『入管法の実務』

1-2 受任、案件処理上の留意点


(1) 虚偽申請、虚偽の証拠提出は絶対に行わないこと
入国管理局は、虚偽申請や虚偽の証拠提出を最も忌み嫌います。言うまでもないことですが、絶対にこれらの行為をしてはなりません。他の要件を全て満たしていても、申請書等において虚偽の事実を記載したり、虚偽の証拠を提出したりした一事をもって不許可となることも決して珍しくありません。「偽りその他不正の手段」により在留資格等を取得することやそれを営利目的で助長することは、在留資格等不正取得罪(法701-2の2)や営利目的在留資格等不正取得助長罪(法74の6) に該当する犯罪です(なお、これらの犯罪の構成要件解釈等については、山脇康嗣「一体的に進む外国人の受入基準緩和と管理強化」自由と正義2017年6月号27頁を参照してください。)。在留資格を詐取するために不正な手段を用いることは、その他の重大な犯罪に該当することもあり(刑法上の公正証書原本不実記載等、私文書偽造罪、入管法上の資格外活動幇助罪等)、関わった弁護士や行政書士が懲戒請求される可能性も十分にあります。
(2) 入管関連法令、入国・在留審査要領、実務上の運用の正確な理解
入管業務を遂行するに当たっては、入管関連法令(入管法、入管法施行規則、省令、告示等)及び法務省入国管理局が策定した審査基準たる入国・在留審査要領や通達を正確に理解しておく必要があります。さらに、入育関連法令に規定されておらず、審査要領でも非開示とされているものの、実務上極めて重要な運用や先例が多くあります。本書では、これらの実務上重要な運用や先例についても、できるだけ多く言及しました。
(3) 裁量統制と手続の適正を強く意識すること
ア裁量統制
上記1で、入管法は、正規滞在者に対する処分及び非正規滞在者に対する処分のいずれについても、基本的には、広く裁量を認めた規定となっていると述べました。しかし、法務大臣等がいかなる処分をしても違法と判断されないという意味での自由裁量では、決してありません。行政事件訴訟法30条は、行政庁の裁量処分について、裁量権の範囲を超え又はその濫用があった場合は、裁判所は、その処分を取り消すことができると想定しています。入管関係訴訟の判例法理には、法務大臣等の裁量に対する実体的判断過程統制審査を中心に、着実な進化がみられます(山脇康嗣「入管法判例分析』207頁ないし330頁(日本加除出版、平成25年)参照)。
依頼者に有利な結果(許可処分)を得るべく、入国管理局に提出する理由書等において、入管法に基づく法務大臣等の裁量を的確に統制するためには、入管法の上位規範である日本国憲法や国際人権条約(経済的、社会
的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)、市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)及び児童の権利条約等)の理解が必要不可欠です。
また、裁判所が入管法の解釈を示した裁判例の理解も非常に重要です。法の支配の理念が貫徹する日本としては、裁判所が、法令についての最終の有権的解釈権を有する以上、事案が射程範囲内にある限り、裁判例に判示された裁判所による法解釈が、行政見解(行政庁がとる法解釈)に優先するのは当然のことです。
このように、日本国憲法、国際人権条約及び裁判例等を使いこなし、行政法理論と組み合わせて、法務大臣等の裁量の有無・幅・質を厳格に検証し、的確に統制しながら、各手続の許可要件に係るしかるべき規範を定立
し、事案へのあてはめを行うというのが、プロの法律家の仕事です。
イ手続の適正
プロの法律家としては、手続の適正(憲31) に最大限の注意を払うべきです。裁量の幅が広い処分においてこそ、手続の適正が重要です。弁護士や行政書士は、審査を担当する入国管理局において手続の適正が遵守されるよう、案件によっては事前に書面をもって強く念押ししておくべきです。
申請の際に入国管理局に提出する理由書等において法務大臣等に対して行う反証の機会の要請も、この観点からのものです。例えば、在留資格認定証明書交付申請(法7の2I)に対し、法務大臣等が、活動の非虚偽性(法7
