『相続実務のツボとコツ』

1-6 民法相続編の改正でこれまでとどう変わる?


<民法相続編の改正の概要って?>
平成30年7月6日、第196回国会において、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案及び法務局における遺言書の保管等に関する法律案が成立し、改正項目の大部分が、令和元年7月1日に施行されました。

これにより、昭和55年の配偶者の法定相続分の引上げ、寄与分制度の新設等を含む民法相続法の改正から、約40年ぶりに、民法相続法の大改正が行われました。

今回の民法相続法の改正項目は多岐にわたりますが、その中でも重要な改正項目は、①配偶者の居住権を保護する配偶者居住権の新設 (1-7 節)、②遺産分割等に関する改正 (1-8節)、③遺言制度に関する改正 (1-9節)、④遺留分制度に関する改正(4-1節)、⑤相続の効力等に関する改正 (4-2節)、⑥相続人以外の親族に関する制
度の新設 (4-3節)であり、これらの点は、特に理解しておかなければならないでしょう。

<改正されたポイントは?>
ここで、民法相続法の改正項目のうち、特に理解しておかなければならない①~⑥の内容を概観しておきます。

まず、①は、配偶者の生活保障の必要性等から、遺産分割、遺贈、遺産分割審判によって、被相続人の配偶者に居住建物を無償で使用及び収益することが認められました。

②は、婚姻期間が20年以上に及ぶ夫婦間で、居住用建物又はその敷地の遺贈又は贈与がされたときは、持戻免除の意思表示があったものと推定する規定が新設されました。また、各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、一定額については、他の共同相続人の同意を得ることなく、単独で払戻しをすることができる旨の規定も新設されました。

③は、自筆証書遺言の要件が緩和され、自筆証書に相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録のみについては、自筆によらない作成も認められるようになりました。

④は、遺留分侵害額請求権の行使によっても、当然に物権的効果が生ずることはなく、遺留分権利者に受遺者又は受贈者等に対する金銭債権が生じるようになりました。

⑤は、相続させる旨の遺言等により承継された財産についても、法定相続分を超える部分については、登記などの対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができなくなりました。

最後に、⑥は、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭の支払を請求することができるようになりました。

<改正のきっかけは?>
今回の民法相続法の改正の背景として、日本が高齢社会に突入し、相続開始時点で相続人の年齢が従来よりも高齢化していることに伴い、相続人を亡くした配偶者の生活保障の必要性が高まっていることが挙げられていました。また、介護を必要とする高齢者の増加に伴う、相続と看護の関係性の問題や、高齢者の再婚の増加に
よる家族形態の多様化などが進み、法定相続分に従った財産の分配では、公平な相続を実現することが困難であるという問題も挙げられていました。このような社会情勢の目まぐるしい変化が、今回の民法相続法の改正のきっかけとなっていきました。

また、最高裁平成25年9月4日決定・民集67 巻6号1320頁(以下「平成25年決定」といいます。)も、今回の民法相続法の改正のきっかけとなりました。この事件は、平成13年7月に死亡したAの遺産につき、Aの嫡出子らが、Aの非嫡出子らに対し、遺産の分割の審判を申し立てた事件です。

原審は、民法900条第4号ただし書の規定のうち、非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分は、憲法第14条第1項に違反しないと判断し、本件規定を適用して算出された相手方らの法定相続分を前提に、Aの遺産の分割をすべてきものとしました。

これに対し、平成25年決定は、

「昭和22年民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向、我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化、諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘、嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化、更にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば、家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。そして、法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても、上記のような認識の変化に伴い、上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。」

と述べた上で、

「遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては、立法府の裁量権を考慮しても、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていた」

として、旧民法第900条第4号ただし書前半部分(=法定相続分を定めた民法の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めた部分)の規定は、憲法第14条第1項の平等原則に違反するものであり、違憲であるとしました。

この平成25年決定を受けて、平成25年12月、嫡出子と非嫡出子の相続分を平等にする民法改正が行われましたが、その審議過程において、各方面から、改正が及ぼす社会的影響に対する懸念や配偶者保護の観点からの相続法制の見直しの必要性など、多くの問題提起がなされ、これも今回の民法相続法の改正のきっかけとなっていきました。

◎用語の解説
・遺産分割:相続人が複数存在する場合に、どの相続人がどれくらいの割合の遺産を受け取るのか決めることをいいます。
・遺贈:亡くなった人の遺言により、他人に対し、亡くなった人の財産を(対価性なく)無償で譲り渡すことをいいます。
・遺産分割審判:遺産分割に関する調停をしても当事者同士で解決できる見込みがない場合などに、家庭裁判所の裁判官が遺産分割方法を決定する手続きをいいます。
・持戻免除の意思表示:亡くなった人が特別受益の持戻しを希望しない意思表示をした場合に、持戻しを考慮しないで相続財産を計算することをいいます。
・自筆証書遺言:遺言を作成した者によって、遺言書の本文・氏名・日付の全てを自筆して作成する遺言書のことをいいます。
・遺留分:相続人に法律上保障された一定の割合の相続財産のこといいます。
・嫡出子:法律上の婚姻関係にある男女の間に生まれた子供のことをいいます。
・非嫡出子:法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子供のことをいいます。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

 お問い合わせ
contents
↓応援ポチ感謝です↓
にほんブログ村 士業ブログ 行政書士へ
様々な法律知識