『離婚のツボとコツ』

1-4 妻失格! 親失格! と言われたのですが・・・


<家事や育児ができていない!>
疲れていると、掃除が行き届かなかったり、洗濯物を溜めてしまったりします。また、子どもがきちんとご飯を食べてくれないと、大きな声を出してしまったりすることもあります。

その度に夫から「その程度の家事もできないなんてどうなの」とか、「子どもに感情的になるなんて母親失格だよね」と言われています。

<話し合いのコツ>
●その言葉は、暴力です
配偶者間暴力(ドメスティックバイオレンス、DV)という言葉をご存じでしょうか。一方配偶者から他方配偶者に対する暴力のことです。配偶者間の暴力(以下、「DV」とします)は、法律上、「配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう。以下同じ)又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」と定義されており、この「心身に有害な影響を及ぼす言動」には、人格を否定するような暴言も含まれます(他にも、机を叩くような相手の身体には直接攻撃を加えないものの、相手に恐怖を与えるような行為も含みます)。

このDVは、他人を傷つけるという点で、大きな問題です。加えて、DVが、相手を支配・コントロールしようという意図のもと行われるという点に、より根深い問題があります。

「最低限度のこともできていない」という暴言が、相手の人格を否定するとまで言えるかどうかは、それまでの経緯やその時の言い方にもよると思いますが、相手の人格を攻撃する暴言であることは間違いないでしょう(他にも、「こんなこともわからないのか」というのも、相談の際によく聞く典型的な暴言です)。

男性から女性に対する暴言ばかりではありません。仕事ができない、稼ぎが悪い、夜の性生活がだめである、といった暴言により、男性が攻撃されている夫婦もあります。暴言は、男女いずれもが被害者になり得る問題なのです。

また、厳密には人格に対する攻撃とは言えないかもしれませんが、相手をコントロールしたいという観点からは、「聞いてくれないと死ぬ」とか、「話していると体調が悪くなる」という発言も、同類のものと言えます。

人格を攻撃するような暴言を繰り返し受け続けると、人は自尊心が傷つき、自己評価・自己肯定感が低下します。そうすると、相手に対して、申し訳ない、悪いことをしている、言うことを聞かなくてはいけないのではないだろうか、といった気持ちになっていきます。

相手の自己評価・自己肯定感の低さにつけ込んで、相手に対して優位に立ちたい、自分の願望を押し通したい、という気持ち(無意識も含む)で行われるのが、冒頭のような言葉の暴力です(このような暴言を吐くのは、プライドが極めて高い人がほとんどです)。

自己評価・自己肯定感が低下している方は、悪いのは自分だと思いつつ、それでも今の辛い気持ちに耐えかねて、悪いのは私の方なのですが離婚できますか、と相談にいらっしゃったり、あるいは、暴言の果てに相手から離婚を切り出されて相談にいらっしゃいます(相手からの離婚の要求は、大抵コントロールのための脅しです。相手は今の支配関係を心地良い環境だと思っていますから、離婚に応じる素振りを見せたり、こちらから離婚の話を切り出すと、態度を急変させ、場合によってはあなたが有責配偶者だ、などと言ってきたりします)。

みなさん一様に、私は家事ができていなくて、あるいは、仕事ができなくて、とおっしゃるのですが、様々な家庭のお話をうかがう身としては、どなたも立派に家事や仕事をこなされていることがほとんどです。そもそも、夫婦間で「するのが当然のこと」なんてないですよね。

他の家庭の実情を知る機会がなかなかない中で、理想の家庭像みたいなものへの責任感と、低められた自己評価・自己肯定感にがんじがらめになってしまっているケースは少なくありません。

まずは、自分はきちんとやっているという自己評価・自己肯定感を取り戻すこと
が、スタート地点です。

<どのように話し合うか>
支配・コントロールしたいという相手は、プライドが高い人がほとんどですので、目を背けていることに直面させられたり、優位性を奪われるのを嫌がります。そのため、仮に、夫婦生活上で落ち度が、相手が9悪く、あなたが1悪い場合でも、夫婦の問題に関する話し合いの場では、「私も悪いかもしれない、けれどね…」と言って、1のことに話を集中させて話をすり変えてきます。こちらも、責任感が強く自己評価自己肯定感が低下しているため、1の落ち度を10にも感じてしまい、相手の話に取り合ってしまうため、いつの間にかこちらが悪かった、という形で話し合いが終わってしまうことがほとんどなのではないでしょうか。

