもあります。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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