『建設業実務家養成講座』

0 行政書士と建設業


「建設業許可の取得」は、行政書士の代表的な業務の一つである。建設業業務専門で仕事をしている行政書士も全国に多く存在する。その背景は次のとおりである。

1. 建設業許可について
建設業法では、建設業を始めるには、以下に掲げる「軽微な工事」(※)を行う場合を除き、建設業の許可が必要なことが定められている(建設3)。

 

※許可を不要とする「軽微な工事」とは、以下のものをいう(建設30,建設政令1の2)。

① 建築工事では、1件の請負代金(建設工事請負契約に基づく消費税を含む報州金額)が1,500万円未満の工事,または延べ面積が150m未満の木造住宅工事

② 建築工事以外の建設工事では、1件の請負代金が500万円未満の工事

 

建設業許可を受ける主なメリットは、次のようなことが挙げられる。

 

・今まで受注できなかった工事(「軽微な工事」以外の工事)を受注できるようになり売上アップにつながる。
・許可を取得したことで社会的な信用度が高まり、新たな販路拡大につながる。

 

2. 建設業に係る法律
建設業に関連する法律は、建設業法をはじめ、建築基準法、公共工事の品質確保の促進に関する法律、公共工事の入札および契約の適正化の促進に関する法律、住宅の品質確保の促進に関する法律等が存在する。

 

ここでは、建設業界の基本的ルールを定めていて行政書士が業務を行ううえで一番重要な建設業法について解説する。

(1) 建設業法の構造
建設業には次のような段階がある。
・建設業を始めるとき
・建設請負工事(公共工事を含む)を受注するとき
・建設請負工事を下請に発注するとき
・建設工事を施工するとき
・建設業法に違反したとき

 

そこで建設業法は、各段階に対応できるように規定している。

 

(2) 建設業法の目的(第1条)
建設業法の規制は第1条記載目的(およびそれに対する手段)から派生している。以下のように定めている。

 

(目的)
第1条 この法律は、建設業を営む者の資質の向上、建設工事の請負契約の適正化等を図ることによって、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発達を促進し、もつて公共の福祉の増進に寄与することを目的とする。

条文を目的と手段に分けると、次のようになる。

 

目的
1)「建設工事の適正な施工を確保」することにより「発注者の保護」
→粗悪な工事等不正な工事を防ぐとともに、
工事の良質かつ適正な施工を実施し、
それにより、工事の発注者の保護が図られることを意味する。

 

2)「建設業の健全な発達を促進」
→建設業が我が国の重要産業の一つである以上、健全な発展が国民経済に好影響を及ぼすことを意味する。
そして、
3)「公共の福祉の増進に寄与」することを最終の目的としている。

 

そのために

 

(3) 建設業法の目的達成のための手段(第1条)
1)「建設業を営む者の資質の向上」
→建設業の経営能力,技術・施工能力を高め、社会的信用の向上を図ることを意味する。

 

その具体的な方法として

 

建設業の許可制度(第2章)
・施工技術の確保・向上のための技術者制度(第4章)

 

2)「建設工事の請負契約の適正化等を図ること」
→建設業は受注産業であるため、建設業者の立場は弱い。
そのため、発注者と請負業者(元請)との契約関係、元請と下請の契約関係に生じる不均衡・不平等を是正し、請負業者、特に下請保護を図ることを意味する。

具体的な方法としては

 

請負契約の原則の明示(第3章)
・元請・下請関係の適正化(一括下請の禁止、下請代金の支払期日等。第3章)
3)「適正化等」
→建設業法の目的達成のための手段を、上記1)2)に限定しているわけではないことを意味している。

 

具体的な方法としては、

 

・建設工事の紛争を解決するための建設工事紛争処理制度(第3章の2)
・建設業者の施工能力等を審査・判定する経営事項審査制度(第4章の2)
・監督処分(第5章)
・建設業の改善のため調査等を行う建設業審議会の設置(第6章)

 

3. 行政書士にとっての建設業
建設業許可は取得するための要件(「許可要件」)が複雑である。そのため、申請人は手続きに面倒な書類の準備と作成を余儀なくされる。

素人が片手間でできる仕事ではない。仮に、試みても困難な場合が多い(事実、自分で申請をしたが断念して、行政書士に依頼する者も大勢いる)。

 

そこで、行政手続の専門家である行政書士の助けが必要となる。

 

つまり、建設業許可において、行政書士に期待されるのは、すみやかな許可手続の遂行である。当然、行政書士は、許可要件を十分把握し、すみやかに申請書類を作成する能力が求められる。

なお、建設業許可は、取得後も5年ごとの更新手続・毎年の決算届の提出が必要となる。したがって、許可取得で依頼者から信用を得れば更新許可申請も受任できるという継続性が期待できる業務である。

このような点から、建設業許可業務は、行政書士の主要業務の一つとなっている。

建設業許可業務の役所での手続きの流れは、以下のとおりである。

◆建設業許可等に関する役所での手続きのおおまかな流れ
① 建設業新規許可
毎年決算変更(報告)届を提出。5年以内に届出事項に変更が生じた時は変更届を提出

5年ごとに建設業許可の更新手続

 

