『離婚のツボとコツ』

1-5 暴力を振るわれました・・・


<確かに暴力は受けているのですが>
いつの頃からか、些細なことで急に相手が怒り出すようになりました。そして、遂に殴られるようになってしまいました。最近では、不機嫌な時はもちろん、上機嫌の時でも、いつ、怒りのスィッチが入るかわからないため、毎日ビクビクと機嫌をうかがいながら、生活しています。

本当は逃げ出したいのですが、私にも悪い点がありますし、何より、子どもを連れて逃げてしまうと子どもから親を奪うことになってしまい気が引けます。

<話し合いのコツ>
●なかったことにしないでください
1-4節では言葉の暴力について解説しています。本節に興味がある方は、併せて読んでみてください。

暴力については、最初から暴力を振るう人もいますが、暴言からはじまり、ドアを勢いよく閉める、壁を殴る、話しながら机を叩く、など、間接的な威圧行為を少しずつエスカレートさせて、ついに、直接の暴力に至る、という人も少なくないようです。
何があっても暴力はいけないことです。自分に落ち度があったから、などと自己納得してしまうと、かえって、暴力行為は落ち度がある相手に対しては正当な行為なんだ、という理屈で、相手の自己正当化を強化することになります。結果として、暴力を振るうことに対する抵抗感が薄れ、さらには、殴られる側により酷い落ち度があるから自分はより強い暴力を加えても構わないんだという理屈で、暴力の程度をエスカレートさせることにもつながります。

あるDV加害者から「はじめて相手を殴った瞬間は本当に怖かった。でも、そこで抗議されなかったから安心してしまった」という話を聞いたことがあります。理由の如何を問わず、暴力に対してはきちんと抗議することが大切です。

先ほど、何があっても暴力はいけないことだ、と書きました。これは、DVの被害者に落ち度があっても暴力は許されないということですが、そもそも、DVの場合、被害者に落ち度と言えるような落ち度はないケースがほとんどです。にも変わらず、冒頭のケースのように、自責の念にがんじがらめになってしまって、逃げたり、あるいは通報したりできないケースが多いようです。

家庭内のことは、どうしても家庭内でうやむやにしてしまいがちです。家庭内のことだから何でも許される、という意識の方もいらっしゃいますが、暴力は、その程度に応じて、暴行罪、傷害罪、殺人未遂罪等になりえます。暴力に対しては、きちんと警察に110通報することも考えてください。もちろん、家族を通報することに抵抗があるのは当然のことです。しかし、相手と今後も一緒に生きていきたいのであれば、早い段階でそれが問題行動であることを気付かせてあげてください。

●どのように話し合うか
離婚の話をした途端、暴力を振るわれるケースも少なくないようです(そのようなケースでは、本書のような離婚に関する本や、弁護士・役所の職員の名刺などを目にするだけで怒り出すことがあるため、注意してください)。

程度にもよりますが、実際に暴力を振るわれたり、暴力を振るわれるかもしれないという恐怖のある状況では、本人同士による話し合いは難しいのではないでしょうか。

弁護士に依頼したり、あるいは、裁判所の調停手続を利用するなどして、本人同士が直接話し合う状況は避けた方が良いように思います。また、話し合いを始める前に別居すべきです。ほとんどの市町村にはDVに関する相談窓口があります。そこでは、シェルター(加害者から避難するための宿泊施設で、所在は公開されていない)の紹介や住民票の閲覧制限 (別居後の住所を住民票などで辿られないようにするため)等をしてくれます。

