『相続実務のツボとコツ』

1-7 配偶者居住権ってなんですか?


<配偶者居住権及び配偶者短期居住権の概要って?>
配偶者居住権とは、配偶者が、終身又は一定期間、無償で被相続人の財産に属した建物の使用及び収益をすることができる権利のことをいいます。2020年4月1日施行の民法相続法の改正で、配偶者は、遺産分割又は遺贈により、配偶者居住権を取得することができるようになりました。民法相続法の改正以前は、この配偶者居住権の制度がありませんでしたので、配偶者は、遺産分割によって居住建物を取得するか、居住建物を取得する相続人等との間で賃貸借契約等を締結しなければ、居住権を確保することが困難でした。今回の民法相続法の改正によって、上記不都合が解消され、配偶者は居住建物への居住を従前より容易に確保することが可能になりました。

次に、配偶者短期居住権とは、配偶者が、相続開始時に被相続人の遺産に属する建物に居住していた場合、遺産分割が完了するまでの期間、無償でその居住建物を使用できる権利のことをいいます。

なお、上記2つの権利は、配偶者が相続開始時に被相続人の建物に無償で居住している場合に、居住建物にそのまま無償で居住できる点は同じですが、配偶者居住権には登記制度がある一方、配偶者短期居住権にはこれがない点や、配偶者短期居住権は、配偶者居住権とは異なり、遺贈、遺産分割及び家庭裁判所の審判がなくても認められる点で相違点があります。

上記を踏まえ、以下では、配偶者居住権と配偶者短期居住権の要件及び効果について、順に検討していきます。

<配偶者居住権の要件及び効果は?>
配偶者居住権の要件 (改正民法第1028条第1項各号)は、被相続人の配偶者が、被相続人の財産に属した建物(配偶者居住権は、居住建物全体について対抗力を備えることに実効性を持たせるための規定であるため、被相続人が他人から借りていた、又は他人と共有していた建物は含まれないことに留意が必要です。)に相続開始の時に居住していた場合において、①遺産分割 (遺産分割協議による取得又は審判による取得)によって配偶者居住権を取得すること又は②配偶者居住権が遺贈の目的とされることによってこれを取得することです。

上記要件を満たした場合、配偶者は、無償で居住建物の全部を使用収益することができます(改正民法第1028条第1項本文)。また、配偶者居住権の設定登記がなされた場合には、配偶者は、登記後に居住建物の物権を取得した者に対しても配偶者居住権を対抗することが可能となり、第三者に対して、物権的請求権を行使するこ
とができます(改正民法第1031条第2項・第605条、第605条の4)。

この配偶者居住権の設定登記は、配偶者と所有者が共同で申請する必要があり、居住建物の所有者は、配偶者居住権を取得した配偶者に対して、配偶者居住権の設定登記を具備させる義務を負います(改正民法第1031条第1項)。

もっとも、配偶者は、居住建物の使用収益について善管注意義務を負い(改正民法第1032条第1項)、配偶者居住権の譲渡は禁止されています(改正民法第1032条第2項)。居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることもできません (改正民法第
1032条第3項)。

また、配偶者は居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができます(改正民法第1033条第1項)。そして、居住建物の修繕が必要である場合、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、自らその修繕をすることができます(改正民法第 1033条第2項)。

なお、配偶者は、居住建物の修繕が必要であり、自ら修繕しない場合又は居住建物について権利を主張する者があるときは、修繕を要することを所有者が知っている場合を除き、配偶者は、居住建物の所有者に対し、遅滞なくその旨を通知する義務を負います(改正民法第1033条第3項)。

さらに、配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担します(改正民法第1034条)。

そして、居住建物の所有者は、通常の必要費以外の必要費を償還し、有益費については、価値の増加が現存する場合に限り、支出額又は増加額を配偶者に償還する必要があります(改正民法第1034条第2項、民法第583条第2項、民法第196条)。

<配偶者短期居住権の要件及び効果は?>
配偶者短期居住権の要件(改正民法第1037条第1項本文)は、被相続人の配偶者が、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していたことです。

なお、配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に有償で居住していた場合には、賃貸借契約等を継続すれば居住建物を使用することができるため、配偶者短期居住権を発生させる必要はありません。そのため、配偶者短期居住権の要件として、無償が含まれています。

なお、上記要件を満たした場合でも、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき又は相続人の欠格事由(民法第891条)の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったとき
は、配偶者短期居住権は発生しません (改正民法第1037条第1項本文ただし書)。

上記要件を満たした場合、配偶者は、一定期間、居住建物を無償で使用することができます。この一定期間とは、①居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合は、遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までであり (改正民法第1037条第1項第1号)、②①以外の場合は、居住建物の所有権を相続又は遺贈により取得した者が、配偶者短期居住権の消滅の申入れをした日から6か月を経過する日まで (改正民法第1037条第1項第2号、第3項)となります。

また、配偶者は、居住建物の使用収益について善管注意義務を負い(改正民法第1038条第1項)、配偶者短期居住権を譲渡することもできません (改正民法第1041条、同第1032条第2項)。さらに、配偶者は、居住建物取得者の承諾がなければ、第三者に使用させることもできません (改正民法第1038条第2項)。

居住建物の修繕等及び居住建物の費用の負担については、改正民法第1041条が同第1033条及び第1034条を準用しているので、配偶者居住権と同様の内容になります。もっとも、配偶者短期居住権は、配偶者居住権と異なり、登記して第三者に対抗することはできません。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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