②公共工事を発注者から直接請け負うとする場合には、①のほかに、経営事項審査(経営状況分析も含む)を受ける。
↓その後、入札参加申請

※近年、公共工事が減ってきていることから、②記載の入札参加資格申請手続の前提となる経営事項審査手続も減少傾向にある。

Column 1 経審の新たな使い方
建設業の研修会において、ある行政書士が、経審(経営事項審査)を「金融機関から融資を受ける際の資料にしたい」という話をしていました。

そもそも、経審は、国や地方公共団体から直接工事を請け負う公共工事に参入するために必要となる手続きの一つです。ただ、公共工事の件数が従来より少なくなっているので、経費をかけてまで経審手続を行わない建設業者も増えているのが現状です。
経審は、経営状況分析を国土交通大臣の登録を受けた機関で審査します。
経営状況分析以外の経営規模等評価については役所での審査を前提に、協工能力に関する客観的・主観的事項を完成工事高等の項目ごとに評点化します。その評点結果は社会的信頼性が高いといえます。したがって、客観的に会社の経営状況を表す資料(いわば、会社の成績表のようなもの)になり得ます。経審は、「公共工事参入のため」という本来の目的以外にも利用できる余地があると考えます。

4. 建設業業務の今後の展望
建設業の新規許可業者の数は減少傾向している。確かに「量的」な意味においては、建設業許可取得の大幅な増大は望めないかもしれない。しかし、以下の2つの観点から「質的」な意味で、優良でかつ技術力にも優れた新規の建設業許可取得の需要は拡大すると考えられる。

(1) コンプライアンスによる需要増
建築物は、単に完成させればよいものではない。人がより安全に利用できいものでなければならない。
耐震偽装の問題、地震対策により建設業許可を管轄する国土交通省および各都道府県庁は、ここ数年、元請業者を「二次下請の無許可業者に500万円以上の工事を施工させていた」ことを理由に、下請に対する指導義務違反として頻繁に行政指導している(建設24の6)。
また、国を挙げて、下請保護の観点から「下請代金アンケート調査」を実施し、問題がある事業者に対して立入調査等を行っている。
このことは、行政が「コンプライアンス」の観点から、元請業者に下請業者の指導義務の履行を求めていることを意味する(建設24の6)。
このような背景から、元請業者は建設業許可を取得していない下請業者、孫請業者に許可取得を強く促している。
また、建設業界は、「事業承継」「合併」「M&A」等の多くの法的問題を抱えている。

(2) 東京オリンピックによる需要増と行政指導
東京オリンピックを2020年に迎えるにあたり、建設業の需要は拡大する。
行政は、安心・安全に利用できる競技施設を施工するために、建設業者の指導を徹底していくことが予測される。

5. 建設業業務で新人行政書士を待ち受ける「3つの壁」
新人行政書士には、建設業を行うにあたり、次の「3つの壁」が待ち構えている。

 

(1) 先輩行政書士の壁
「伝統的な業務」ゆえに先輩行政書士の牙城がある。
(2) 「経験知」不足の壁
行政書士試験の科目には建設業法が入っていない(※)。そのため、ほとんどの行政書士は行政書士登録後に勉強する。しかし、建設業関連の業務は、複雑・難解なので簡単に習得できない。さらに「学ぶ機会」がほとんどない。そのため引合いがあっても「経験不足」「知識不足」が原因で気後れして受任できない者が大勢いる。
(3) トラブルの壁
知識と経験知が不十分な状態で受任した結果、業務遅滞に陥り、依頼者とトラブルになる者がいる。
中には、不手際で、「更新期日を守れない」という致命的なトラブルをもこして、依頼者から損害賠償を請求されたり、行政書士会から懲戒処分を受ける者もいる。
【ここが実務のポイント】行政書士法は大切。他士業の法定業務(特に独占業務か否か)の理解も大切
行政書士法は、行政書士がどのような業務ができるか等を規定している唯一の法律であるにも関わらず、現在の行政書士試験の試験科目には入っていない。これは、行政書士が具体的にどんな業務を行うかを知る機会が
限りなく少ない中で、行政書士試験を受験しているに等しい。
本書は、行政書士法に関するものではないので、重要なポイントのみ触れることとする。業務を行ううえで、必ずぶつかる壁であるので、この点の理解は不可欠である。参考文献を手掛かりに各自研究してほしい。
(ポイントはここ!)
押さえるべき条文は最低5つ(行書1.1の2,1の3, 19, 21)。
行政書士の業務は、相談→書類作成→手続代理等の流れで行われる。
相談の条文は1条の3第1項4号,書類作成の条文は1条の2、手続代理等の条文は1条の3にある。これらが行政書士法に定められた業務(法定業務)といえる。
もっとも、法定業務の中にも、他の法律に制限がない限り行政書士のみが独占して行うことができる、いわゆる独占業務というものがある。
独占業務とは、行政書士・法人でない者(非行政書士)が行政書士業務を行うと、原則的に犯罪となり罰則が適用となるという仕組みのことをいう。この点に関する規定は、行政書士法19条、21条にある。