1②) 又は在留資格該当性(法71②) がないと一方的に判断して、申請人に対して追加立証資料の提出の機会を与えることもなしに、いきなり在留資格認定証明書不交付処分を行うことは、申請人にとって大きな不意打ちとなり、出入国の「公正」な管理(法1)とは到底いえません。「公正」な管理といえるためには、外国人の人権に配慮した適正な手続(憲31) を踏むことが当然に要求されます。そこで、万が一、法務大臣等が、審査において、活動の非虚偽性又は在留資格該当性を疑わせる事実等を認定しようとするときは、いきなり不交付処分を行うのではなく、処分前に、弁明の機会(具体的には、活動の非虚偽性又は在留資格該当性を疑わせる事実又は証拠等を指摘した上、その事実認定及び評価に対する反論を追加書類等で行う機会) を与えるよう要請しておくのです。この点については、審査要領においても、「申請人に不利益な事実については、可能な限り申請人に反証の機会を与えることとする。申請人側に立証責任があることは、十分な調査を尽くさず、あるいは反証の機会を与えない理由とはならない」とされているところです。入国・在留審査要領の当該部分は、平成16年10月1日管財5964号により追加された非常に重要な審査原則であり、特段の事情がな
いにもかかわらず当該審査原則に従わないで出された処分は、適正手続保障に反し、違法となると解されます。
このように、弁護士や行政書士は、案件によっては、依頼者たる申請人の代理人(取次者)として、上記審査原則に基づき、十分な反証の機会を与えるべきことを事前に強く要請しておかなければなりません。また、審
査中又は処分後に手続違法があったことが判明した場合には、依頼者に与える影響をも慎重に勘案した上で、法務省入国管理局又は地方入国管理局のしかるべき部署に対し、強く抗議することも検討すべきです。出入国の「公正」な管理(法1)は、手続の適正が徹頭徹尾担保されてはじめて実現します。
(4) できるだけ行政手続内での処理を目指すこと
一般に、弁護士は、行政処分に不服がある場合は、司法手続で争えばよいと考え、ややもすると行政手続での攻撃防御を軽視しがちです。しかし、入管法分野においてはそのような姿勢は妥当ではありません。最善を尽くして、なんとか行政手続の範囲内で許可を得るということをまずは目指すべきです。誤解を恐れずに言えば、現在の実務では、行政機関としての法務大臣等による許可のハードルと裁判所による原告請求認容(処分の取消し等を認める判決)のハードルを比較した場合、前者の方が低いことが多く、仮に行政訴訟になった場合には勝訴できないような事案でも、行政手続内において有利な事情の収集や、不利な事情のフォロー等に全力を尽くすことによって、許可が得られる事案も少なくありません。法務大臣等の裁量を、依頼者の利益となる方向で働かせるのです。このような観点から、在留特別許可(法501)が認められずに退去強制令書が発付された場合(法491)にとるべき手段の見極めも重要です。すなわち、いったん日本を出国して一定期間経過後に上陸拒否の特例(法5の2)を前提とした在留資格認定証明書の交付(法7の2、規4の21②)という行政手続での解決を狙うべき事案か、それとも日本を出国せずに退去強制令書発付処分取消等請求訴訟(行訴3IⅡ)を提起して司法手続での解決を狙うべき事案かを見極める場面です。第2章第15節で詳述するように、上陸拒否の特例を前提とした在留資格認定証明書が交付される場合については、実務上、ある程度の類型化が可能であり、そのような類型に該当する事案の場合は、基本的には、行政訴訟を提起して勝訴するよりもハードルが低いことが多いといえます。ただし、在留特別許可が認められず、退去強制令書が発付された場合には、その執行によりいつでも強制送還が実行されうる状態となるので(法52)、訴訟提起のメリットとデメリット及び勝訴の見込み等を慎重に検討した上で覚悟を決め、在留の継続を希望する場合には、退去強制令書発付処分取消等請求訴訟等の提起及び執行停止申立て(行訴25 IⅡ) を早期に行うことを積極的に検討すべきです。
正規在留者に係る行政手続において不許可の判断を受けたときには、対面で入国審査官から不許可理由をできるだけ詳細に聴取し、再申請につなげるべきです。申請に対する不許可処分には、確定判決のような既判力は
なく、再申請が可能です。在留資格が出国準備のための「特定活動」に変更された後でも、入国審査官との「協議・交渉」により、当初希望していた在留資格を求める再申請(在留資格変更許可申請)を行うことも多いです。外国人本人が弁護士や行政書士に相談せずに申請して不許可処分(あるいは出国準備のための「特定活動」への在留資格変更)を受けた後の適切な事後的対応こそが、弁護士や行政書士の腕の見せ所の一つともいえます。
