『建設業実務家養成講座』

2 トラブルを回避して 円滑に業務を遂行する肝


業務を遂行するうえで、トラブルが生じるケースは少なからずある。
そのトラブルを可能な限り回避して,円滑に業務遂行する方法を提示する。

2-1. トラブルを知る(処分事例)
処分事例を知ることはトラブルを回避するのに有益である。
日本行政書士連合会(略称:日行連),都道府県の行政書士会および都道府県庁は,ホームページ等で「処分事例等の公表」を行っている。
以下に,建設業許可申請手続関連(経営事項審査申請手続を含む)の処分事例を提示する。
これを読むと,どのようなことでトラブルが発生しやすいかわかる。

2-2. トラブルの原因
2-1.の処分事例を踏まえ、トラブルの原因を分類すると、大きく「依頼者』と「役所(申請窓口)」への対応に分けられる。

(1) 依頼者への対応
依頼者に対する次のような対応がトラブルを生じさせる。

① 回答があいまい
たとえば、「今の会社の状況で許可を取得できますか」といった質問にはっきりと答えられない。
これは、業務遂行上の基礎知識に欠けていることが原因である。

②対応が遅い
知識と経験不足が原因で、業務が俯瞰できない。そのため,現時点で「何を」「どのように」進めてよいかわからない。

③費用があいまいなまま受任する
業務遂行に要する手間と時間がイメージできないために,面談の段階で費用を提示しないまま受任してしまう。

④ 「ロードマップ」を示せない
相談者は「ロードマップ」(業務がどのような段取りでどのくらいの期間で完了するかを示すスケジュール)に強い関心がある。許可取得後の事業計画を練る必要があるからだ。ロードマップを示さないまま受任すると「まだ許可が下りないのか」「仕事が遅い」といったクレームを付けられる。

⑤ 適切な報告を怠る
依頼者にとって許可取得の有無は,事業計画や業績に影響を及ぼす。手続きの進捗状況に関心が高い。
適切に進捗状況を報告しないと依頼者は行政書士に対して不安を覚える。

(2) 役所(申請窓口)への対応
都道府県によって,申請の取扱いは異なる。その点を理解しないで業務を遂行すると次のようなトラブルが生じる。

①予約の有無
申請手続を行う際に予約を求める都道府県がある。

予約が必要な役所に予約なしに訪問し申請手続を行おうとしても、担当者から「予約を入れてから来てください」と言われて、受け付けてもらえないことがある。なお、東京都においては、平成28年4月1日より、新規申請については予約が不可欠となった。

②提出書類の違い
イ)部数の違い
通常,知事許可は都道府県庁へ申請する。行政書士が持参する申請書類は窓口に提出する「正本」と依頼者に提出する「副本」の計2部で足りる。

しかし、「出張所」経由で手続きを義務付けている都道府県庁もある。この場合、通常計3部を準備しなければならない(出張所への控えが追加されるため)。

この点を確認しないで本庁の役所に出向くと、担当官から「申請窓口は本庁ではなく出張所ですので、受け付けられません。出張所に行ってください」と言われて受理されない。

仮に出張所に出向いても、申請書類を2部しか準備していないと、出題所の担当官から「もう1部の書類がないと受け付けられません」と言われてしまう。

ロ)申請書類の書式の違い
基本的な書類は全国でほぼ統一されている。
しかし、都道府県の中には、一部の書類につき「独自の書式」を指定しているところもある。
その場合,都道府県が指定する書式を提出しないと,申請を受け付けてもらえない。

③証拠書類の解釈の違い
申請書類の内容を立証する「証拠書類」の解釈が都道府県によって異なる場合がある。具体的には次のようなケースである。
証拠書類の解釈を事前に確認せず,B県の計算方法を行う役所に対し,A県の計算方法によって行った証拠書類を持参しても,経験年数が認められない。

④あいまいな案件に対する独断
「経営業務管理責任者の経営経験」「専任技術者の実務経験」「営業所」等の許可要件の可否を判断しかねる場合がある。この場合,行政書士の独断で申請書類の作成や証拠書類の収集を行って、いきなり役所に申請しても,申請窓口の担当官から「この書類では、許可要件を満たしてるか判断できない」と告げられて、申請書が受理されないことがある。