② 行政書士法が定める書類の作成の「書類(電磁的記録を含む)」とは、以下の3つに関するものである。
(1) 官公署に提出する書類等(例:建設業許可を含む許認可に関する書類)
(2) 権利義務に関する書類等(権利の発生、存続、変更、消滅の効果を生じさせることを目的とする意思表示を内容とする書類。例:契約書や遺産分割協議書等の書類)
(3) 事実証明に関する書類等(社会的に証明を要する事項について自己を含む適任者が自ら証明するために作成する書類。実地調査に基づく図面類を含む。例:位置図、案内図、各種議事録、申述書等)
但し、弁護士法・司法書士法・税理士法・社会保険労務士法等その他の法律において制限されているものについては除く。
もっとも、法定業務以外でも、法律に制限がない限り、法定外の業務を行うことが可能となる。そこで、自身が受ける業務・相談が、法定業務を行っているのか、法定外業務を行っているのか、法定業務の中でも独占業務か非独占業務なのかを意識していくと、行政書士法に対する感覚が鋭くなる。
④ 他士業の法定業務(特に独占業務)の一例
業際は難しい問題だが、避けては通れない。詳しいことは、書士会の研修会等を通じて勉強してほしい。ここではポイントだけ触れることとする。業際問題を理解するには、各士業の法定・独占業務は何かを理解することがスタートとなる。次の順序で考えていくとよい。
(1)まず行政書士法上の法定業務、そのうち独占業務か非独占業務かを理解する。
(2)次に各士業の士業法(例:弁護士法,司法書士法など)から法定業務、そのうち特に独占業務(⑤.⑥)は何かを理解する。
(3) 独占業務に該当するかにつき、士業間において解釈が分かれているものもあることを理解する(ある業務につき、行政書士会は非独占業務と考えているが、社労士会は独占業務に位置付けている場合)。
以下に可能な限り他士業の法定・独占業務を挙げておいた。これを行政書士が行うことはできないので注意が必要となる。詳しくはご自身で確認いただきたい。
③ 行政書士が行ってはいけない業務その1(相談業務も同様)
●行政書士法1条の2:書面作成に関して他士業の独占業務(相談業務も同様)
1) 弁護士(弁護士法30.72,77)
裁判所での「法律事件」である訴訟・調停につき代理人としての書類作成
2) 司法書士(司法書士法3-~五730.78①)
裁判所・検察庁に提出する書類(訴状や準備書面等。告訴状等)
(地方) 法務局に提出する書類(登記申請書等)の作成
3) 社会保険労務士(社会保険労務士法20-~二,別表第1(第2条関連),27,32の2①六)
労働保険・社会保険諸法令に基づく申請書等や帳簿書類の作成
4) 税理士(税理士法20, 52,590三)
税務書類(確定申告,青色申告の承認申請等)の作成
5) 弁理士(弁理士法75 (4条の規定を受けていない),79)
特許・意匠・商標などの特許庁への出願書類・異議申立て等および
経済産業大臣への裁定請求書の作成
6) 土地家屋調査士(調査士法30-~五,680, 730)
不動産表示登記の申請書・調査測量図書の作成
7) 海事代理士 (海事代理士法1,別表第2(第1条関連), 17, 27)
国土交通省・法務局等や自治体に対して船舶・港湾・海運関係法令に基づく申請・届出・登記書類の作成
8) 建築士(建築士法3,3の2,3の3,38三)
一定種類・規模の建築設計
9) 公認会計士(公認会計士法2①)
財務書類の監査証明書等の作成
⑥行政書士が行ってはいけない業務 その2(相談業務も同様)
●行政書士法1条の3:申請代理業務に関して:他士業の独占業務
1) 弁護士(弁護士法30,弁護士法72,77)
裁判所における訴訟事件、非訟事件に関する行為
2) 司法書士(司法書士法3、730・780)
登記・供託の申請手続
3)社会保険労務士(社会保険労務士法20-~二,別表第1(第2条関連),27, 32の20六)
労働保険・社会保険諸法令に基づく申請・届出の代理
4) 税理士(税理士法20-,52,590)
税務代理
5) 弁理士(弁理士法75 (4条の規定を受けていない),79)
特許庁出願・経済産業大臣手続
6) 土地家屋調査士(調査士法30-~五,680, 730)
不動産表示登記の申請手続・筆界特定手続の代理
7) 海事代理士(海事代理士法1,別表第2(第1条関連), 17, 27)
国土交通省・法務局等や自治体に対して船舶・港湾・海運関係法令に基づく申請・届出・登記手続
8) 建築士(建築士法3,3の2.3の3,38三)
一定種類・規模の建築物の工事管理等
9) 公認会計士(公認会計士法2①)
財務書類の監査手続

森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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