(5) 弁護士、行政書士に求められる「厳しさ」「優しさ」「粘り強さ」
入管業務は、外国人の人生に直接関わることであり、運命を左右します。入管法上の各種手続は、外国人が上陸、就学、就職、転職、結婚、出産、離婚するときといった、人生の重要な節目において行うものとなっており、まさに、人間ドラマを扱う業務です。外国人が、日本国内で恋人や親友等とどれだけ濃密な人間関係を築き、どれだけ豊かな財産を築いても、在留資格を失えば、もはや在留を認められず日本にいられなくなります。担当する弁護士や行政書士がミスをすれば、依頼者である外国人に、一生回復不可能な損害を与えることになりかねません。入管業務を扱う弁護士や行政書士には、入管関連法令及び実務上の運用に係る正確な理解が必須であるのはもちろんのこと、外国人一人ひとり異なる在留状況という人間ドラマを扱い、それを的確に分析し、その者の在留を認めさせるにたる説得的な評価・意味付け作業を行わなければならない以上、人間というものを知る不断の努力も求められます。
外国人にとっては、在留資格は、それを失えば日本にいられなくなり、命の次に大切なものであるともいえます。そうであるがゆえに、外国人は何とか在留資格を得ようと必死になり、時には虚偽申請や虚偽証拠の提出
等を考えることがあります。入管業務を扱う弁護士や行政書士にはそれらの行為を絶対に許さないという「厳しさ」が求められるとともに、不利益に斟酌されうる行為を自身に依頼するより前に行ってしまった外国人に対して、なぜそのような行為を行ってしまったのか動機や背景等を寛容な精神でじっくり聞き出し、やむにやまれぬ行為であったという評価や意味付けができないか、あるいは深い反省の態度を示すことで何とかフォローできないかを必死に探る「優しさ」も求められると考えます。
人間は、国籍を問わず、不条理、不合理で弱い生き物であり、過ちを犯してしまいがちです。弁護士や行政書士には、依頼者である外国人に多少の不利益な点があっても、何とか許可への突破口はないかを探し続け、あきらめない「粘り強さ」も求められます。
(6) 入管業務における企業法務的側面
経済競争が激化している現代社会において、企業が国際競争力を維持し、成長するためには、多くの産業分野で優秀な外国人労働者を適材適所に採用する必要性が高まっています。企業が必要とする外国人の採用計画が失敗した場合には、企業に対し多大な損害を与えます。外国人が日本で送に在留(活動)するためには、入管法上の在留資格を必要とする以上(一在留一在留資格の原則)、外国人の採用を検討する企業から相談を受けた弁護士や行政書士は、事前に当該外国人が入管法上の要件を満たすか否か等の判断を的確に行い、要件該当性を立証する資料の入手や、許可を得るまでに必要な時間の見込み等について適切な助言を行う必要があります。
当然ながら、入管法上就労の許されない外国人を企業が雇用することは絶対に防がなければなりません。
不法就労助長罪(法73の2) 等で摘発されることは、コンプライアンスが重視される現代において、企業にとってまさに致命的です。また、特に外国人社員の採用後においては、入管法の知識に加え、労働法、社会保険法、国際税務等の知識も必須です(これらの分野については、山脇康嗣『Q&A 外国人をめぐる法律相談』第5章及び第6章(新日本法規、平成24年)及び山脇康嗣・田中秀治『外国人及び外国企業の税務の基礎』(日本加除出版、平成27年)を参照してください。)。外国人社員の人権と企業の営利性を両立させ、人と企業がともに成長できるよう、適切な外国人労務管理体制や国際税務戦略(タックス・プランニング)を確立すべく、弁護士等の法律専門家は、企業に対し、専門的助言や指導を継続して行う必要があります。
従前は入管業務におけるこのような企業法務的側面があまり意識されてこなかったきらいもありますが、今後は特に意識して業務を遂行すべきと考えます。

森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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