2-3. トラブル防止の心得
トラブル防止の心得を依頼者と役所への対応に分けて解説する。

(1) 依頼者への対応
相談者と面談する前に,業務の「専門知識」と「業務の進め方」を習得しておくこと。そうすれば、致命的なトラブルを回避できる。

① 明確に回答する
相談者の最大の関心は「許可を取得できるか否か」、その点を「明確」に伝えること。あいまいな回答をすると、許可取得の見込みがないのに「取得できる」と思い込んでしまって、トラブルに直結することがある。

もし,現時点で許可取得が困難であっても,相談者から丁寧に聴き取りをして、将来的に許可を取得するための「修正すべき点」を明確に伝えれば、相談者からの信頼を得て、受任につながる。

②迅速に対応する(期日内に申請する)
手続きのフローを記載した「ロードマップ」を提示して、相談者に手続きに関する「現在位置」を的確に示すこと。

③費用を提示する
面談で、事実関係を聴き取り,業務のボリューム(所要時間)を想定して費用を提示する。
原則,面談で提示すること。費用を提示できなければ、相談者は依頼のしようがない。万一,受任しても,費用をあいまいなままスタートすれば後々金銭をめぐるトラブルになる。

④ロードマップを示す
ロードマップを示すことにより、依頼者は安心感を得る。依頼した手続きの流れ,大枠,現在位置を確認できるからだ。

⑤ 適宜進捗状況を報告する
自分は「作業を進めているので問題ない」と思っていても,依頼者は進行状況が気になるものだ。
「書類が集め終わりました」「申請書類が完成しました」「○月○日に申請します」「申請書類が受理されました」等,タイミングよく手続きを適宜報告すると依頼者は安心する。そして行政書士に信頼を置く。

【Column 5】結果が重要であって、手続過程の報告は不要?
時折、「顧客に報告をしても返答がないからイチイチ報告をしても無駄だ」という意見を聞きますが、顧客は通常,本業の建設工事で多忙です。返答を期待するのは恩着せがましいと言われても仕方がないでしょう。
私の経験上,顧客は返答しないことも多いですが行政書士の報告はしっかり確認しています。そして、安心するのです。報告を怠ることは顧客の信頼を裏切ることにもなります。十分注意してください。

(2) 役所(申請窓口)への対応
以下の点に注意して、担当者に真摯かつ誠実に対応することにより役所とのトラブルを防ぐことができる。

①当該手続の管轄,予約の有無、提出書類を確認する
都道府県庁のホームページもしくはメールや電話などで事前に詳細を確認する。
問い合わせをする前に,質問内容を整理し,担当者が短時間で回答しやすくすること。

②証拠書類の解釈を確認する
申請する都道府県の「手引書」を入手して熟読する。疑問が生じたら、申請書類を作成する前に役所に必ず確認すること。確認作業を行う際,まず,予断を排すること。要求されている証拠書類を直確に理解すること。

【ここが実務のポイント⑩】「手引書」の入手の仕方
従来,申請書は、手引書を該当する都道府県庁に直接取りに行ったり、郵送で取り寄せたりしていた。現在、各役所のホームページで申請書をダウンロードできる。
インターネットで、「都道府県名・建設業課」で検索すると見つけることができる。

③都合よく解釈しない
「経営業務管理責任者の経営経験」「専任技術者の実務経験」「営業所」その他の解釈に迷ったら,自分の都合のよい判断をせずに,必ず役所に確認する。
もし、確認を怠り,行政書士が独断で申請書類の作成や証拠書類の収集を行って許可取得ができなければ、当然行政書士は責任を免れない。なお,一番不利益を被るのは依頼者であることを忘れてはならない。