もし、話し合いをするのであれば、「私は、あなたの言葉が辛い」という形で、焦点を絞って自分自身の率直な気持ちを伝えるように努めてみることが大切です。また、話をすり変えられないように(いつの間にか自分の落ち度の話にならないように)、そして、客観的な話し合いができるように(1の落ち度が10にならないように) 第三者を交えて話し合うのも良いかもしれません。

もし、このような相手と今後、健全な形で夫婦関係を続けていきたいのであれば、相手にも変わってもらう必要があると思います。2人で一緒に関係を作り直していくためのカウンセリングなどもあります。そのような試みは、今まで目を背けてきたことを重視することを伴うため、ほとんどの場合、相手は拒否的です。一緒にカウンセリングに行ってくれないのであれば離婚する、というくらいの強いメッセージが必要になることもあるかもしれません。

あなただけが無理をすることによって続く関係なら、やはり関係そのものを考え直した方が良いのかもしれません。

◎話し合いのコツポイント
あなたは、自分で思っている以上に頑張っています。
第三者の意見は大切です。

<法律上のツボ>
●離婚調停手続における難しさ
しつこいようですが、二人の間で合意さえできれば離婚は成立します。そのため、法律上のツボでは、暴言を理由とする離婚の請求が、裁判手続でどういった問題に直面するのかを説明したいと思います。
まず、暴言は暴力と異なり、その深刻さを理解してもらうのがとても難しいという問題があります。
具体的には、

(1)何度も人格を攻撃するような言葉が繰り返されたところに深刻な問題があるのに、ひとつひとつの言葉をみるとインパクトがないことから、一見して暴言であると伝わりにくい
(2) 言葉の内容ではなく、それまでの経緯や、状況、話し方が暴言の核の部分であると、それが暴言であることを上手く説明することが難しい
(3) 証拠が残りにくく、言った言わないの問題になりやすい上、ニュアンスをすり変えられたりしやすい

等の問題があります。

次に、他人を支配・コントロールしたがる人は、自分が他人からどう見られているかということにとても敏感で、その裏返しとして、とても人当たりが良いことが多いです。実際、離婚調停の場で、調停委員に「あの人がそんなことを言いますかね。そんな人に見えませんが」と言われ、こちらの説明がなかなか理解してもらえないという問題に直面することもあります。

さらに、暴言というものの問題について、現在でもなかなか理解が深まっておらず、単なる「性格の不一致」の問題として理解されてしまうという問題に直面することもあります。

暴言についても、今後、理解が深まっていくはずですが、今現在離婚しようという人にとっては、このような現状の中でこちらの主張を理解してもらう必要があります。

日記やボイスレコーダーの他に、メールなどでのやり取りが有効な証拠となることもあります。なにより、こういった難しい状況の時こそ、伝え方や立証のプロである弁護士を利用してください。

◎法律上のツボ ポイント
とても難しいケースです。こういう時こそ弁護士に相談してみて。

◎用語の解説
配偶者間暴力(DV): ドメスティック・バイオレンス(domestic violence)。一般的には、婚姻関係や内縁関係のある相手に対して行使される暴力のことであるが、最近では、婚姻関係や内縁関係のある相手に限らず、交際相手に対する暴力も含む概念として理解されるようになってきている。また、暴力の内容についても、物理的な暴力に限られず、心理的な暴力や経済的な暴力も含む概念として理解されるようになってきている。なお、上記は、あくまでも社会的な認識の解説であり、必ずしも「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(いわゆるDV保護法)」の定義とは一致しない。
調停【調停調書】:裁判所における、非公開の話し合いの手続【その話し合いの結果が記載された公的な書類】。原則としてお互いに顔を合わせることはなく、守秘義務を負う調停委員が間に入り、話し合いを進めていく。詳細については、4-3節参照。

【コラム】頼りになる彼
私が困っていると、「そんなこともできないのか、可愛いなぁ」と言いながら、グイグイ引っ張ってくれて頼りになる彼。そんな彼と結婚してみたら、実は人格を攻撃するような暴言を吐き、相手をコントロールすることを好む人間だったというケースも、少なからずあるようです。
当時、頼りになると感じたものは、相手に頼らせることでしか自分の価値を実感できず、そのために他人を自分よりも下に位置付けて庇護・支配したがる、彼の弱さだったのかもしれません。


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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