『相続実務のツボとコツ』

1-9 遺言について


<遺言って何を定めるの?>
「遺言」は、日常的には「ゆいごん」と読まれますが、法律上は「いごん」と読みます。法律上、遺言とは、被相続人の最終の意思表示のことをいいます。

もっとも、死の間際にした意思表示である必要はありません。

 

遺言は、被相続人となる遺言者が、遺産の承継等について、自分の意思を反映させるために取り得る唯一といってよい方法です。遺言を用いることで、自分が楽いた財産の帰趨を、ある程度、自分の意思に沿った形で相続人に配分することが可能となります。

遺言として法的効力がある事項は限られています。この限定されている事項を「遺言事項」といい、「遺言事項」には大きく分けて、相続に関すること、財産の処分に関すること、身分に関することの3種類があります。

相続に関することの例としては、「法定相続分と異なる割合で相続分を指定する」こと、「相続人の廃除や、廃除の取消しをする」ことなどがあります。財産の処分に関することは、遺言で定める中核的な内容です。「財産の遺贈」などについて定めることになります。

身分に関することは、例えば、「子どもを認知する」ことなどがあります。

 

<遺言にはどのような方式、種類があるの?>
遺言には、大きく分けて2つの方式があります。普通方式遺言と、特別方式遺言です。

 

特別方式遺言には、危急時遺言(一般危急時遺言・難船危急時遺言)と隔絶地遺言(一般隔絶地遺言・船舶隔絶地遺言)があり、いずれも普通方式遺言ができない特殊な状況下においてのみ認められる略式方式の遺言です。

一般的に行われているのは、普通方式の遺言です。そして、普通方式遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。

自筆証書遺言は、遺言者が遺言の全文・日付・氏名を自書し、押印して作成する遺言です。必要なものは筆記具と紙のみで、いつでも作成可能なので、他の方式と比べると費用も掛からず手続きも一番簡易です。また、作成が自分1人で可能なので、遺言内容を他人に秘密にしておけるという長所もあります。しかし、反面、家庭裁判所の検認手続が必要であり、また、法的要件不備のために無効となる危険性があります。更に、紛失・偽造等の心配や、そもそも発見されないことがあり得るという問題もあります(この不都合があったことから、2020年7月10日から自筆証書遺言書保管制度が開始されました。1-5節参照)。

公正証書遺言は、公証人に作成してもらい、かつ、原本を公証役場で保管してもらう方式の遺言となります。作成・保管共に専門家である公証人がやってくれるので、効力を争われる危険性が低く、法的に最も安全・確実で、後日の紛争防止のためにも一番望ましいと考えられています。公証役場にて、証人2人以上の立会いのもと、公証人に作成してもらうもので、原本が公証役場に保管され、自筆証書遺言より安全・確実な方法といえます。遺言者が自筆する必要がないので、障害を有する人の利用は多いと言えます。また、自筆証書遺言で必要だった家庭裁判所の検認手続は不要です。ただし、その分、費用がかかること、証人の立会いが必要なことから遺言内容を自分だけの秘密にすることができないという短所もあります。

秘密証書遺言は、遺言者が記載し、自署・押印した上で封印し、公証人役場に持ち込み公証人および証人の立会いの下で保管を依頼します。公正証書遺言と違い、作成は遺言者が自ら行う点が特徴です。遺言内容を知られずに済む、偽造・隠匿の防止になる、遺言書の存在を遺族に明らかにでき、発見されないリスクがなくなるといった長所があります。逆に、自筆証書遺言と同様、遺言内容について専門家のチェックを受けるわけではないので不備があれば無効となる危険性があるほか、自筆証書遺言と異なり、費用も発生します。

 

<遺言は変更したり撤回したりできるの?>
遺言は撤回できます。遺言作成者は、新たに遺言を作成し、その遺言で前に作成した遺言の全部または一部を撤回する旨を内容にすることで、遺言の全部又は一部を撤回することができます。

 

自筆証書遺言の場合、遺言を放棄してしまえば遺言自体が無くなりますので撤回したことになります。自筆証書遺言書保管制度を使用していた場合、保管を撤回した上で破棄することになります。

公正証書遺言の場合、原本が公証役場に保管されることになるので、遺言者本人が遺言を破棄しても撤回できたことになりません。また公証役場では本人だとしても原本を破棄してもらえません。よって、撤回する場合は、新たに遺言書を作成する必要があります。

なお、公正証書遺言を自筆証書遺言、秘密証書遺言でも撤回することができます。

 

逆に、自筆証書遺言や秘密証書遺言を公正証書遺言で撤回することも可能です。公正証書遺言だから公正証書遺言でしか撤回ができないということはないです。遺言の種類について、公正証書遺言、秘密証書遺言、自筆証書遺言の順に手続きが厳格なので、この順で遺言に優劣があるようにイメージしがちですが、遺言は作成方法によって優劣はありません。遺言は、最も新しいものが優先されます。

 

ただし、公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回する場合には、自筆証書遺言の作成上の不備で遺言が無効になるリスクがあります。その場合、新しい遺言が無効になると当然に撤回も無効になり、自筆証書遺言の前に作成された公正証書遺言が有効となりますので、公正証書遺言で撤回することが望ましいです。

遺言は、内容を変更することもできます。作成した遺言を変更する場合は、新たに遺言を書きなおすか、作成した遺言自体を変更する方法があります。変更する部分がとても軽微で、かつ、自筆証書遺言の場合に限り、直接その遺言の文章を変更できます。遺言の変更したい部分を示し、変更した旨、変更内容を書き、署名し、かつその変更の場所に印を押すことになります。注意すべきなのが、この変更方法に不備があると変更が無効となってしまう点です。変更が無効の場合、変更はないものとして扱われるので、遺言は変更前の内容となります。変更は丁寧に、元の内容が判別できるように行う必要があります。元の内容が判別できない変更を行ってしまった場合、その部分の記載は無かったものとして扱われます。

 

変更内容が多い場合や、公正証書遺言を変更する場合は、遺言を新たに書き直す必要があります。遺言が複数ある場合、内容が抵触する部分は新しい遺言が優先されるため、新しい遺言を書けば前の遺言を変更できることになります。自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言のすべてにおいて、法が法定記載事項として日付を要求しているのは、日付によって一番新しい遺言を特定することを企図しています。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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