◎話し合いのコツポイント
暴力は、絶対に家庭内でうやむやにしないでください。
離婚の話し合いには、弁護士や公的機関をうまく使いましょう。

◎法律上のツボ どう証明するか
相手が暴行についてシラを切った場合、家庭内という密室での出来事のため証拠が残りにくく、後になって暴行を証明することはかなり難しい、というのが正直なところです。
そのため、例えば、暴行による怪我や痣を(可能であれば日付がわかるような形で)撮影しておく、怪我をしたらきちんと病院に行って診断書をもらう (受診すればカルテにも残ります)というように、意識的に証拠を残してみることが大切です。このような証拠に対しては、相手から、「転んだ時の怪我だ」というような反論が出てくることが考えられます(診断書に「夫に殴られて」という記載があるケースもありますが、医師は夫が殴っているところを見ていたわけではない=患者の殴られたという言い分をそのまま記載しているだけに過ぎないと判断され、診断書の「夫に殴られて」という記載は相手の「転んだ時の怪我だ」との反論を崩す根拠にはなりません)。
このようなケースでは、例えば怪我のある場所が転んだ時にできるような場所でないことや、複数の怪我がある場合には、転んだだけでそんなに複数の怪我をするはずがないこと、転んでできた怪我であれば物理的に考えてこの二箇所に怪我ができるはずはないことなどの再反論を相手にぶつけていくことになります。

その意味で問題となっている怪我の原因について、相手に先に説明させて、その矛盾を明らかにする、というのはひとつの戦略かもしれません。

怪我について記憶がありません、と言ってくる相手もいますが、そのような場合には、一緒に生活しているのに、こんな痣だらけの状態に気が付かなかったのですか、という再反論をすることが考えられます。

他にも、日記やボイスレコーダー等も証拠になりえます。

さらに、DVで通報した場合、警察にきちんと記録が残ります。先にも書いたように、被害にあった際には、うやむやにせずきちんと通報しましょう。

●保護命令と警察
相手が暴力を振るってくる場合には、相手の知らない場所に避難するのが一番ですが、事情によってはそうもいかない場合があります。
そのような場合には、裁判所に保護命令を申し立てることが考えられます。

保護命令は、配偶者(内縁関係にある相手を含みます)から、
(1) 暴行罪又は傷害罪に当たるような暴行を受けたことがある
又は、
(2)生命・身体に対して害を加える旨の脅迫を受けたことがある
かつ、
(3) 今後、配偶者からの身体に対する暴力によりその生命身体に危害を受けるおそれが大きいとき
(1) + (3) or (2) + (3)
に、裁判所より発令されます。

裁判所から発令された命令の内容に応じて、相手が、あなたやお子さん、親族に近づくこと等が禁止されます。相手がこの命令を無視した場合、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられることになります。これは刑事罰ですので、捜査のために相手が逮捕される場合もあります。

また、相手の知らない場所に避難できた場合でも、相手が居場所を探し当てて訪ねてくる場合があります。そのような場合に備えて、事前に最寄りの警察署の生活安全課に相談に行くことをお勧めします。事前に相談をしておくことで、見回りを強化してもらえたり、緊急時にも状況をすぐに理解してもらえるようになります。場合によっては、110番の際にオペレーター側に一定の情報が表示されるよう登録を行なったり、一定期間、緊急警報装置(ボタンを押すと、警察に向けて発報されます)を貸してもらうこともできます。

◎法律上のツボ ポイント
相手がシラを切った場合に備えて証拠の収集を。でも、本当に危ない場合は、すぐに別居して避難してください。避難の際は、警察や役所も頼りましょう。

◎用語の解説
・配偶者間暴力(DV): ドメスティック・バイオレンス(domestic violence).一般的には、婚姻関係や内縁関係のある相手に対して行使される暴力のことであるが、最近では、婚姻関係や内縁関係のある相手に限らず、交際相手に対する暴力も含む概念として理解されるようになってきている。また、暴力の内容についても、物理的な暴力に限られず、心理的な暴力や経済的な暴力も含む概念として理略されるようになってきている。なお、上記は、あくまでも社会的な認識の解説であり、必ずしも「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(いわゆるDV保護法)」の定義とは一致しない。
・調停【調停調書】裁判所における、非公開の話し合いの手続その話し合いの手続き【その話し合いの結果が記載された公的な書類】。原則としてお互いに顔を合わせることはなく、守秘義務を負う調停委員が間に入り、話し合いを進めていく。詳細については、4-3節参照。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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