判断に迷う点を明確に説明できるようにしたうえで,真摯な態度で,役所の担当者に事前相談を申し込むこと。

【Column 6】役所担当者からのアドバイス
役所担当者から貴重なアドバイスをもらい,それがきっかけで許可取得につながったケースもよくあります。申請前に担当者に相談すると、許可を阻害する要因が明確になることがよくあります。それを申請前に解決することが,すみやかな許可取得の実現につながります。その結果、顧客の信頼度を高めることになるのです。

【ここが実務のポイント⑪】元請から下請・孫請への「許可取得の要望」

最近、下請業者や孫請業者から「元請から『許可をとらないと、工事を発注しない』と言われてしまいました。」という相談が増えている。この「元請からの要請の法的根拠は、以下の建設業法24条の6が中心となる。

1、建設業法24条の6の内容は、以下の(1)~(3)である。

(1)元請は、建設工事に参加するすべての下請業者が建設業法等その他法令に違反しないように、指導に努めるべきである。

(2) 下請業者が建設業法等その他法令に違反している場合には、元請は当該下請業者に違反行為を指摘して、違反行為を改めるように求めることができる。

(3) 元請からの求めに応じることなく,下請業者が違反行為を改めないときは、元請は、その事実を、都道府県知事(実際には、各役所の建設業課)に通報しなければならない。

さらに、建設業法24条の6に派生する条項(建設28, 29の5,47
0_.53) に関して,留意する必要がある。

(4) 元請が,(3)に関する通報等の責任を果たさないと、国土交通省や都道府県知事より、その違反行為若しくは不適正な事実を改めるために具体的な措置を取ることを命じる行政処分(指示処分)を受ける(建設28)。

(5) (4)の指示処分を受けたにもかかわらず、元請が、その処分に従わないときは(下請に対して具体的な措置を講じることなく、放置した場合等)、国土交通省や都道府県知事は,1年以内の期間を定めて、営業停止処分を命じることができる。

(6) 元請は、(5)の営業停止処分を受けた場合,その事実を公表されることになる(建設29の5)。

(7) なお,(5)において、営業停止処分を受けたにもかかわらず、会社の代表者や従業員等が建設業を行えば,その者は,3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられる(建設470二)。さらに,法人自体にも,300万円の罰金が処せられる場合がある(建設53)。

  1. まとめ
    本来,建設業法によると,請負金額が500万円以上の内装工事を行う場合,「内装工事業」に関する建設業の許可が必要となる。しかし、現状において,下請業者,孫請業者の中に建設業の許可を有しないにもかかわらず,500万円以上の工事を行っている場合がある。これは建設業法に違反している。

このような事態に対して,元請は,建設業法24条の6を根拠に適法に工事を行われるように、下請業者,孫請業者を指導する立場にある。逆に,元請としては、しっかり指導をしないと、上記(4)の指示処分を受けることになる。さらに、営業停止処分を受けるおそれもある。

500万円の工事が少なからず発生する現状を踏まえると,建設業の許可を持っていない業者に工事の発注することは、元請にとって危険性を伴う。そのため、元請は上記の依頼を下請にするのである。
(参考)
建設業法
(下請負人に対する特定建設業者の指導等)
第24条の6 発注者から直接建設工事を請け負った特定建設業者は、当該建設工事の下請負人が、その下請負に係る建設工事の施工に関し、この法律の規定又は建設工事の施工若しくは建設工事に従事する労働者の
使用に関する法令の規定で政令で定めるものに違反しないよう、当該下請負人の指導に努めるものとする。
2 前項の特定建設業者は、その請け負った建設工事の下請負人である建設業を営む者が同項に規定する規定に違反していると認めたときは、当該建設業を営む者に対し,当該違反している事実を指摘して、その是正を求めるように努めるものとする。
3 第1項の特定建設業者が前項の規定により是正を求めた場合において、当該建設業を営む者が当該違反している事実を是正しないときは、同項の特定建設業者は、当該建設業を営む者が建設業者であるときはその許可をした国土交通大臣若しくは都道府県知事又は営業としてその建設工事の行われる区域を管轄する都道府県知事に,その他の建設業を営む者であるときはその建設工事の現場を管轄する都道府県知事に,速やかにその旨を通報しなければならない。

 


森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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