英文契約書の解説

英文契約書の知識 その3


2. 有利な英文契約書を締結するには
(1) 交渉で提示される契約書案
国際取引において、取引の条件の骨子が合意された段階で、海外の相手方から送付されてきた「長く、細かく、具体的で、分厚い」契約書に、日本の当事者が、上記取引の条件の骨子に反する記述がないかのみを確認しただけで、そのほかの条項中に、自分に不利な部分が存するというのに、あるいはそのような条項が存するかどうか精査すら行わず、そのままサインしてしまうということも少なくないと聞きます。
なぜ、このようなことになってしまうのでしょうか。
国際取引の交渉においては、当該取引についての詳細にわたる当事者間の合意が全て成立した後に、契約書をまとめて文書化するわけではありません。通常は、当事者間において、取引の条件の骨子が合意されると、それから詳細な取引の条件の合意の成立までに、当事者間で、何回も、詳細な取引条件の申込み、対案の申込み、変更申入れ、承諾などが繰り返されて、最終的に合意が成立するのですが、これらの詳細な取引の条件についてのやりとりは、文書や契約書案によって行われます。
つまり、当事者の一方が他方当事者に対して、契約書案を送付し、他方当事者が、これを修正、追加、削除して、一方当事者に送り返し(ただし、相手方から送付された契約書案を拒否して、対案として自ら作成した契約書案を送付することもあります。)、また、一方当事者が、同様のことをして他方当事者に送付するという契約書案のやりとりを、何回か繰り返すことにより、最初に合意した取引の骨子を含めての最終的な詳細な取引条件についての合意に達するとともに、同時に、その最終的な合意が反映された契約書が完成することになるのです。
この詳細な取引条件についての交渉段階では、前述のとおり、海外の相手方は、取引に関して想定される権利義務、リスク等諸条件については、全て網羅して、自己に有利な主張を盛り込んだ「長く、細かく、具体的で、分厚い」英文契約書を締結すべく、自らに有利な条件を繰り返して強く主張してくることが通常です。
そして、まず、海外の相手方は、日本の当事者に対しても、先手必勝とばかりに、すぐさま自分に有利な契約書案を送付してきます。そして、それに対して、相手方から、変更や対案が示されたとしても、さらに、それを再変更したり対案を出したりといったことを、当然のように実践するのです。
一方、日本の当事者は、契約書は形式的なもので、契約書に定めのないことについては、「協議条項」を設けて、後日の話合いにより解決しようとする傾向があることについては、前述のとおりです。また、取引条件の骨子が決まった段階において、海外の相手方から送付されてくる、長く、細かく、具体的で、分厚い書面に加えて、そこに、社長又は相当のポストにある人とおほしき人物の署名までなされている「英文契約書案」には、日本の当事者をして「もう、これ以上、この契約書を変更する交渉の余地などないのではないか。」と思わせるのに十分な威圧感が存します。
また、このような英文契約書案を精査して、分析して、交渉するための時間と専門家費用を日本の当事者に計算させて、こうした作業と交渉を断念させるといった効用もあると考えられます。そのような次第で、日本の当事者が、海外の相手方から提示された契約書案については、「形だけのものだから」、「合意した取引の骨
子については反映されていることを確認したので」などとして、格別の異論を唱えることなくサインをしてしまうといったことが起こるのではないかと思われます。
しかし、契約書とは、取引についての、当事者間の条件等合意事項の一切を文書化したものです。日本の当事者が、海外の相手方に有利な詳細条件(ほぼ間違いなくそうなっていることでしょう)が記載されている契約書案を、検討・交渉もせず、そのまま契約書として締結してしまうというのは、契約書作成についての誤った対応方針であり、将来、当該取引に関しての大きなリスクを背負い込むことに他なりません。

森井 啓之

代表 行政書士

森井 啓之

東京大学法学部を卒業後、大手金融機関に入社。法務部で、民法改正への対応、リーマン・ブラザーズの破産管財人との英語での激しい交渉を経て莫大な債権回収(詳細は守秘義務)に成功。また、個人融資における遺言・相続業務など幅広い経験を積んで参りました。皆様に、迅速かつ丁寧で最高の法務サービスをご提供させて頂ければ幸いです。

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